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第4話 引力

 それからの数日は淡々と過ぎていく、3人は船体の修理に全力を挙げている。

 俺はその後のことを考えて体調を万全に整えていく。

 宇宙空間で漂流しているという事実以外はなんとか穏やかに過ごせている。


「ワタリ、ようやく通常航行が可能になったよ」


「それは素晴らしい、皆お疲れ様」


「ほんとクタクタだわ……しばらくのんびりしたかったけど、まだまだかかるわ」


「そろそろ物資補給も視野に入れないとな、完全な修理にはまるで物が足りない」


「今後のことを話したいから一部でもいいから操縦席に来てもらえるかな?」


「すぐいくよ」


「わかったわ」


「了承した」


 カイルとミケルはそれぞれ子犬と子猫の姿の分体を俺の足元についてこさせる。

 他の部分は修理を続けている。何度見ても可愛くて仕方がない二匹を抱き上げて操縦席へ向かう。

 操縦席に腰かけ、膝の上に二匹を乗せてホープと話し合いを開始する。


「船体の修理は順調ではあるが、そろそろ応急処置も限界なのも事実で、出来れば落ち着いて物資を回収して修理を行いたい。

 ただ、周囲の星で着陸可能と判断できる場所はまだ見つからない……

 座標に関しても、通信に関しても今だ手掛かりなしというのが現状です」


「流石に数日で大きな変化はないか、それでも修理が進んでいることは素晴らしいな、三人とも本当にご苦労様」


「でも早く降りられる星見つけないと限界が来るわ」


「そうだね、最低限のプラント設備以外は使用してしまったからな……」


「それでも良くあの状態からここまで……ッ!?」


 ガタン。宇宙空間を旅する際に衝撃を受けるということは非常に敏感にならなければいけない、小さな衝撃に感じても致命的な事が生じていることも少なくないからだ。


「ホープ! 今の衝撃はなんだ?」


「外部船体に異常なし、船体内部に新たな異常は起きていない……船体速度が上昇中……

 これは……本艦は、引っ張られている!」


「周囲に重力が発生しているのか?」


「いや、明らかに船体が引っ張られている! まるで不可視のロープでもつけられているみたいだ!」


「抵抗できないか? あとどこに引かれているんだ?」


 モニターに表示される外の背景がどんどん加速していく。


「逆推進も無駄だ。仕方ない、バリアを短時間起動する!

 ……駄目だ……わからない、原因不明、加速継続中……」


「これは、ワープ速度に達してしまわないか?」


「今の船体状況でワープ速度は危険だわ」


「カイル、ミケル申し訳ないけど融合してくれ少しでもワタリが助かる可能性を上げたい」


「わかったわ」「了承した」


「三人とも、無事にまた会うぞ!」


「当たり前ですよ。全エネルギーを艦体保護に回します」


 再び船内が非常灯に包まれる。モニターから外の映像が消え、無重力状態に戻る。

 操縦席にしっかりと体を固定して宇宙服を展開する。

 

「前方にエネルギー反応、間違いない、ワープホールだ!

 ワタリ衝撃に備えろ3・2・1・0……」


 ドーン! という衝撃が艦体に叩きつけられる。

 俺もその衝撃に歯を食いしばって耐える。

 体感加速はどんどんと増して、身体にすさまじいGを感じる。

 

「ぐっ……打ち上げでも……こんなGは……」


「ワ……リ……重力……低下……」


 聞こえる声も中身を理解できない、そして次の瞬間意識が飛んでしまった。

 ブラックアウトを起こしてしまったのだ。

 ナノマシンが注入されている状態でのブラックアウトは久しぶりだなぁ……

 俺は暢気にそんなことを考えながら意識を手放した。



「くっ……どうな……った……?」


 ようやく目を覚まして薄目を開けると赤く明滅するモニターが目の前に広がっている。

 ぼやけた目が赤い光に当てられてうまく文字が読めない……


「ホープ、どうなってるんだ今は?」


 返事は無い。


「カイル、ミケル? ……ホープ、どうした!?」


 ようやく目が慣れてきた。

 真っ赤なモニターには文字化けして読むことのできない滅茶苦茶な文章が表示されている。

 俺の呼びかけにグランドホープ号からの反応もない。

 

「どうなっているんだ……ワープからは出ているんだと思うが……」


 とりあえず重力を感じている以上ワープ空間である可能性は低い、それにしても、疲労感というか体が重い。失神した直後だからと思っていたが、いくら何でも回復が遅い……


「ん……? 視力強化が効いてなかったよなそういえば……」


 目覚めてしばらくめまいとぼやける状態になっていたことを思い出した。

 体内のマイクロマシンはそういった異常を迅速に回復してくれるはずだ。


「まさか、マイクロマシン異常状態……虫どもの使ってくる奴か?」


 俺はその状態に心当たりがあった。

 ある種の特殊な虫たちはこちらの機械兵器、マイクロマシンの機能を妨害させる空間を作り出すことが出来る。

 その虫に出会った場合古典的な武器での戦闘を強いられ非常に危険だ。

 完全な停止をしているわけではなく、一説には個々の情報伝達を妨害する効果があるマイクロマシンを散布しているのではないかと予想されていた。

 最新鋭の軍用マイクロマシンならば多少抵抗できるはずだが、ホープ、カイル、ミケルなら何らかの反応があってもおかしくないとは考えていても、不安な考えが広がってしまう。

 気がつけば小走りになって格納庫へと飛び込んでいた。


「うおっ!」


 ドンッと胸に何かが飛び込んできた。

 見慣れた子犬と子猫、カイルとミケルだ。


「二人とも無事だったか!」


「にゃー」「わんっわんっ」


 二匹は首を振りながらまるで猫や犬のように鳴くばかりだった。


「話せないのか……?」


「にゃう~」「わん……」


「本体は……そうか、ホープと同化していたな……この現象が止まらないと……」


「ワンワン!」


 カイルが俺の宇宙服をかじって引っ張っていこうとする。

 ミケルも尻尾で先に進むように促してくる。


「こっちへ行けって言うのか? しかし、こっちは外部へ出る出口だぞ?」


「わんわん!」「にゃーにゃー!」


「わかったわかった! 外に何かあるんだな……」


 外部へとつながる通路に出て何が起きても大丈夫なように準備をする。

 この状況でも使える武器や道具は随分と制限される、それこそ原始的なナイフなどの類になる。

 それでもないよりはましだ。


「開けるぞ、二人とも気をつけろよ」


 二匹を肩に乗せてゆっくりと外部へとつながる分厚い扉を押し開ける。



 そこに広がる光景に、俺は言葉を失った……


「……森……、それに、湖……」




 

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