第20話 集団生活
人が増えれば手が増える、目が増える、結果として生活範囲が拡張して、同時に様々なことが進んでいく。
ミケル先生とカイル先生による教育を受けた村人たちは、原始的な生活から村の生活にどんどん順応していく。
魔物達は、お腹が減ったら木の実をとったり獲物を狩ったりして場当たり的な生活がほとんどらしいが、この村で働けば食事が安定して、しかも食べたことも無いような美味しいものが得られるという文明に触れると、ものすごく勤勉に努力してくれる。人間よりもよっぽど素直な気がする。
人間は文明で満たされているからそこまで努力する必要もないからかもしれないけど、彼らは生きていく上で最低限を満たされて、さらに娯楽的な物を得られることを知って、それを得るための努力は楽しいんだろう。
「ワタリ、村の外で修行するためにダンジョンに入ろうと思う」
定期的に村から行ける範囲のダンジョンにホブホビをリーダー、ワンコを副リーダーにして定期的にパーティを組んで出かけるようになった。
結果として、魔物たちは進化していくことになる。
進化した魔物は肉体の成長も飛躍的だが、頭脳面の成長が素晴らしい。
「みんな進化とか、いいなぁ……」
「ワタリはそのままでいいんだよ」
すっかりたくましくなったホビリンに笑われてしまった。
「そういえば人が増えると揉め事も増えそうだけどそこらへんは大丈夫なの?」
「ああ、アインズたちが目を光らせているからミケル先生とカイル先生がきちんと管理しているよ」
「助かるね、できればみんなで仲良く暮らしていきたいからさ」
「もちろんワタリの意向が一番大事だよ。俺たちみんなの救世主だからね」
「大げさだなぁ、俺なんてこうやって畑仕事をしているときが幸せなおっさんだよ」
「その作業の御蔭で俺たちはうまい飯が食えている。
そんな村を守りたいって俺たちが勝手に思ってて、その村の中心はやっぱりワタリなんだよ」
「……なんか、立派になったなぁホビリンは、昔は可愛かったけど、今は頼りになります」
「はは、全部ワタリのお陰だよ」
なんなんでしょこのイケメンは、ホブホビだけじゃなく村の女性の憧れの存在なのも頷ける。
そういえば魔物は異種間でも子を為せるから強い雄や雌は人気だ。
ついでに、ホビリンとホビミはお互い相思相愛なんだけど、お互いに意地っ張りで村のみんなの恋愛ドラマ的な位置づけになっていて生暖かく見守られている。
人が増えれば出会いも増える。村にも一大ベビーブームが訪れた。
各家からは子どもたちの元気な声がこだまして、そとでも可愛い子供たちが走り回っている。
なんていうか、こういう光景を見ると、ああ、墜落してよかったな。とかバカな考えが浮かんでくる。
バカで構わないさ、俺は楽しいんだ。
猫に似たダブルテイル族とコボルト族は特に子供が可愛い。
変身能力もあるのでそのまんま猫と犬みたいになれる。
アインズたちがにらみを効かせているのであまり犬の姿にはならないらしい……アインズの嫉妬心がとてもかわいい。
アインズたちはものすごく高い知能と戦闘能力を有しており、間違いなくうちの村の最高戦力だ。
特に人化したりもしていないけど、狼くらいに大きくなった種と中型犬くらいに留まっている種が出てきており、どうやら別の進化をしているらしい。興味深い。
ホブホビ達も更に進化をしており、戦士タイプ、肉体能力の進化を主体とした進化や、知能タイプと枝分かれしている。まるでゲームのようなツリーシステムがあるみたいで、個人的には非常に興味深い。
ホビリンはバランスよく正統進化って感じで、ホビロンは近接スピード重視肉体進化、ホビゴンは近接パワータイプなんだけど、傷の治療とかもできるようになっていたモンク的な位置づけかな?
ホビサーは知識進化でさらに精巧な物創りを行っている。ホビミも知識進化だが、遠距離戦闘においては他の追随を許さない最強の座を守っている。こんな感じでみんな個性が出てきている。
俺にもそういった物があれば楽しかったろうなぁ……
相変わらず鍛錬は続けているし、それなりに戦えるけど、アインズ達にはとてもかなわない。
嬉しいような寂しいような……
「しかし、ずいぶんと開拓したなぁ……」
村の中央にある物見櫓から周囲を見渡す。
詳細な地図と周囲地形の把握は重要なので定期的に知識更新を行っている。
居住エリア、商売エリア、製造業エリア、農業エリア、畜産エリアざっと分けると村は5個のエリアに分けられている。
もともと個々が森だったなんて信じられないほど広大な範囲を開拓した。
農業・畜産エリアは水を大量に消費するので湖の傍、製造業エリアも水は大量に必要なので比較的湖から近い。上水下水整備は早くから手を付けていたのでそれなりに満足の行くシステムが作れている。
まぁ、スライムとかそういうファンタジーアイテムも利用しているおかげで水質問題や土壌汚染がなくて済んでいる。
商売エリアは、名前は商売だが基本的にはお互い様で物々交換が主流だ。
料理自慢の店には材料が持ち込まれて食事が提供される、みたいな仕組みだ。
いずれは貨幣社会に移行していくらしいが、もうこのあたりはカイルとミケルに丸投げする。
基本的に村の運用はカイルとミケルに丸投げだ。
あの二人なら村のあらゆるデータを蓄積分析して最適解を導いてくれる。
本当に頼りなる。
村が広がれば周囲に噂が広がりまた人が集まっていく。
こうして、数年もすぎると巨大な都市が出来上がっていた……
そして、俺たちに試練が訪れる。
魔王軍との遭遇である。




