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第5話 探索

 目の前に広がるのは美しい自然の風景だった。

 宇宙服越しだが確信できる、この場所には生物が生活できる環境が存在している。


「カイル、ミケル……ここは……生活可能な星なのか?」


「ワンワン!」「ニャーニャー!」


 二匹は肩から飛び降りると自分の周りをぐるぐると回っている。


「コレとっても平気?」


 二匹はコクコクと頭を振る。

 俺は意を決してマスクを解除する。

 

 土地と草の香り、それに混ざる花の香り優しく心地よい風……

 五感全てがこの星の素晴らしい自然を感じて喜んでいる。


「凄いな……これは……」


 そう振り返り、また言葉を失ってしまう。

 グランドホープ号の惨状を目の当たりにしてしまったからだ。

 船体の半分以上が湖に沈みながらもギリギリで外部ハッチが陸地に引っかかっているような状態だ。


「ホープとは繫がっているんだよな?」


 コクコクと二匹は頷く。良かったホープはまだ頑張っている。

 注意深く観察していると外部装甲が少しづつ回復している。


「俺の声も聞こえてはいるんだよなホープ。お前のおかげで助かった。

 今は艦体を修復することだけを考えてくれ、俺らでも素材になりそうなものが無いか探してみる。

 何かあればカイルとミケルを通じて連絡をくれ」


「にゃーん」


 ミケルがわかったと言うように返事をしてくれた。

 それからホープの船体を隠す光学迷彩シートを張ったりと額に汗を浮かべながら頑張った。

 半分以上が湖の中だったが、宇宙服は問題なく水中活動が可能なためにそれほど問題にならない。

 巨大な船体を全て包み稼働させると明らかに周囲と釣り合いの取れていない宇宙船が綺麗に消えていく。注意してみればゆがみも感じるが、とりあえず姿を隠せる。


「しかし……どういう状態でここに落ちたんだ? 周囲に船体が不時着したような痕はないよな……」


 まるでそこに置かれたようにホープの船体が横たわっていた。

 湖の底も含めて周囲へのダメージがなかった。


「信じられない事ばかりだ……そもそもこの星がなぁ……」


 外はすっかり暗くなっている。

 念のためにホープ艦内で食事をとっている。

 俺の周りにはカイルとミケルが丸くなっている。

 二匹もほとんどの機能が停止している。分体サイズでホープとの通信が出来るし、こちらとの意思疎通も出来るので孤独感がなくていい。

 エネルギー温存のために非常用照明の艦内で小型照明の光の下でインスタント食品を食べている。

 外の景色をちらりと見たが、見たこともないような美しい星空が広がっていた。

 この美しい未知の星を探ることに、俺は興奮を隠せなかった。

 

「この星を報告できれば、間違いなく億万長者の仲間入りだな……

 それ以前にやらなければならないことが山積みだが……」


 しかし、俺の心を占めているのはもっと違うことだった。

 誰も踏み入れていない自然あふれる星を調査する、探検することが楽しみで仕方がなかった。

 森の奥に何があるのか考えれば胸が躍る。

 湖に住む生物を捕らえてみたいという好奇心が跳ねまわっている。

 満天の星空の下にキャンプを敷くことを心待ちにしている。

 そう、俺は興奮しているんだ。


「すべては、明日からだな……」


 俺は興奮の焔を胸に抱きながら、無理矢理にでも眠りにつくのであった。

 目を覚ますと飛び起きて朝食のレーションを咥えながら外に出る。

 そーっと外を伺うと、霧が出ていた。

 湖面と森に霧がさしている姿は美しかった。なんというか、神秘的な空間に迷い込んでしまったように錯覚する。


「にゃー」


 気がつけば足元にミケルとカイルがついてきていた。

 

「おはよう二人とも、特に変わったことは無いかな?

 問題がなければまず周囲の地図を作っていこうと思う」


 問題はないよと二匹がうなずく。

 昨日気がついたんだが、簡単なやり方ならモールス信号でやり取りが出来る。軍隊時代に何度かやっていた。

 簡易的な意志はいくつかサインを決めている。

 Yesなら頷く、Noなら首を振るみたいな感じだ。 

 個人的にはあまりなってくれない子犬子猫モードでずっと一緒にいられて鼻の下が伸びそうなんだが、それをやると主にミケルがすごく嫌がるので我慢する。

 隙あらば撫でまわしているのでばれているとは思うけどね。

 初歩的なタブレット端末を利用して周囲を撮影しながら地図を作成していく。

 最新鋭の物であるほどマイクロマシンを利用してあり使用できない、数世代前の品々を利用してマッピングを進めていく。


「久しぶりに手動でドローンを飛ばしてみたけど楽しいなこれ」


 今はドローンを飛ばして高所から周囲地形をマッピング中だ。

 どうやら周囲の森はかなり大きく、湖を中心に全方向に森に包まれている。

 ホープの艦首方向を仮の北とすると、西方向に大きな山脈が連なっている。

 そして北方向に進むと森の木々に雪などが見受けられた。


「雪があるということは雨などもありそうだな……空には太陽みたいな星もあって……

 地球に近い気候が存在していそうだな……」


 その計り知れない価値に思わず身震いしてしまう。

 人類の故郷である地球。万が一その星にかなり近い惑星であった場合億万長者どころの騒ぎではない。

 

「二人ともこのままドローンによる調査をしてもらっていいかな?」


 コクコクとうなづく。操作レバーを咥えてドローンを操作する二匹に破顔しそうになるがぐっと我慢して自分の足で森へと踏み込んでいく。


 森へと入ると一層の緑の香りと涼し気な空気が体を包み込む。

 見回すと周囲は様々な木々が立ち並び、数限りない種類の草花が茂っている。

 試しに近くにあった低木に実っている小さな赤い実を指で潰してみる。


「……甘い、酸味の効いた甘味で、悪くない……」


 自然に存在する果実の味は想像以上に美味しかった。

 豊かな自然に囲まれた木々の間にいくつもの果実を発見できた。

 慎重になりながらも、好奇心は抑えられない。

 色鮮やかな瑞々しい果実を袋に収めて一旦ベースへと帰還する。

 ミケルとカイルに分析させ食用になるかどうか確かめることも難しい状況、旧式の分析機器を引っ張り出して久しぶりに使用し、各種森の幸を分析する。

 とりあえずいくつかのキノコは毒性を持っていたことが分かったが、ほとんどの物が食用可能ということが分かった。


「それにしても、ホープの補修が随分とゆっくりだな……」


 自分が持つ小さな照明によって照らされる真っ暗な船内、補修が進んでいるようには感じられなかった。


「ニャー」


 ミケルがトントンと前足で信号を送ってくる。


「ホシュウ・コンナン・ゲンジョウ・イジ・ゲンカイ……」


 これは非常に拙い。

 全てを補修に回して現状維持で限界。


「わかった。俺の生活も外部で行う。

 生活に用いるエネルギーも全て補修に回そう。

 材料はもう少し待ってくれ、必ず何とかする」


 明日からは、外で生活できる準備を始めていかなければならない。

 不安は大きい、それでも、その不安を遥かに凌駕する道への好奇心が俺の心を高ぶらせていた。




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