心機一転
「それで、私はどうなったんでしょう?死んじゃってるなら今の私って、幽霊ってことですか?」
「いや、確かに『樋渡椿』という人間は死んだ。それは変えることのできない事実だが、その魂はこのルティリアーナの地で新たな人間として形成された。だから今のお主は幽霊ではないな」
「新たな人物……」
そう言われて、改めて自分の姿を見下ろしてみる。
今の今まで自分の体に違和感なんか感じてなかったから、気にしなかったけれど、新しく形成されたなんて言われたら俄然気になってしまう。
足元までの距離感と、視界の高さからして、覚えている自分の身長よりだいぶ小さい気がするし、改めて見てみれば手の感じもなんだか幼い感じがする。
椿だった時もどちからと言えば小柄だったけど、今ほど小さくはなかったと思う。
それに、本当に今気がついたけど、髪の毛は黒かったはずだよね?なんでだろう?視界の端にチラチラと映る髪の色が、目の前の神様と同じ眩いばかりの金髪なのは気のせいだろうか?
「ん?どうした、自分の姿が見たいのか?」
手を上げたり下げたり、ペタペタと顔を触ってみたりしていたら、神様が目の前に大きな姿見を出してくれた。
うそっ、なにこれ、神様って何もないところに物を出せるんだ!
「え?えええええ!な、なにっこれ…」
鏡の中に映った自分の姿をみて、私は思わず絶叫してしまった。
だって、どう見ても目の前の絶世の美形の神様の、女性版ちみっこバージョンなんですけど。
そりゃ私だって女の子ですから、ブスよりは美人が良いけど、それにしたってこれは規格外すぎるでしょ。
鏡の枠を握りしめて全身プルプルしてしまう。
「そうかそんなに嬉しいか。我は美しいらしいからな」
「嬉しいわけないでしょーーーー!!こんな美少女がその辺歩いてたら絶対拐われちゃうから!まともに道を歩けないレベルの美少女なんて、生きていくのに必要ないから!むしろちょっと可愛いくらいにしてくれませんか?」
何度も言うけど、私だって女だもん、ブスよりは可愛い方がいい。しかも新しい世界で新しく生きていく訳だし、誰も知り合いなんかいない訳だし、それならちょっとくらいは可愛くなりたいと思ったって良いじゃない。
でもこれはダメ。許容できる範囲を大きく逸脱し過ぎてる。
好色な変態ジジイとかに玩具にされかねないレベルでの美少女は、絶対受け入れてはいけないと思う。
ゼーゼーと息を切らしながら力説し、断固として拒否すると、勢いに押されたように後退った神様は、カクカクと赤ベコ人形のように首を縦に振ってくれた。
「あ、ああ。そうか、わかった。ならば、お主の好みの外見にしてみよう」
そう言うと神様は、唐突に指をパチリと鳴らした。すると、それだけで私の体が柔らかい風に包まれた。
ふわりと体が持ち上げられて、つま先が地面から離れるのが分かったけれど、不思議と怖さは感じなかった。
暖かい風に包まれるのは心地よくて、うっかりすると眠ってしまいそうになる。そんな心地よい風が髪を一撫ですると、純金を溶かしたような豪華な金髪は、淡い陽光のような金髪に変わり、陶磁器のように不自然に真っ白だった肌は、トロリとしたミルク色に変化した。黄金をはめ込んだような瞳は、サファイアブルーに色を変えていく。
色味が変わった所で、見た目もほんの少し変化した。
緩くウェーブのかかった淡い金髪に縁取られた顔は、直視できないくらいの美少女から、長い睫毛に大きな青い瞳、サクランボのような唇の、愛らしい少女に変貌していた。
「これが、新しい私?」
「うむ。どうだ?我としてもなかなかの出来だと思うぞ。程々に愛らしく。将来性を感じられる余地は十分にあるしな」
これで程々って、神様の美意識って私とはかけ離れてるのね。平坦な顔立ちの日本人だった自分の感覚からすれば、鏡に映る今の姿は十分に美人の部類に入る。
さっきまでのキラキラじゃない分、親しみは感じるけれど、ちょっと可愛すぎて面映ゆい。
「さて、後はお主がこの地で生きていくために必要なものを渡さねばな。我の頼みで花を探して各地を旅してもらわないとならぬからの、できる限りの加護を与えようぞ」
「加護?」
「うむ、神の頼みを聞いてもらうのだからな。常人には持たざる力を授けよう」
「はぁ……は?へ?ええええ!頼みって何!?そんな話聞いてないんですけど?」
サラッと当然のように頼み事を聞いてもらうとか言われてしまったけれど、そんな話どこで聞いた?聞いてないんですけど?
驚きの表情で見上げる私を見下ろして、神様もまた驚いたような顔をしていた。
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