第27話 ホワイトアウト
「おかしい……別に高所なわけでもないけど此処から先に不可解な嵐がある」
目の前で風と雪が渦巻いている。森の中でこのような局所の変化は起こるはずもない。
翌朝森を進んでいると突然この吹雪と出会った。
「ゆっくりと移動してるわね」
「中心部に……生体反応……」
「……つまり、この吹雪はそいつの仕業の可能性が高いってわけか……
吹雪を起こす生物……ファンタジーだね……」
意を決して吹雪に突入する。
暴風と雪が吹き付けるが、防備のおかげで寒さは感じないが、歩き易くなるわけではない。
猛烈な風に体が飛ばされないようにカイルとミケルのナビにしたがって中央に向かって歩く。
暴風で木々がきしんでいる。中心に近づけば近づくほど風は強くなる。
目の前は完全に真っ白になる、ホワイトアウトと呼ばれる状態だ。
もしカイルとミケルがいなければ前後左右どちらを向いているのかもわからず野垂れ死ぬだろう。
真っ白な空間を2人の言葉だけを頼りに一歩づつ歩いていく。
いつだったかどこかの星で敵軍の裏をかくために禁断の地を抜けたときのことを思い出す。
あの時も今回のような天候だった。
味方はカイルとミケル、それにホープだけ。
今はあの時よりも厳しい状況だな……
でも、村で待っている皆のためにもこの異常気象の原因かもしれないなら、なんとかしないとな……
「ワタリ! 生命維持モードをあげて! 意識が衰弱してるわ!!」
「す、すまん……」
「仕方がないよ、こんなこと自然現象では起こらない、スーツの限界温度ギリギリだ……
マイナス140度。僕たちも活動限界に近い……これ以上は……」
ドーン。
地面が揺れている。
その振動は中心に近づくほどに強くなる。
もう少しだけ……スーツをオーバーヒート状態にまで移行させ小型化させたカイルとミケルを懐に入れる。
最後の力を振り絞って、中心に向かって疾走る。
「なっ……」
突然暴風が止む、同時に目の前に巨大な亀が現れた。
「コレは見事だな……」
氷に包まれた甲羅、雄大な大きさの亀、空から降り注ぐ太陽の光が美しく甲羅を輝かせている。
そのあまりに美しい姿に、しばらく言葉を失い立ちすくんでしまった。
スーツの限界を告げるアラームでようやく意識を引き戻す。
気がつけば体にへばりついた分厚い氷塊はすっかり溶けて落ちている。
この場所はまるで春の日のように暖かい。
「……どうすりゃいいんだこれ? 意思疎通できそう?」
「やってみよう」
カイルが俺の懐から飛び出して亀のそばに寄っていく。
俺らのような小さな存在を気にするでもなく、ゆっくりと歩いている。
しばらくするとその緩やかな歩み止まる。
「吹雪を止ませてくれるって」
ミケルがそう耳元で呟く。
その言葉通り周囲の風がやんで分厚い雲が霧散する。
先程の吹雪が嘘のように柔らかく暖かい日差しが降り注いで青空が広がっている。
「……なるほどね、自分では周囲の事に気を払って小さくしていたつもりだそうよ。
謝罪しているわ。いい人みたいね」
「人……ってあの亀のことか、よかったよ、戦うのかと思った」
「どうやら彼女はゆっくりと世界を旅しているみたいで、特に他の生物に害意はないんだって。
もう何千年もゆっくり旅をしてて、うっかり力が漏れていたんだって」
「はぁ、なんともスケールがでかいな……」
「うっかりでこの一体が滅びるところだったって文句を言ったらお土産もらったわ」
再び彼女は歩み始めた。しばらくするとカイルが帰ってきた。なにやら大きな鉱石を担いでいる。
「ただいま。彼女からいろいろな情報とコレをもらったよ」
「これは?」
「アダマンタイトって言っていた。僕たちも知らないこの星独自の鉱石で……解析しきれていないけど超々高濃度高純度のナノマテリアルに極めて近いと思う」
「ほんとか!! ならホープに持って帰れば!」
「……ホープの修理どころじゃないよ、この鉱石一つで銀河連邦に存在する全てのナノマシンが10年は賄えるよ」
「凄いわね……もしかしたら地球で手に入れられたナノマテリアルは、コレが隕石となって粉のように降り注いだもの何じゃないかと思わせるほどね……」
カイルとミケルはその物質アダマンタイトをまじまじと見つめている。
興味津々で分析しているんだろう。
それはそうだ、ここ50年で集められたナノマテリアルの10倍以上のナノマテリアルの存在が今目の前にある。ってことなんだろう。
「さっきの亀と言い、この星のスケールはでかすぎる……それこそ、人には余るな」
空を見上げると、まるで幻想のような光景が広がっていた。
暖かな日差しの中に無数の雪がキラキラと踊っているようだった。
「帰ろうか、俺達の場所へ……」
こうして俺たちは雪が溶けていく森の中を戻っていく、少々足元が悪いが、穏やかな陽の光と、雪解けの気持ちのいい冷たい風が心地よかった。




