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突然のお客様

「誰だろう?」


不思議に思ってソニキアの顔を見たけれど、どうやら心当たりがないみたい。

でも確かここには害意がある人は入って来れない結界が張ってあるはず。

そうの事を思い出して、私はカップを置くと席を立った。

だってもしかしたらカルダナ様に用がある人かもしれないじゃない?だったら私の勝手で居留守を使うのは申し訳ない。


「はい?どちら様で……」

「せんせ、帰ってきてたんだねーって…あれ?おや、まぁ可愛いお嬢ちゃんじゃないかい。まさかセンセの娘さんかい?」


閂を開けるとほぼ同時に、勢いよくドアが躍ね開けられた。

朗らかな明るい声で入ってきたのは、恰幅の良い女将さんって感じの女性だった。


「え…と」

「お嬢ちゃん一人かい?おやおやなんだいセンセ、こんな可愛い子を一人で置いておくなんて危ないじゃないか。朝ごはんは食べたかい?まだ?それじゃおばちゃんがパンを持ってきたからね、これをお食べ」


矢継ぎ早に繰り出されるおばちゃんのマシンガントークに、思わずタジタジとしてしまう。

腕に抱えていた籠を「はい」と渡されて、え?と思うまでもなく受け取ってしまったけれど、中を見れば沢山のパンと、自家製らしきジャムの瓶が入っている。

こんなに沢山もらっちゃって良いのかな?

どうしようかとオロオロ狼狽えていると、トンと軽い音がして右肩に重さをかんじた。


「ソニキア!」

「この人はヨヨさん。カルダナ様のためによくこうして差し入れしてくれたの。とっても良い人だから、安心して大丈夫よ」


狼狽えていたのを見ていたのか、ソニキアが耳元でそっと囁いてくれた。

こんな風にあけすけに親切にされたことが無かったから、どう対応して良いのかわからないけれど、お礼だけはちゃんとしなきゃね。


「ありがとうございます。これ、ありがたくいただきます」


まだほんのりと温かさを残しているパンの入った籠を胸に抱きながら、感謝の気持ちを込めて頭を下げた。

するとヨヨさんは、一瞬ハッとしたような顔をした後、ニッコリと大きな笑顔を見せてくれた。


「なんだい随分と礼儀正しいお嬢ちゃんだね。良いんだよ、またパンを持ってきてあげるからね」


スッとヨヨさんの手が向かってきて、何?と思う間も無く、ワシワシと頭を撫でられた。

両親が死んでから頭を撫でてもらうなんて初めてで、くすぐったいような切ないような不思議な感覚に包まれた。


「そういや、センセはどうしたんだい?いないのかい?」


中を覗き込むようにいわれて、返答に困ってしまう。

私自身カルダナ様のことは何も知らないから、話を取り繕うこともできなくて困っていると、再びソニキアの声が聞こえてきた。


「カルダナ様は暫く修行の旅に出ていて、その留守を預かったんだと伝えて頂戴。弟子と伝えても、知り合いの伝手でここを借りてるんだと言っても、椿が心苦しくない方を選んで良いわ」


そう言われたので、私はカルダナ様の事を直接知らないけれど、知り合いの伝手でここを借りているんだという、ソニキアの言葉をそのままヨヨさんに伝えることにした。

するとヨヨさんは、更に私のことを心配しだした。


「なんだい嬢ちゃんはカルダナ様のことを知らないのかい。それなのに一人で生活するなんて偉いねぇ。暫くここにいるのならうちの方へも遊びにおいで。ほら、あれがうちのパン屋だよ。今日急には無理だろうからね、明日のお昼ご飯はウチへ食べにおいで。美味しいシチューを作って待ってるよ」

「はい、ありがとうございます。ぜひお伺いさせていただきます」

「おやおや、本当に礼儀正しいんだね。もしかしてどこかのお貴族様のお嬢様だったりするのかい?」


私としては日本人として礼儀正しく受け答えたつもりだったんだけど、この世界の平民(?)の言葉遣いはもっと砕けているのかも。

ぎょっとしたように一歩後ずさったヨヨさんに、慌てて両手を振って見せる。


「ち、違います。私、親がいないので、礼儀だけはちゃんとしなさいって言われてて…。気分を悪くさせたならごめんなさい」


せっかく親切にしてくれたのに、嫌な気持ちにさせてしまったとションボリとしながら頭を下げたら、バフっと何かに包み込まれた。


「気分なんかちっとも悪くしてないよ。まったく、子供がそんなに気を使わなくたって良いんだよ。親御さんがいないのにこんなところで一人暮らしは寂しくないかい?なにかあったらすぐ家へおいで。いいかい?」


ギュムギュムと豊かな胸に押し付けられるように抱きしめられて、息もできないくらい苦しいのに、それがとっても嬉しかった。頭を撫でてもらったのも久しぶりなら、こんな風に抱きしめられるなんて、本当に久しぶりだ。

子供扱いされるのが嬉しいなんて、知らなかった。


「うん、一人が寂しくなったらヨヨさんの所にお邪魔するね」

「そうだよ、それでいいのさ。子供は素直に大人に甘えて良いんだからね。このヨヨさんにはなんの遠慮もいらないよ」


ギュウギュウと抱きしめられてそう言えば、ヨヨさんは嬉しそうに頷いてくれた。

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