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蠱毒  作者: 不覚たん
止揚編

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ラグナロク 前編

 話が決まってからは、すべてが戦いのために作動した。

 現在、街の住人は十五名。実家に帰った鈴蘭を除き、すべての天女が残った。まあ彼女たちにとっても、これは間接的に故郷を守る戦いであるし、他人事ではないのだが。

 アノジからも武器が届いた。俺には槍。先端からビームが出るという冗談みたいな代物だ。弾切れの心配がない銃剣のようなものだから、俺はこれで戦うことにした。


 戦場となるのは俺たちの街。まだ名前もついていない。

 荒川の北側。おそらく小菅かその付近であろうと思われる。

 そんなにデカくはない。メインストリートを挟んだ2ブロックほどのエリアだ。倒壊しかけたビルを補強しただけのものが防衛拠点となる。


 戦力は四つの班に別けた。

 玉田班、毒島班、マルハシ班、椿班だ。

 マルハシ班には天女を入れず、ドローンのみ。

 俺の班には龍胆、山吹、菖蒲を入れた。毒島には撫子とドローン。残りの天女はすべて椿の指揮下に入ってもらった。

 椿は面倒見がいい上、みんなからの信頼も厚い。彼女自身も遠慮なく指示を飛ばす。事前にやった訓練では、もっともチームワークがよかった。彼女なら、誰のことも見捨てないという確信もある。


 こちらの準備は万端だ。

 昼になればホムンクルスがやってくる。俺たちはそれを残らず殺す。そして世界は平和になる。少なくとも一時的には。


 もし核戦争なんてやったら、次は棒きれと石で戦争するハメになる。

 アインシュタインはそう警告した。

 しかし実際のところ、俺たちのやる戦争は原始時代のそれでさえなく、魔法を使った神話的なスタイルとなった。人類が勝手に滅んでしまったので、この世と交渉を絶っていた神々が戻ってきたからだ。

 一連の騒動は、俺たち人類の責任でもある。やはり傍観者ではいられない。


 *


 路上には展開しない。

 おのおの建造物に身を潜め、俺たちはホムンクルスの襲来を待った。

 エレメント・ゼロの探知機は各所に配置している。もし連中が近づけばすぐに分かるはずだ。


 玉田班が待機しているのはゲームセンターの三階。

 剣の柄を握りしめ、緊張した顔の龍胆。刀を床に置き、座して瞑想する山吹。入念に銃剣を手入れする菖蒲。この三名が、俺の頼もしい仲間たちだ。

 もし探知機に引っかかれば、侵入経路と規模が即座にネットワークで共有される。分かったところですぐ混戦になるのだが。


 だが探知機より先に、天女たちが反応した。三名とも同じ方向を見つめている。

 来た。

「よし、始めよう。命令はひとつ。死なないこと。以上、絶対遵守で頼む」

 すると方々から「はい」と返事が来た。それぞれ緊張していたり、落ち着いていたり、バラバラな態度だ。

 なんであれ、自分のベストを尽くすしかない。


 やや遅れて、壁のディスプレイにワトソンからの報告が来た。地図を見る限り、円状になって全方向から詰めてきている。数は千体。

 どうやら本気で殺しに来ているな。勝てるかどうか怪しくなってきた。

 例の埴輪の兜をかぶり、ぐっと紐を縛った。相変わらずクソ重い金属鎧だ。しかし身を護るのにはいい。槍を掴み、窓際から外を覗く。


 白く輝く空が果てしなく広がっている。

 遠方には、たなびく筋状の雲のように、じわじわと迫るホムンクルスの群れ。ここからは確認できないが、彼らはこの近辺をぐるっと囲んでいるのだという。

 世界の終わりみたいな光景だ。

 だが、そうじゃない。すべてを始めるための戦いだ。


 菖蒲も窓際に近づき、銃口を外へ向けた。

「来たら撃つよ?」

「いつでもいい。任せる」

 すると彼女はにこりと笑みを浮かべ、力強くうなずいた。

 最初は慌てていた彼女も、いまではだいぶ頼もしくなった。


 ハッキリ言って、無傷で勝てるとは思っていない。当然、負傷者は出るだろう。天女は腕や足がどうなっても耐えるから、それが致命傷でない限りは捨て置くことで合意している。

