第30話 最後の夜
……体が重い……
目が覚めたが体が動かない。新調したマイクロマシンのおかげで以前のように眠気を引きずるようなことはない。バシッと一発で目が覚める。なんなら睡眠も特に必要とせずに行動することも出来る。
一週間もそれをやると3日ぐらいは反動が出るのと、明らかに寿命に影響するので滅多なことではやらないが、それにしても、体が動かせない。
そーっと目を下にやると、メリナとホープ、ミケル、カイルが俺の体に絡みついている。
俺の覚醒を感じ取っているだろう3体、いや、今ではメリナもわかっているはずだが、見事に抑え込まれたまま動くことも出来ない。
(昨日の約束か……。)
試合は俺が勝ったが、やりすぎたお詫びに添い寝してほしいというメリナのお願いを聞いてあげたんだった。
結局朝のトレーニング時間は、そのままベッドの上で過ごした。
メリナの実力は相当なレベルに上がってきている。ホープたち3体のサポートが有れば、大抵のことには対処することが出来るだろう。俺自身の状態も驚くほどいい。
過去最高どころの話じゃない、限界だと思っていた場所が霞むほど高い場所に来ている自覚がある。
過信をするやつは死刑台への階段を登っているというのは軍にいた時に嫌というほど思い知らされているが、これは過信ではなく余程のことがなければ問題にもなりそうにない。
「ま、あんな巨大生物がいる星で、俺なんてチンケな存在なんだろうけどな……」
「ちぇー……仕方ない、開放してあげるわ……」
見事な捕縛術で拘束されていた俺の体が解き放たれる。
メリナの技も見事だったんだが、なんというか、振りほどきたくなくなるほどの心地よさがあったことは否めない……いつの間にか成長していた……想像以上だ……
3人も結託して悪乗りしていたな……俺がホープを睨むと意地悪な笑みを浮かべた。美人はそれだけで絵になるわけだから卑怯だな。
「落ち着いたか?」
「お陰様で。あと、前に否定したけど、旅に出る前に言っておくわ。
私はワタリが好き、大好き。
だからずっと側にいて旅をするから、私自身の意志でね。
変な遠慮はしないでね」
「……これは、一本取られたな……ホープの入れ知恵とかでは無さそうだな……
答えたほうが良いのかな?」
「ううん、ワタリに勝つか、ワタリが私のことを大好きになったら聞いてあげる!」
そう告げながらメリナは部屋を出ていった。その耳が真っ赤だったことに流石に鈍さの塊の俺でも気がついた。
「自分が真っ赤になっていることにも気がついてますか?」
「なっ……!」
そういえば、顔が熱い。
三人がニヤニヤしてるので布団を投げつけて外に出た。
「メリナ!」
「……何よ……」
メリナは気恥ずかしさからか、こっちを見ないが、多分俺と同じように真っ赤になってるんだろうな……
「俺の側にいたいなら、もっと鍛えていかないとな!
とりあえず、走るか!!」
メリナの手を握って走り出す。
「……ばーか!」
メリナも俺の手を握り返して走り出す。
そのまま森の訓練施設のランニングコースに踊りだすと……
「ここなら負けないからね!!」
「俺だって負けねーよ!」
結局そのままコースを10周して5勝5敗だった。
メリナはまだ若い。
俊敏性とスタミナなど肉体的な能力は人間の俺の限界値もいずれ超えられる事は間違いない。
俺は技術で戦うしか無いから、いずれこういった種目では勝てなくなるな……
「こ、この流れで……本気で、勝ってくるのは……もてないわよ、ワタリ……」
「……はー……はー……ま、一人にモテれば、それでいいさ!」
「ワタリ……それって……」
「頑張って俺に勝てよ!」
俺は、あまりに恥ずかしいことを言ったので、ダッシュで村へと逃げる。
「ほんっとうにモテないわよ!!」
背後からメリナが追ってきたが、その声は、楽しそうだった。
ホビットたちと過ごす最後の一日。
と、言っても俺のこの星での故郷はここなので、いつか必ず帰ってくる。
そして、それまでこの場所を守ってくれとホビたちと大騒ぎしながらも真面目にお願いした。
「俺らは、ここでまつ。
産み、育てる。
ワタリは、風、豊かな恵みをもたらすもの。
風の宿り木、どこにいてもしっかりわかるように発展させる」
「ミケル先生! 絶対帰ってきてね!!」
「カイル先生!!」
ミケルとカイルは子どもたちから大人気だ。
俺は最後に一戦と、たくさんの戦士たちと戦った。
皆、かなりの実力者に成ってくれて、いろいろな過去のことを思い出して、目頭が熱くなる。
虫や、同じレベルの魔物では、まず彼らの相手ではないだろう。
安心して旅立てる。
「ワタリ、一本良い?」
「おお、メリナが相手だと、気合を更に入れないとな」
「頑張ってねメリナ」
「審判よろしくねホープ」
なんだかホープとメリナが企んでいる予感がするが、俺はいつもどおり構える。
「それでは、始め!」
流石に予想外だった。
始めの合図と同時に、四方のホビたちが布で俺たちを囲んだ。
突然のことで一瞬、メリナから目を離してしまった……慌ててメリナを捉えた時、彼女は一糸まとわぬ姿になっていた。
反則だ……
俺はあまりのことに対応ができずに彼女に唇を奪われて、押し倒された……
「……降参だ……メリナ、俺のそばにいてくれ」
「ワタリも、私の側にいてね。愛してるわ」
俺たちは再び口づけを交わした……
最後の夜はこうして更けていった……




