第28話 目的
ホープにアダマンタイトの分析をお願いした。
カイルとミケルも時間が空いているときにはサポートに回っているみたいだ。
村はすっかり温かくなっていた。
俺がいない間も村人たちは出来ることをやってくれていた。
今回の困難のおかげで水耕栽培という新しい技術も定着していった。困難は人を成長させる。
巨大な亀の話は子どもたちにすごく受けが良かった。どうやら古代からの昔話でもいくつかの超スケールな生物がいることも教えてもらった。
この星は……計り知れない……
冬が長かった分、春はあっという間に過ぎて照りつける太陽が元気になっていく。
そんな日に、ホープから通話が入った。
『マスター、ご助力感謝します』
『うおっ! びっくりした! ホープ、復旧したのか!』
『はい、それについてお話がありますので来ていただけますか?』
俺はすぐに湖に向かう。
すでにミケルとカイルが待っていた。そして二人の間に見慣れない女性が立っている。
まぁ、予想はつく。
「ホープも形態変化するようになったのか」
「はい、お陰様で、あのとんでもないものを一部使わせていただきました」
「自由に使っていいって言ったからな! なんにせよ、お帰り」
「ありがとうございますマスター、どうですかこの姿? マスターの好みを最大限に反映しましたが」
「やっぱりか、あんまり綺麗だとやりづらいんだが……だがソレがいい」
ホープの姿は、俺のどストライク。
大きく優しげな目元、すっと通った鼻筋、少し控えめな唇。
髪はミドルでほとんど黒なんだけど日に当たると分かる程度の明るさ。
細めなんだけどあくまで細めまでで、隠しきれないスタイルの良さを強調しない服装。
全体としては清楚。
うん、マジ眼福だ。よくやったホープ。
俺がまじまじと見るとにっこり微笑んでくれた。ああ、最高だ。
「それで、真面目な話、アダマンタイトはどうだった?」
「とんでもない。その一言に付きますね。
カイルとミケルも完全に元通りどころじゃないですが、まぁ便利だろうから色々と改造しました」
「ほんとに容赦なくいじるんだから……」
「はは、相変わらずだよねホープは」
「私自身は船の形体ではマスターの役に立ちにくいと判断してこの形態にしてみました。
合わせてボイス、口調も変更しました。どうですか?」
その笑顔は破壊力抜群だから止めてくれ。最高だけど。
俺は返事の代わりに最高の笑顔とサムズアップで答える。
昔の堅物口調も好きだったが、あれは船だから良かったのだ。
「気がついていますかワタリ、ナノマシンの機能が回復しているのを?」
「!! そうだ、そうだよな、だから通信が入ったんだよな!
どうやったんだ?」
「あの鉱石名アダマンタイトを分析してこの星に漂う大気中にナノマシン……正確には10のマイナス18乗程度、名付けるならアトマシンとでも言うべきもので満たされています。
そのせいでナノマシンが機能不全を起こしました。
アダマンタイト分析の結果を利用してそのアトマシンの干渉を防ぎました。
……たぶん虫達の用いる阻害方法もこれに近い方法だと想像されます。
なお、ワープ阻害やここに引き込まれた理由については分析を継続していますが、不明であります。この星に生きる超越した存在による悪戯という結論になると推測されています」
「なんだその非科学的な結論は……ところでホープいまのお前はどれくらい凄いんだ?」
「私とカイルとミケルの3体で銀河連邦を制圧するくらいに凄いです」
「おおう……まじか……」
「なお、ワタリのスーツと体内のナノマシンもアップデートしました。
良かったですね、銀河連邦最強になった感想をどうぞ」
「なっ! おま、勝手に……はぁ……でもなぁ、この星探検するならそれぐらいでも足りないかもしれないからな……」
「生活レベルを急速に改善することも出来ますが、ワタリが望まないでしょうからその点には手を加えていません」
「ありがとう、そっちはあくまでホビ達に合わせて進化していくだろう。俺たちはあくまで異物だ……教育とか散々介入しておいてなんだけどな」
「探査可能範囲でこの星を調べようとしましたが、直径2,000,000kmを超える惑星の可能性が高いくらいしかわかりませんでした。何者かがずるはダメだよって感じで妨害されました」
「はぁ? なんだそれ」
「先程の我々がここに呼ばれた悪戯の主の可能性が高いです。
圧倒的高位の存在であることが想像されます」
「もう、めちゃくちゃだな、なんだよその直径200万キロって……」
「多少の周辺地図は記録できましたので出力しました。
なんと普通の紙で作りました。インクの質感もこだわってます」
「ああ、なんか冒険って感じが出てありがたいよ、ありがとう(棒)」
「とりあえず皆にホープを紹介しようよワタリ」
「そうね、それに旅に出るってのも伝えないとでしょ?」
「……そうだな、わかってたか」
「そりゃわかるわよ、彼女とあってからずっと心ここにあらずでニヤニヤ妄想してるんだもん」
「お手伝いしますよ」
「もちろん僕も」
「ありがとう。じゃぁ村へ帰ろう」
いろんな事がわかったが、大事なことはわからなかった。
それでも、これで俺は一つの決心を固めた。
この世界をめいいっぱい楽しむ。
ソレが俺の新しい生きる目的になった。