 倒れた仲間を助けていると、それが隙になってしまう。かくしてダメージが連鎖すれば、チームはあっけなく壊滅するだろう。敵は仲間の死などなんとも思わないような連中だ。こちらも相応の覚悟で挑む。


 少女だか少年だか分からないが、顔が見えるほど接近してきた。美しいが、どれも人形のような無表情だ。白と青の前掛けをしている。

「撃つよ」

「了解」

 ふっと魔力がうずまき、銃剣の先端から光弾が飛翔した。それは鋭くホムンクルスの胴体を貫き、容赦なく大地へと墜落させた。


 ホムンクルスたちも臨戦態勢に入った。

 標的も定めずに手のひらを向け、手当たり次第に光の矢を放たんとする。

 空一面に黄金色の大輪が咲いたような美しさだった。

 放物線を描いて降り注いだ矢は、雹のようにコンクリートを叩き、そして大地へ落ちて砕けて消えた。

 ボロボロと嫌な音を立てているのは、もしかするとビルが細かく崩落しているせいかもしれない。


 俺も身を乗り出し、槍の先端からビームを放って敵を薙ぎ払った。

 まっすぐな光線だ。手応えなんてまるでないのに、バターを切るようにホムンクルスの胴が上下に裂けた。凄まじい威力だ。しかし体の消耗も激しい。生気を掃除機で吸い取られるような感覚に襲われ、急激な虚脱感のせいで思わずフラついてしまった。

 しかも派手にやったせいで、敵に居場所を知られた。


 ホムンクルスは光の矢を放ちながら、次々こちらへなだれ込んでくる。慌ててシャッターを下ろしたが、構わず激突して来る。ガァン、ガァンと、怒りが伝わってくるようなぶつかり方だ。

 俺は仲間たちに手で合図をした。


 次は四階へ移動する。

 渡り廊下を使えば、隣のビルへ移動できるはずだ。ホムンクルスが必死になって壁に激突している間に、側面から攻める。


 ディスプレイはそこら中に貼り付けてあるから、表示で戦況を知ることができる。まだ死者はいない。

 しかし銃を搭載したドローンはほとんどが撃ち落とされてしまったようだ。隠れて戦うならともかく、敵の得意な空中戦を挑んだのだ。こうなるのも仕方あるまい。

 となると、ジョンには例のズッキーニしかなくなる。焦ってミスなどしなければいいが。


 毒島班も、椿班も、いまのところ無理せず散発的な攻撃に留めているようだ。なにせ今回の標語は「安全第一」だ。これでいい。

 天人のこしらえた武器は、どれも遠距離攻撃が可能だ。


 渡り廊下を抜けたところで、俺は思わず足を止めた。ホムンクルスが入り込んでいた。さすがに数が多いだけあって、とにかく入れそうな窓から入り込んだものと思われる。俺はビームを使わず、槍で突き込んだ。

 方々から放たれた矢が鎧にぶつかったが、どれも貫通しない。


 未使用のフロアだけあって、荷物がない。よって遮蔽物もない。俺が盾になるしかない。

 なのだが、山吹が駆けた。音もなく、疾風のようなはやさだ。駆け抜けたかと思うと、すでに納刀していた。ホムンクルスたちは不思議そうな顔のまま盛大に出血し、その場に崩れ落ちた。

 龍胆も前へ出た。剣を振り回し、涙目になっての攻撃だ。いや、もう剣に振り回されているようにも見える。隙だらけだ。彼女を狙っていたホムンクルスを、菖蒲が膝立ちで狙撃した。

 互いに隙を補い合っている。

 俺も敵の攻撃を引きつけるべく、なるべく大袈裟に槍を振るった。さいわい、店舗用のフロアなので天井も高い。好きに暴れることができる。床が抜けなければ。


 俺は敵の集中砲火を受ける前提で、とにかく槍をぶん回した。おかげでカンカンと各所を小突かれまくっている。窓からは、いまなおホムンクルスが乗り込んできている。それを菖蒲が狙撃する。間隙を縫って山吹が駆ける。龍胆もとりあえず頑張っている。


