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第8話 得難き日々

 カイルは足元で周囲の警戒、ミケルは樹上を渡りながら高い位置から周囲を警戒してくれる。

 短距離ならば二人はお互いの情報のやり取りをすることが可能で、レーダー類は使用不能、目視と音などを利用した索敵、安全確認を行ってくれている。


「ん? この先谷があると……ありがとう」


 カイルが簡単な合図サインを使って情報を伝えてくれる。

 こうして俺は安全に周囲の地図ずくりを地道に続けている。

 もちろん拠点の農作業やら動物の世話も行わなければならないが、個人的にここの生活に非常に満足しているので、時間はいくらかかろうが気にしない事にしている。

 もちろんただのんびりしているわけじゃなくて、事態が進行していることもあった。

 谷間や山肌からいくつか利用可能な鉱石を手に入れることに成功していた。

 驚くことに鉄や銅などの鉱石を少量ながら掘ることが出来た。

 これらの鉱石から鉄を抽出するのには古典的な方法を用いる。

 熱に耐えうる炉を作り、ふいごによって加熱融解させ、それを繰り返すことで鉄としての純度を上げていく方法だ。

 とにかく人手も時間もかかる、炉を作る熱に強い石を使っているとはいえ、超高温にするのは不可能、半融解状態から鍛え上げていくことになる。

 製鉄所兼加工所の完成にはかなり時間を必要になった。

 石材加工が未来技術で簡単にできなければ、簡単に鉄利用は出来なかっただろう。


「よし、これで農作業も楽になる」


 鉄によって農地を耕す道具に革命が起きる。

 木製の鍬でせっせと耕していたのだが、てこの原理で簡単に耕せる農具を作り出す。

 とっても原始的な農具だが、これで腰の痛みから少しでも解放されるのならありがたい。

 それなりに細かな鉄の細工が必要だが、型を石に刻むのは未来技術によるレーザーカッターなので、それなりの物が出来上がる。

 軍属の時に過去の苦労を知るという実習で鍛冶も体験していて良かったし、太古の農業や鍛冶など生活の仕方に興味を持ってしばらくどっぷりとハマっていたことが役に立つ日が来るとは思わなかった。

 過去の人たちの苦労を自分がすることで、現在の生活の快適さ、そこに至る過去の人々の多大なる努力を考えると敬意しか生まれず、その感謝の心を得られることが俺にとっては大事なことに感じていた。あの頃は……


「結果として今こうやって役に立ってるだから、言うことなし。

 先人の知恵に感謝だ」


 人の手で作物を育てるなんてことも、よっぽどのもの好きでなければ知ることもない。

 機械に任せればあっという間に労力もなく食糧は手に入る。

 軍属で特殊環境に放り込まれることが多い我々でも、食べられるかを判断する知識は持っているものが多いが、その場で農業を始める知識を持っているのは俺くらいだった気がする。


「こんなに楽しいのに、農業……」


 今日はとうとう芽が出てくれた。せっせと雑草を取って水を撒いていく。

 あー楽しい。

 鳥たちも元気だ。子供も生まれてピーピーと元気いっぱいだ。

 今では餌をくれる人という扱いになって親たちも俺が小屋に入ると足元に群がってくる。

 餌も森を探せばすぐに見つかるからそれをエサ入れに入れて、水入れを清掃してあげる。

 あー楽しい。

 豚たちは大食いだがその足元が素晴らしい農地になると考えるとお世話も苦にならない。

 正直味を知りたいからもう一匹見つけたら食っちゃうぞ。

 あー楽しい。

 鉄を使って日常品を作ってみた。

 あー楽しい。


「毎日が楽しすぎてつらい……」


 俺に合いすぎだろここでの生活……

 周囲の地図も少しづつ広がっているが、どうやら俺以外の知的生命体には遇えていない。

 ホープの素材問題、エネルギー問題は全く進んでいない、一応鉄や銅を提供しているが……

 いつになるやら、少なくとも今のペースでは俺の寿命内に修理は間に合わないと思う。

 せめてナノマシンの機能不全回復の手立てでも発見できなければ逆転の目はないように思う。

 エネルギー問題は、風力発電を取り入れようかと思っている。

 湖があるせいで森からいい風がいつも吹いている、光発電装置に銅線をコーティングして残っている素材を使えば可能だと思う。

 エネルギー供給が少しでも増えれば事態の改善も起きるかもしれない、起きるといいな。

 すごく時間をかければ簡易的な火力発電なんかも作れるだろうし、生涯をかけたプロジェクトになりそうだ。


「このままこの星で老衰していくのも、悪くないよな……」


 本気でそんなことを考え始めてしまっている。

 生活の場所にホープから取り外した生活用家電が機能し始めて、すっかり快適になっている。

 今の現状を遭難というのは、遭難者に失礼だな。

 高級リゾート地で自給自足体験をさせてもらっている、早期リタイアした大金持ちみたいな生活をしている。

 しかも、この星で生活していれば、くだらない決め事なんかも、監視する者も、取り締まる者もいない自由を満喫している。


「うーん、考えれば考えるほど一山当てて手に入れようとしていた生活をしているな……

 願わくば可愛い奥さんと子供がいれば言うことが無かった…… 」


 ほんとうにそれぐらいだ。


「お前らがいるから寂しくはないんだけどな」


 俺の膝の上でミケルがいやいや俺に撫でられている。

 精神面のストレス解消に仕方がないと撫でさせてくれるようになった。

 今はカイルが周囲の警戒に当たってくれている。

 子犬子猫が交代で俺と一緒にいてくれている状態だ。

 俺の私物に入っていた膨大な映像データを見れば暇も潰せるし……

 

「最高の余生を手に入れてしまったな……」


 満天の星空を見上げながら、俺はそうつぶやく。


 このまま、余生を穏やかで充実した人生が待っている。そう思っていた時期が俺にもありました。


 タンターン。

 ミケルが尻尾で強く俺のモモを叩く。

 その合図サインが告げる内容は……


 敵襲だ。



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