第23話 魔王の街
約束の場所で件のゴブリンが待っていてくれた。
名前を聞いたが無いそうなのでゴブリンさんと俺は心の中で呼んでいる。
「おお、早かったなワタリ! ちゃんと話をつけてきたぜ!」
「流石だな。少し早いけど、こちらの準備はできている出発するか?」
「そうだな、うちの魔王陛下はこの間のお土産を食べてからまだかまだかうるさくてな」
「それはありがたい。強い敵対心があるよりずっといい」
俺たちはゴブリンさんとあるき始める。
道とはとても言えないような道を進んでいくために、仲間たちが伐採しながら道を作ってくれる。
「しかし、オーガにオークにホビットにゴブリン、これだけの集団が存在して、しかも別に誰が偉いとかも無いんだろ? 全員が同じもの食べて、教育? を受けているって話は魔王は理解できてなかったぞ」
「嘘だと思われてるんだろうね、だから一応各種族の代表を連れてきたけど」
結果としてちょっと威圧感が……仕方ないね。
あまり好きではないけど、うちらとことを構えるのは得策じゃないよ。ということを簡単に表せる方法ではある。本格的な武装はさせていないが、それなりの武具は持たせているのはそういう理由だ。
「そういえば、結構遠いの?」
「いや、そこまで遠くない。もう少し行くと崖に出るんだが、そこを降りて行けばもうすぐだ。
崖からも見下ろせる場所にある」
「ああ、あの崖かぁ一応ざっとは見たけど集団生活している気配はなかったんだけどなぁ……」
ミケルとカイルに集めてもらった地図を見ながら目的の場所を指さして皆に教える。
確かにもう少し歩けば崖に出る。
「な、なんだそれは?」
「ああ、周囲の地形を表しているものだよ」
「……どうやって調べたんだ?」
おれは指で空を示す。
「はぁ……早めに移動するって決めてよかったよ……崖の中腹に大きな洞窟があるんだ。
俺たちの生活はその内部で行われている」
「なるほど、だから上から見てもわからなかったのか……」
「野生の動物や魔物からも護りやすいからな」
「確かに魔王様は知恵者なんだな」
「ああ、色々と教えてくれて皆も生活は楽になった……だが、ワタリのとこの飯には勝てない!」
「食事は大事だからな」
「ああ、そうだ。食べられるだけで幸せなんだが、あんな旨いものを食ってしまうとな」
「やっぱり追い求めるのはうまい飯!」
「うまい飯!」
「うまい飯!」「うまい飯!」
そんなアホなやり取りをしながら暫く進むと、森が開けて眼の前に大きな谷が現れる。
「谷沿いを進むから気をつけてくれ、あんまり近くに寄らないようにな」
「ホントだ、これは深い谷だなぁ……底の川もかなり流れが凄いな」
「……底? 底の様子がわかるのか?」
「ああ、俺の頼れる仲間はこれぐらいなら詳細な情報を把握できるから」
カイルとミケルが誇らしげにしている。実はちょっと下を覗いて状況を把握してもらった。
「……もし魔王様が敵対しそうになったら、一応今までの恩があるから全力で止めさせてもらうわ」
苦笑いしながらゴブリンさんは道を進んでいく。
暫く行くと、崖側が少し下がっていく道が見えてきて、その道へと歩き続けていく。
道幅は5,6メートルといったところか、大柄な魔物だと少し怖い感じがするだろう。
「気をつけろよ、あんたらならなんとかしちゃいそうだけど、滝まで真っ逆さまだぞ」
「ああ、ありがとう」
崖沿いに奇跡的に自然に作られたであろう道を下っていく。
「確かにこの道を魔物の大群や野生の動物が来るとしても、かなり慎重に降りる必要があるな……」
「そうだろ、もう少し行くと俺たちの工夫がわかるぞ。ああ、後普段は見張りとかがいるからあまり不用意に近づかないでくれ」
「なるほど。了解した」
あたりを注意深く見ると、下っている時は気が付かない窪みが崖面に有り、その場所に身を潜めれば下る人からは見えずにやり過ごし、背後から攻撃などを加えられるように出来ている場所が何箇所かあった。これを俺たちに見せてしまうのは結構リスキーだろうが、会見の場を魔王の居城(?)にしてきたのは自信の現れなのかもしれない。
どれくらい降りただろうか? 少し周囲の空気がひんやりとしてきた、ものすごく耳をすませば微かに谷底に流れる川の音が聞こえてくるほどに下がって目的の場所の入口が見えた。
「これ、帰り……大変だな……」
「慣れれば平気だが、皆は辛いかもな」
「ま、そんな軟な鍛え方はしていないが……」
「ははっ、だろうな」
さっきからでかい図体をガタガタ震わせながら壁面に張り付くように進んでいたオーガくんには悪いが、そういうことにしておこう。オーガは高所恐怖症と脳のノートに書き込んでおく。
「さ、ワタリ、そして御一行を我が魔王様の国へとご招待しよう!」
石と木材によって作られた防壁、そこに作られた大きな木製の門がゴブリンさんの声と同時に開いていく。原始的な吊扉だが、いざとなったら支える縄を断てば強固な壁へと一瞬で変わるので効率的だと思っている。なお、我が村はすでに鋼を利用して城門になっておりよほどのことがなければこの文化レベルでの突破は難しい。と、張り合っても仕方がない。
「それでは失礼させていただく」
いたるところで篝火が焚かれている。
巨大な洞窟の内部に街が作られており、どうしても薄暗くなってしまうが、これだけ火を焚いていると明るさだけではなく薄ら寒い外の空気が程よく暖められており過ごしやすい。
天井がお椀を逆さまにしたような形体をしているので空気の流れが内部で回転して暖気を外に逃がしにくくなっている。そして防壁を注意深く見ると足元に空気取りの穴が空いていていろいろと考えられている。
街の作りも木製の枠にいわゆる古代セメントを利用したしっかりとした建築になっており、ホビット達が暮らしていた村の状態から考えれば革新的に進んだ技術が使われている。
魔物たちの気配はするが、皆建物の中から注意深く俺たち一団の様子を伺っているようだ。
こちらに戦力の総数を明かさずに、そして俺たちを包囲しているという精神的な優位性も得られる。
少し魔王への評価を低く見積もっていたかもしれない、俺は少し警戒心を強くした。
「さぁ、これが俺たちの城になる」
「おお、立派だな……」
魔王様の居城は内部構造としては三層構造ぐらいは取れそうな作りになっている。
背後は洞窟の壁面がしっかりと支えていおり、街中に防御陣を敷けば防衛戦も街全体が堅牢な砦のような役割をするだろう。
洞窟自体はまだ奥がありそうだし、ここまで誘い込まれた状況に少し楽観視していた自分を反省することになってしまった。
木戸が静かに開いていく。とうとう魔王との対面だ。




