晩御飯にサンドウィッチを作りましょう
ごちゃ混ぜ畑に足を踏み入れて、レタスに見える物を収穫する。
見た目は完全にレタスに見えるこの野菜のことを、ソニキアはレタスンって言ってた。あの緑のレースのような葉っぱはニンジンで間違いない、それをキャロロットって言うことは、日本語とか英語が微妙に変化してると考えれば良いのかな?
完全に違う名前になっちゃうと覚えるのも大変だから、この程度で済んで良かったのかも。
さて、収穫したレタスもといレタスンを使ってサンドウィッチを作らなきゃ。
夕飯がサンドウィッチって考えるとちょっと軽いけど、今日はソニキアの言う通り色々あって疲れたから、これでも十分かも。
「さて、マヨネーズってどうやって作るんだっけなー?」
サンドイッチを作るならマヨネーズは外せない。できればマスタードとか胡椒とかも欲しいけど、中世イギリスでも香辛料は貴重品だったし、ここでもあんまり出回ってないイメージがある。
「まよねーず?ってなに?」
ちょこんとキッチンの台の上に飛び乗ったソニキアが、不思議そうに私の手元を覗き込んできた。
「えーっと、私がいたところではどこ家にもある調味料だよ。卵とお酢とオリーブ油で作られてるの。一応さっき見たら材料は全部有ったから、作ってみようかなと思って」
疲れてるんだから簡単に塩で済ませれば良かったのかもしれないけれど、贅沢に慣れきってしまっている今の自分が、塩だけで味付けされたサンドウィッチで満足できるのかと考えれば、答えは否だったのだ。
神様が手を加えてくれたからなのか、泡立て器が存在していた。これならちょっと頑張ればなんとか作れそうな気がする。
「簡単に作れるの?」
「材料を混ぜるのがちょっと面倒なんだけど、そこだけ頑張れば多分大丈夫のはず」
「そう」
お料理上手ってわけではないから一抹の不安は残るけれど、待っていてもマヨネーズが天から降ってくるはずもないし、ここはひとつ頑張ろう。
卵黄だけのマヨネーズの方が濃厚で美味しいらしいけど、卵白が勿体無いし今日は全卵でいいや。
ボールは無かったけれど鉢形の大きなお皿があったのでそれで代用。
卵を割り入れて、お酢とお塩を入れる。これを完全に混ぜ合わせたら、あとは少しずつ油を入れてもったりしてくるまでひたすら混ぜる。
「随分と混ぜるのね。これでもまだ完成じゃないの?」
「混ざっただけじゃダメで、こうして泡立て器を持ち上げても、垂れてこなくなるくらいまで混ぜないといけないの」
今のマヨネーズ(仮)の状態はまだユルイ。泡立て器を持ち上げると、リボン状に垂れて跡が残る感じ。ツノが立つくらいにならないとダメだから、もうちょっと頑張らないと。これ、明日には筋肉痛になりそうで怖い。
カシャカシャとリズミカルに泡立て器を動かして、マヨネーズの完成を目指す。
何度も覗き込んでくるソニキアに漸く完成を告げることができたのは、5分以上泡だて続けてからだった。
「で、できた!やったー」
クリーム色のマヨネーズの完成に思わず歓声を上げてしまう。
だって、頑張ったんだもん。
パンだと言って出てきたのは丸くて硬いパンだったので、軽く炙ってパリッとさせてからタップリとマヨネーズを塗った。そこに採れたてのレタス改、レタスンをちぎって乗せ、ちょっと贅沢に厚切りにしたハムを乗せる。
「おおっ、サンドウィッチだ!」
パンの触感からすると、バゲットサンドに近いかな。
食パンのサンドウィッチに比べたらちょっと硬めだけれど、これはこれで噛みごたえがあって良い。
ハムを厚めに切ったからか、一つで結構お腹がいっぱいになってしまった。
空腹が紛れれば、今度は眠気が襲ってきた。急激に迫ってくる眠気の波に、最後の方は半分船を漕ぎながらサンドイッチを食べていた。
パタリと机に倒れ込んでしまいそうなくらいの眠気と戦いながら、充てがわれた部屋に辿り着く頃には、目を開けているのも辛かった。ソニキアに言われるままに寝巻きに着替えたところまでは辛うじて覚えていたが、その後のことはまったく記憶になかったりする。
チュンチュンと軽やかな鳥の声と、窓から差し込む朝日に、ああいつの間にか眠ってしまったんだなと、思い至った。
「んっ…んーっ」
ベッドの上で体を起こして伸びをすると、今までにないくらい清々しく目が覚めていることに気がついた。
ずっと朝が来るのが嫌だった。
朝が来れば学校に行かなきゃならなくて、学校に行けばアイツらに会わなきゃいけない。アイツらに会えば嫌な事をされる。だから朝なんて来なければ良いのにと、毎晩そう思いながら眠っていたのに、その事をすっかり忘れていた。
生まれ変わったからなのか、少しだけあの嫌な記憶が遠い。
モソモソとベッドから降りようとして、やけに床が遠い感じがした。
そういえば私、若返ってたんだ。と今更な事を思い出した。ついでに昨日ハムを切るときは、キッチンの作業台が高すぎて踏み台を使ったことまで思い出した。
そんなことがありながら、体が小さくなったことにすぐに思い当たらないあたり、やっぱり急激な変化に戸惑っていたんだろうなと思う。
「あら、起きたのね椿。おはよう」
キッチンに行けばソニキアがもう起きていて、既にお湯を沸かしてくれていた。
猫の手でどうやってお湯を沸かしたのかは謎だけれど、ちょっとくらいなら魔法は使えるのよ。って言ってたから、そういうことなんだと思う。
ありがたくお茶を入れてテーブルに付くと、リンゴンと玄関のベルが鳴る音が小さく聴こえた。




