第31話 旅立ちの時
旅立ち、といえばカッコいいが、フル稼働したホープが居る。
今は女性の型を採っているが、本来は宇宙船だ。
いざとなれば空を飛んでビューンと移動してしまえばいい。
そう考えていたのだが……
「やはり、何かが干渉して来ますね。陸路ならともかく、空路はお勧めできません」
謎の存在が、邪魔するらしい。
「まぁ、陸路を旅するほうが冒険っぽいけど、なんかゲームのプレイヤーになって運営からルールを定められているような感じだな……」
「ああ、その表現はとても的を射てますね!」
「ゲームと言えば魔物たちで今チェスが流行ってるわよ」
「俺は将棋派なんだけど……」
「その割にはホビたちにコテンパンだったじゃない」
「ぬぐっ、子どもたちつえーんだよ」
「ふーん……ま、私は負けてないけどね!」
「ワタリは弱いですから」
「ホープ、容赦ないな」
「その割に作戦立案とかはAIをも凌ぐんだから意味がわからないんだよねぇ……」
「頭の使うところが違うのよワタリは……たぶん……」
4人に言いたい放題言われている。
荷造りしているのを良いことに……
ホープやカイル、ミケルがいるので別に荷物の管理なんて任せてしまえば良いのだが、むかしからなんとなくこの作業が好きなんだ。
完全に機能を取り戻した3人がいる以上、物質的なことで困ることはなくなった。
ホープいわく、本星の重工業工場と大差がない事もできるようになったそうだし……、しっかし、俺は国同士の戦争でもするのかって戦力を有したことになるのか、それを完全に面白半分に押さえ込む存在が居るっていうんだから、宇宙は広いな。何者なんだろう?
「ホープ、何者かの干渉ってどんな感じなの?」
「分析不能ですね。抽象的な表現で申し訳ございませんが、次元が違うというのはこういうことを言うのだなと、過程を省略して結果が組み込まれている。そんな感じですね」
「まるで魔法だな」
「いい表現ですね。魔法使い」
「天から見てる魔法使い様に旅の無事でも願いますかね」
「ワタリはいつまで荷造りしてるのよ、そろそろ行くわよホビたちも待ってるんだから」
「ああ、もう終わる。よいしょっと!」
古臭いかばんに荷物を詰めて背負う。
これがないと冒険感がないからな。
「全く、手ぶらで行けるんだから手ぶらでいいじゃない……」
「まぁまぁメリナ、男の子はいつまでもそういうところがあるのよ」
メリナの道具はミケルが収納している。
俺のメイン道具たちもホープが収納してくれている。
「新型ナノマシンボディ……凄いな……」
生体でなければどんな物質もナノマシンで原子分解して取り込んで、取り出すときは再構築する。
カイルやミケルのナノマシン体の最大のデメリットであった超重量問題も反重力によって完全に解決された。ホープいわく……
「なんかできるようになってました、理論は全くわかりません。
ただ、『出来る』状態になっていました」
よく漫画とかアニメに有るアイテムボックスってやつだな……
反重力とか人類の夢なんだが、理論がわからなければどうしようもない。
その動力で宇宙とか飛べるのかと言うと、そういうわけじゃなくて、完全アイテムボックス用にカスタマイズされて与えられているとのことだった。
「誰かの作ったゲームの中のキャラになったらこんな感じなのかもな」
ふとそんな事を思った。
世界なんてそんなもんなのかもな……だったら、もう勝手に楽しませてもらおう。
「さて、行こうか!」
部屋を出ると村の人達がわーっと集まってきた。
湿っぽい別れより、旅立ちを祝ってもらうほうが性に合うので、嬉しかった。
今ではすっかり多種族が同居している村、いや、街になった。
始めの頃からの発達を思い出すと少し目頭が熱くなる。
ホビたちと拳を合わせてこの町を任せる。
「ワタリ殿……メリナ様を頼みました」
バリアントは、鼻水と涙で顔をぐちゃぐちゃにしている。
「ああ、任された。バリアントにはホビたちの良い相談役となってこの場を任せるから、帰ってくるときまで頼んだよ、相手を見誤って下手打つなよ」
「手厳しいですな。もうあの時のようなミスはしません」
「頼んだ」
「バリアント、行ってくる!」
「メリナざまぁ……!!」
「わー、よせ! 鼻水が!!」
「ワタリ、帰ってきたときには一本取るからな」
「ホビリン、俺も負けないよう鍛えとく」
がっしりと熱い手をにぎる。
思えばこんなにたくましくなったんだな。
その手のひらの熱さに胸が熱くなる。
「行ってくる! みんな元気でな!!」
大歓声に包まれながら、俺はこの星での壮大な旅の第一歩を歩みだすであった……




