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第2話 現状


≪キャプテン、緊急事態につき要点だけ説明いたします。

 キャプテンが睡眠についてから75時間35分56秒32時点に異常事態が発生しました。

 原因は不明、ワープ宙域内に異常エネルギーが発生し強制的に通常空間に引きずり出されました。

 座標不明、本来の航路上に存在しない場所である可能性が大。

 すでに本艦はブラックホールの力場に巻き込まれており脱出は不可能と判断しました。

 キャプテンの生命を優先し、艦隊を破棄、睡眠ポットをグランドホープ号に移送後即射出、グランドホープ号の全エネルギーでシールドを展開したのちに艦体を自爆させ、その爆発のエネルギーを利用してブラックホールの力場から脱出を図ります。成功の可能性は12.45%。

 もしキャプテンがこの文章をお読みになっているなら成功したとお考え下さい。

 キャプテンの未来に幸多からんことを……≫


 眠りから覚めた俺の目の前には、点滅するモニターが映し出され、酷いジョークのような文章が書かれていた。


「嘘……じゃないよな……」


 睡眠ポットから出ると、寝る前の光景とはガラリと変わってしまっていた。

 非常用の照明に照らされ雑多に物が置かれている無重力状態、先ほどの文章から察する衝撃によってグランドホープに積んでいたいくつかの器機は固定から放たれて空中に浮いている。破損している物も少なくない。すぐに再固定をしたいところだが、状況把握のために操縦席へと移動する。


「良かった……お前らは無事か……」


 二体の相棒は変わらずスリープモードで眠っていた。

 主のいない操縦席も非常用照明以外は沈黙している。


「モニターオン」


「外部モニターを起動します。現在エネルギー量が10%を切っており航行は不可能となっています」


「惨い状態だな……」


 モニターに映される外の映像は、美しかった。

 満天の星空が360度全てに広がっている。

 室内が暗いせいで余計にその光が美しく見えてしまう。


「まずは、状況の確認だな……ホープ、現状はどうなってる。何が起きた?」


「まずはワタリの無事を喜ぼう」


 いつものかたっ苦しい言い回し。それでも長く付き合っているとそういう感情を持ってくれているような気持ちになる。


「現状本艦は座標不明宙域に存在しています。

 艦隊の損傷率は31%、通常航行は不可能です。

 エネルギー残量も7%、現在復旧を試みておりますが非常に難航しております。

 ワタリ、提案があるのですが、申し訳ないのですがカイル、ミケル両名に協力をお願いできませんか?」


「ああ、確かにそうだな。それがよさそうだ。すぐに起こす」


「感謝いたします」


 俺はすぐに後部座席で眠る二体を起動させる。


「カイル、ミケル()()()()


 音声入力によって速やかに二体のアンドロイドが起動する。


「あら、もう散歩の時間なのかしら?」


「おはようワタリ、いい朝……ではなさそうだね」


 黒猫のミケルは気取った感じの女性声、カイルは落ち着いたダンディーな男性声。

 俺のこだわりだ。


「二人とも異常は無いか? こちらは非常事態の真っただ中なんだ、すまないがホープの手伝いをしてやってくれ」


「あらあらホープも久しぶりだけど、酷い有様ね……」


「早速手伝うとするか、ホープ、ワタリに現状の詳しい説明でもしてやってくれ」


 二匹ともすぐに状況を理解して操縦室から出て行く。


「これで復旧の目途も着きますワタリありがとう」


「いや、遅くなったが俺を守ってくれてありがとうホープ」


「本当にギリギリだった……もう少し爆発の規模が大きくなれば船体は粉々になっていただろうし、弱ければブラックホールに引き込まれていただろう。

 ああ、ブラックホールからはすでにかなりの距離を取れているが、慣性任せになっている。

 正直どの星にも衝突せずにここまで流れていられたのは幸運でしかない」


「ははは、想像よりも遥かに危なかったんだな。原因は不明ということだが……」


「ギリギリまで情報を受け取ってありますが、解析に回せるエネルギーもなかったので保留中でした。

 お二人が今エネルギーを融通してくれているので並行して解析中です。

 ただ、原因は不明のままになる可能性が高いです。

 ワープ宙域に干渉する存在なんて事実上あるはずは無いですから」


「そうなんだよなー……」


 俺が操縦席に深く身を預けると同時に艦内の照明が復旧する。

 明かりというものは人間の心を落ち着かせるんだなと感じる。

 薄暗い非常灯に比べると冷静さを取り戻してきたような気がする。

 

