第21話 魔王(自称)
「ワタリ、大変よ!」
昼過ぎ、軽く体を動かしながら武術訓練をしていたら、カイルとミケルが慌てながらやってきた。
「どうしたんだ? なんか攻めてきた?」
「狩りに出ていた部隊が、私達みたいな集団を作っている魔物と接触したみたい」
「こっちから手を出してないよね?」
「大丈夫、専守防衛は徹底させてる。なんか相手の縄張りだから入るなって話になったみたい」
「相手が先に抑えていたら相手に譲るべきだな。でも、どこまでを相手の縄張りとするかは話し合っておきたいな……」
「……ワタリ、あんまり慌てないのね」
「ん? まぁホビット達も意思があって暮らしていたし、そういう魔物が集まって集団を作っていてもおかしくないかなーとは考えていたからね」
「へぇ、意外……見直したわ」
「ミケルは酷いなぁワタリだっていろいろ考えてるよ」
「魔物同士でそういうときはどうやって決めるのか聞きたいなあ……
ホビリンたちを呼んでもらっても良い?
汗流したら集会所に向かうよ」
「わかったわ」
いつかはこういったときが来ると思っていたけど、とうとう我が街の外の方々との接触か……
「ワクワクするな。どうやらオーガみたいな野蛮な魔物じゃないみたいだし」
すっかりこの星の生活に慣れてしまっています、私。
シャワーを浴びている間に頭も冷えて最悪戦争のようなものになるかもしれないことを冷静に分析しておく。そうなったらミケルカイルコンビに活躍してもらわないといけない……
こちらの戦力はなかなかなものだという自負があるが、敵の全体像がさっぱり見えていない現状ではなんの意味もない妄想だ。
しっかりしないといけない、気を引き締める代わりにパンッと頬を叩いて気合を注入した。
集会場の会議室にはすでにみんなが揃っている。
カイル、ミケル、アインズ、ホビット5人衆、それに各種族のリーダーたちだ。
ゴブリン、コボルト、ダブルテイル、オーク、オーガ、ナーガ、リザード、ファルコン……いつの間にか大所帯になっている。
ナーガは下半身が蛇、上半身が人に近い姿をしている種族で、水辺での作業をリザードたちと担当してくれている。リザードは二足歩行のトカゲといえばわかりやすい、戦闘能力も高く、水中戦にも対応できる頼れる仲間だ。ファルコンは背中に羽の生えた鳥型獣人で空からの奇襲や情報収集の欠かせない仲間だ。オークは二足歩行のムキムキの豚、オーガは争った者とは別種族を安定した食料供給と教育で仲間入りしている。以前のオーガ族はあの時のダメージから回復できずにそのまま森の栄養になっていた。大型土木作業などはこの二種族の独壇場だ。乱暴者とイメージのあるオーガだが、とにかくたくさんの栄養をとっていないと短気になってしまい、うちの街に来てお腹が満たされていると驚くほど温和で優しい種族だということがわかる。芋が好きで広大な畑で大量の芋の栽培をしている。
「さて、みんなも聞いていると思うけど、どうやら大規模な集団と接触があったらしい。
あちらは自分たちの縄張りに入ってこないように警告してきているみたいだけど、魔物たちの間でこういう場合はどういった対応になるのか教えてほしい」
俺の言葉にみんなが相談するが、答えは出なかった。
「ワタリがいる前はそれぞれ小さく勝手に暮らしていて、勝手に距離をとっていたから……」
そりゃそうだ。
こんな大集団がゴロゴロいるはずがない。
「魔王ってのはどんな存在になるの?」
「群れを率いている偉い人が勝手に名乗っている。自称魔王はいっぱいいる」
「今回もその数多いる魔王の一人ってことか……意思疎通もできたんだよね?」
「魔物の言葉で話せる。偉そうだった。ワタリの言葉のほうが好き」
「そうか、困ったな俺は魔物の言葉わからないぞ……」
「それなら問題ないよ、僕もミケルもすでに魔物言葉は解析終わっている通訳できるよ」
「おお、それは良い。だったら使節を送って話し合いしてみよう。
皆の印象として戦いになると思う?」
「ありえない、この場所の便利さしったらよっぽど満足していなければここに来たいって言ってくる。
凄い強いのが力で押さえつけているなら、戦いになるかもだけど……」
「アインズ一人で何人いても倒せちゃうと思う……」
ホビットたちは相手の実力を高く見ることはあっても低く評価したりはしない。
つまり、限りなく事実に近いんだろう。
「攻めてこなければ戦いはしない。話し合いで上手くやりたい。
そっちの方向以外にだっていくらでも開拓できるからね。
俺の考えとしてはそんな感じで」
「俺たちはワタリの考えでいい。もっと畑大きくして作物増やして美味しいご飯を作る」
「ハヤテ、果物もっと増やしたい!」
「動物ももっといろいろ飼いたい!」
結局会議は街の今後の運用計画の話に移行していった。
自然界ではめったに起きない進化を幾度もなく行っている魔物がそこら中にウロウロしている異常な集団であることは彼らにとって絶対的な安心があるんだろう。
めちゃくちゃ強いもんね皆。
ダンジョンで修行しているせいでどんどん相手をするのが大変になっている。
それが軍隊として訓練されているんだから、その自信も当然かも知れない。
「とりあえず、明日からも頑張るために飲もう!」
調子のいいホビロンの一声で街を巻き込んだ飲み会に発展したのは、お約束である。
方針は決まった。
後は出たとこ勝負だ。




