第22話 接待準備
魔王(自称)軍と再び接触したのは、話し合いを行ってから2週間ほど経ってからだった。
はじめのうちは緊張していたのだが、だんだんとその緊張感も薄れてしまって、もういっかぁ……? みたいな空気が漂い始めていた頃だった。
「えーっとワタリ、例の魔王(自称)軍と接触したよー」
「ああ、いたねぇそんな人達も、ちゃんと事前の打ち合わせ通りにやってくれたかな?」
「ああ、うん。それでその、魔王(略)軍から抜けてこっちに来たいってその狩人部隊の人達が」
「え、手土産のせい?」
「うん。やっぱりああいう調理は知らなかったみたいで……食べたらコロっと……」
「それは困ったな、その人達にはちゃんと魔王とのパイプになってもらいたいんだけど、いや、別にそれを仕事として、いやでも勝手に人材を引き抜くなんて敵対行為と取られても……」
「とりあえず、現場に行ってから考えたら?」
「それもそうだ、案内頼む」
ミケルの案内で森を進む。何やら賑やかな騒ぎ声が聞こえて盛り上がっている雰囲気が伝わってきた。
俺が到着するとすでに宴会というか、なんだろキャンプ場でバーベキューしてるみたいな状態になっている。
「ワタリ! こいつら良いやつだぞ!」
「お酒なんて許可したっけ?」
「い、いや、これはその、や、やはり客人は接待しなければ……」
「ここの料理はどれも食べたことがないほどに美味い! そして何よりこの酒は最高だ!! だそうですワタリ」
カイルが魔物の言語を話す魔王軍の斥候? の言葉を翻訳してくれる。
5名のパーティのリーダーに当たるのか代表して話してくれた。
ゴブリン……原種じゃない、たぶん一段階くらいは進化しているのか少し体が大きい、両手に食事と酒をしっかりと確保しながら俺との話し合いに応じてくれた。
「喜んでもらえて何より、うちの村に来たいそうだけど魔王の元からそんなに簡単に離れられるのか?」
「なんの問題もないよ、悪いやつじゃないし飢えないで生きられるのは嬉しかったけど、こんなに美味いものは無いから、それに改めてよく見たら……あんたらには到底勝てるはずもないから」
「魔物って結構ドライなんだな」
「俺は、ってだけだな。中には自分の集団を最後まで大事にするやつもいる」
「魔王のとこにもそういう奴らは多いのかな?」
「ある程度はいるな、ただ、例えばあんたらが魔王のとこに攻めてきて、圧倒的な力を見せてそれに対して命をかけて魔王を守るかって言えばそんなことはないと思う。なにより、この飯を食わせたら一発だと思うぞ!」
「それはいい情報だ。正直俺たちは戦争や戦いはできる限りさけたいし、本音を言えば仲良くできるなら仲良くするのが一番だと思ってる。俺も今の生活が気に入ってるからな」
「そりゃーいいや、やっぱり俺はあんたのとこのお世話になりたい」
「一つ頼まれごとをしてくれないか? 魔王と話がしたいんだ」
「わかった。仕事をすれば村に入れてもらえるなら俺も負い目を負わなくて済む。
3日後、またここで会おう。……もっと食べていいか?」
「ああ、今日は好きなだけ楽しんでくれ」
「ヒャッハー! 最高だぜ!」
他のメンバーとうちの奴らの輪に入って楽しそうに飲み食いしてくれている。
できれば魔王とかいうやつもこんなノリで一緒にやれれば良いんだけど……
どうやら食事の受けは良さそうなので、魔王軍との円滑な関係づくりのために色々と準備を3日間で行っていく。カイルとミケルによる食指導によってさらに洗練されたものを作り上げていく。
その過程で毎晩宴会になってしまったのも仕方がない、狩りを一生懸命やってくれたりいろいろカバーしてくれていたのでよしとする。
ちょうどこれから寒くなる時期だから保存の効く加工食品なんかも持っていくことにしよう。
燻製や干物、塩漬けなどは常に常備している。
人数が増えて最初のうちは大変だったが、今では人手が増えたメリットをたっぷりと感じている。
なにより、たくさんの方が単純に楽しい。揉め事も増えたりはしているけど、それでもこんなふうに皆でワイワイやっている時は本当に楽しい。
「魔王のとこの魔物も良いやつだといいなぁ……」
「食と住むところと着るものが満たされれば、こうやって穏やかに暮らしていけるわよ」
「そうだよワタリ、衣食足りて礼節を知る。ってやつさ」
「二人が教育も施してくれてるからな、本当に助かるよ」
「生徒が優秀だとやる気も起きるわよ」
「本当に、未知の生命体にここまで高い知能レベルを有する物があることは凄いことだね」
「……この星に、人間は来ないほうが良いんだろうな……」
「その問いに対して、正解を提示することは出来ないわ」
「自分の星だけじゃなく、他の星も破壊するような奴らはこの星に来てほしくないなぁ……。
俺もその片棒を担いでいたわけだけどな……」
「多くの人を守っていたってのも事実よ」
「ああ、そうだな。悪いな久しぶりに愚痴が出た」
「気にしないでワタリ、魔王達も、良い奴らだと良いわね」
「ああ、本当にそうだ」
成り行きで魔物と戦ったこともある。虫は大量に狩っている。動物も食べるために狩っている。
それでも、できるなら避けられる戦いは避けたいんだ、俺は。
戦闘訓練とかそういうのは皆楽しそうにやってるから良いんだけど、魔物同士の本気の戦争などにはなって欲しくない。
台車に積まれた大量の食材をもって、俺たちは魔王への謁見へと向かうのであった。