「なんか、あまりに凄いことが起きると逆に冷静になるんだな……」


「特にワタリはポッド睡眠明けだから現実味を感じなかったのだろうね。

 コールドスリープ明けだったらもっと酷かったな」


「ははは、笑えないなぁ……」


「とにかく、まずは通常航行可能な状態を目指して今は作業中。

 もう少し待ってほしい」


「わかった……しかし、ホープ内の物資だけでも無事だったのは幸いだった。

 宇宙空間でも半年、降りられる星があればかなりの期間生存が可能だろう」


「カイル、ミケルが無事であることも幸運ですね」


「全くだ……そうだ、俺も格納庫の掃除をしてこないとな。重力復帰はまだだろ?

 この状態のうちに片しておこう」


「わかりました。何かあれば連絡します」


 俺は再び格納庫へと戻る。あの惨状を直しておかないと重力が回復したらヤバい……

 

 しかし、格納庫内は俺の予想に反して整然としていた。


「少し散らかっていたから片しておいたよ」


 カイルが機関室から格納庫へと戻ってきた。無重力状態でも普通に歩いているのは足元に磁場を作ってくっつけているんだろう。


「ありがとうカイル、どうかなホープの状態は?」


「酷いもんだよ。出力限界を超えてシールドを展開していろんなところが焼き切れているし、何より動力炉のダメージが大きすぎる。今ミケルが同化修理を行っているんだけど、使える物を持ってこいって言われてね。ちょうどよかった。どれなら使っていいかな?」


 同化修理、ナノマシンによって構成されているアンドロイドによる修理方法で、文字通り同化して修理する。軍用最新鋭アンドロイドである二人は大抵の物質を取り込んで自在に利用が可能だ。

 形態も今取っている形は俺の趣味でしかない、液体状になることだってできるし繊維状になることだってできる。一時的な代替ならいいが、修理となると材料が必要になる。

 この船に乗せてある一部の機械はその材料になってもらわないといけない。


「……まあ二人がいるから武器兵器類は使ってしまっていいよ」


「おお、それはありがたい」


 材料さえ確保できればまた作り出せる。

 それに、よほどの大群相手でもなければいくら兵器としての機能を封印されていても相手にはならないだろう。まだ俺だって戦える。

 カイルは武器のしまってある箱を開けてどんどんと飲み込んでいく。

 なかなかシュールな姿だ。飲み込むことで重量が変化してしまうが今は無重力状態。

 さらに重力下では自身で重力調整を行って適正な体重に維持している。

 こんなに小さな体だが、莫大なエネルギーを作り出すことが出来るし蓄えている。

 全長50メートルに及ぶホープの運用エネルギーを融通できるほどなのだから、つくづく凄い奴らだ。

 

「ひつようならあそこのプラントたちは使っていいから、あとは二人の判断に任せる必要な処置は何でもしていいぞ」


「ああ、少々時間はかかるが大切な仲間だ任せておいてくれ」


 俺が今日という日まで生きながらえてこられたのは間違いなく3人(?)のおかげだ。

 何でも使ってもらって構わない。


「……どうせ母艦を失った俺は、一生物の借金を背負ったわけだしどうにでもなれって話だな……」


 中古とはいえかなり状態のいい宇宙船、軍隊の退職金を頭金に肩書を利用して無理して手に入れた代物が……仕方がないとはいえ……ブラックボックスも消失しているし、解っている状況を見ても保険も無理そうだ……

 

「帰れたとして、傭兵でもやるしかないなぁ……」


 それか、今から宝の星でも見つければ……

 

「はぁ……」


 ため息しか出ない。

 ため息と同時に腹が情けない音を立てて鳴き始めた。

 

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