第25話 予感
結局魔王様の配下達の治療をしたりいろいろしていたらすっかり日が暮れてしまった。
土産のつもりだった様々な食材を俺たちで調理して魔王軍の皆に配って回る。
襲ってくるほうが悪いが、怪我をさせてしまったので仕方がない、しかも、この場にいるのが魔王軍の総員だというのだから……後先考えないで襲ってくるのは二度としないでほしい……
「う、う、旨いーーーーー!!!!」
「なんだこれ!? なんだこれー!!」
泣きじゃくったせいで目を腫らしながら魔王とその仲間たちは食事にかぶりついている。
さんざん俺たちの文句を言ってけしかけていたバリアントも最初は抵抗していたが、ひとくち食べたらもう止まらなくなっていた。
まぁいろいろ怪我をさせてしまったので優しいスープにしただけだが、それでもこれほど喜んでもらえた。
「まぁ、そっちが襲ってきたから悪いとは思わないが、しばらくは手伝うことにするよ」
魔王の街にいる総員がかかってきたせいで、全員がけが人になってしまった。
伝令と応援要請のためにすでに人は本拠地の方へと行かせている。
結局しばらく食事やら何やらの世話をしてあげたことによってお互いのわだかまりも晴れていき、魔王もその街の人々も諸手を挙げて俺たちに降伏して、そして合流を求めてきた。
「メリナちゃんたちがそれでいいならうちとしては受け入れるよ、争いごと起こしたら叩き出すけどね」
「もうっワタリったらそんなことしないってば! 皆だって怪我が治ってからは働いてるでしょ?」
魔王様あらためメリナ、なんだか懐かれてしまって姪っ子に近い歳のせいでなんとなくちゃん付けで呼んでいる。
この世界では上位魔物であるヴァンパイアで、たぶんだけど科学技術が発展した世界の記憶を薄っすらと持っている転生者っぽい。
この世界の魔物が知っていないような技術なんかをおぼろげに覚えていたみたいで、それによって他の魔物を従えて国? 街を作っていたそうだ。
偉そうな黒マントの下は人間っぽい姿の少女で、転生者の影響か人間に近くなっているらしい。
そのせいでヴァンパイアの街からいじめられて森に逃げ込んだという悲しい過去がある。
他のヴァンパイアは簡単に言えばコウモリが大きくなって腕と足があるグロい格好らしいので、可愛らしい見た目のメリナは俺からすれば良かったね以外に言いようがなかった。
「ほんと!? ほんとに可愛いと思うの!!?」
「あ、ああ、可愛らしいと思うぞ」
「ま、まぁ、だったらワタリには特別にちゃん付けで呼んでいいわよ!」
正直将来はきっと美人になるんだろうなって顔つきをしているが、中学生になったばかりの姪っ子っぽくて、どうしても扱いが子供扱いになってよく怒られる。
戦闘は苦手らしいけど、実際にトレーニングしてみるとかなり筋がいい、種族的な特性なのか思考速度が早いというのがあって、簡単に言えば本気を出すと周囲がスローモーションみたいな感じになるそうだ。
今は避けるので手一杯だけど、訓練を積めばうちらの中でもかなり上位に食い込める実力を秘めている。ちょっと軍隊式の訓練にはめ込みたくてウズウズしてしまう。ま、やるんだけどね。
結局、この魔王絡みの騒動が落ち着いて仲間が爆発的に増えた。
なんだかんだ、人が増えるとできることが増えるし、うちの街もどんどん発展していく。
森の資源を取りすぎないようにコントロールしながら行動範囲を広げていく、メリナ達が住んでいた場所の近くに大規模な鉱床を発見できたりと正直シミュレーションゲームでもやっているような感覚で街の規模を大きくしていくことと、文化レベルを上げていくことに夢中になっていた。
「また虫が出たって?」
「そうみたい、けが人も出たけど軽症で済んだみたい。
最近多いわね、ちょっと気をつけないといけないわね」
「ワタリ、新型の装備の有効性は示せた、量産化していいか?」
「そうだな、装備の刷新は進めていこう」
時間が経つとメリナは皆に受け入れられ、俺の丁寧な指導のおかげでかなりの実力者になっており、代表者会議にも参加することになっていた。
「今のところは剣とか盾とかで戦っているけど、もう少し誰でも使える遠距離攻撃が欲しいよね安全のためにも……」
「虫の皮膚は硬いから、よほど熟練の弓手でもなければ……」
「火薬式の銃はまだまだ難しいわね」
カイルとミケルが現状を報告してくれる。メリナはカイルとミケルにスパルタで教育を受けている。
そのおかげで開発系の話はメリナを中心に進めてもらうことが出来て、俺は街の発展や戦闘訓練の方に集中できている。
技術開発、科学研究はメリナ、農業、畜産業、インフラ事業は俺が中心となって進めている。
今のところはメリナ達が合流したことによって他の集団との取引などもない、自分たちが生きていくための衣食住と自衛のための行動が中心だが、他の種族や集団との今後も接触する可能性は存在しているので、現状の皆で手に入れて均等に分けるシステム以外の方法も考えないといけない時期に来ているのかも知れない……
「あら、ワタリがそんな事に気が回せるとは思っていなかったわ」
カイルとミケルに相談したらそんな事を言われてしまった。
まったく、俺はどこまでいっても脳筋扱いなんだな……
「これでも傭兵も考えるぐらいには資本主義的な考えを持っていたんだぞ……」
「ここでの生活でそういった俗世の欲は昇華したかと思ってたわ」
「まぁ、冗談はおいておいて、まだうちらの生活で貨幣なんかは必要ないんじゃないかと思う。
教育としてはそういうシステムが有ることは教えているけど、みんなでワイワイやるのが好きというこの星の生物の本質があまりそういうものを必要としてないみたいだ。
満たされている現状に満足できずにどんどん欲望をふくらませる人間より素直だね」
「……耳が痛いです。確かに、足るを知るってのを出来てるよね皆」
外に出るとこの間まで汗ばむ陽気だったが、少し肌寒い風が吹いている。
もうすぐ冬がやってくる。
準備はしっかりしていたが、普段よりも早すぎる寒風の到来に、少しだけ不安を覚えた。
そして、その不安は的中するのだった。
大寒波が襲来した。