 ホムンクルスは混雑した窓を避けているようで、このフロアだけに殺到するというようなことはなかった。というより、ある程度のところでなんとかシャッターを落とした。

 俺は最後のホムンクルスを突き殺し、床へ蹴り倒した。

「みんな、無事か?」

「なんとかね」

 菖蒲が肩をすくめた。

 床は死体だらけだ。そして足の甲まで浸かりそうな血の海。

 すっ転んでいた龍胆が、なんとか立ち上がった。

「無事です!」

「わたくしも」

 涼しい顔の山吹だが、かなりの量の返り血を浴びている。


 ともあれ、フロアを移動して戦うプランだったのだが、この調子ではどこもホムンクルスだらけであろう。こんなことなら、すべてのシャッターを落としておくのだった。しかしそれだと、今度は開いてる窓に攻撃が集中してしまう。

 避けがたい事態だった。


 俺は壁のディスプレイの血を拭い、戦況を確認した。

 味方に死者はない。

 どの班も、最初の位置から移動していないようだった。椿の行動はそれでいい。戦闘に不慣れな天女を死なせないためには、それが最善だ。ドローンを失ったジョンもやむをえなかろう。しかし毒島はなにをしているのだろうか。改良したショットガンを持っていたはずだ。防戦に忙しいのか。


 ふと、ワトソンからアナウンスが入った。

「お知らせします。椿班が待機中のビルにて、倒壊のリスクを検知しました。早急に避難させてください」

「倒壊? すぐなのか?」

「十分前後と推測」

 クソ。廃墟を補修しただけではやはり限界があるか。しかも外からぶっ壊そうとするヤツまでいるしな。

「ええと、それじゃあ……どこかに誘導できないのか?」

「屋外に危険生物が多数存在するため、このまま誘導することはできません。警察への通報をオススメします」

「ふざけんな! 警察? じゃあ通報してくれよ!」

「現在、ネットワークがオフラインのため、実行できません」

「オーケー。じゃあ外の危険生物は俺がなんとかする。君はなんとかビルが持つよう、プランを考えておいてくれ」

「その命令は実行中です」

 賢くて助かるよ。

 俺は振り返り、仲間たちに告げた。

「聞いての通りだ。外へは鎧を着てる俺が行く。君たちはこのビルの連中を頼む」

「待ってください! 無茶です!」

 龍胆が血まみれの手でしがみついてきた。

 実際、無茶だろう。

 俺ひとりで外の連中を引きつけて、椿たちを別のビルに避難させるのだ。それも、十分以内に。

 菖蒲も近づいてきた。

「あたしがサポートするよ」

「ダメだ。君まで狙われる」


 するとワトソンが空気も読まず会話に割り込んできた。

「お知らせします。未確認の生命体が接近中。注意してください」

「マジか……」

 聞いてねぇぞ。注意してどうにかなるのかよ。味方だったら嬉しいが、このタイミングでアノジが参加するとも思えんしな。天界の連中は参加しない約束だ。もし破ったら、この戦いそのものが否定される。未確認の生命体ってことは、きっと敵の増援だろう。

 アルファのヤツ、こんなに本気で仕掛けてきやがるとは。


 いや、いい。どうせ死ぬならカッコつけて死んでやる。できれば生き残りたいが。

「外へは俺ひとりで行く。君たちはこのビルを頼む。命令だ」

「……」

 引き留めようとする菖蒲を、山吹が制した。

「わたくしたちも、すぐにお側へ参りますわ」

「縁起でもないことを言うんじゃない」

 とはいえ、素直に送り出してくれるだけマシか。


 俺は彼女たちに背を向け、階段をおりていった。下のフロアは完全に閉じているから、ホムンクルスに遭遇する心配はない。外に出るまでは。

 想像以上にハードな状況になってしまった。まあ、互いの存亡を賭けた戦いだ。こうもなろう。

 まあチートくさい槍もあるし、精一杯やればなんとかなるだろう。ならなかったらあとは知ったこっちゃない。なにせそのとき俺はもう死んでるんだからな。


(続く)

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