第18話 格付け
俺が外に飛び出すと、すでに街は戦闘状態、すぐに敵を探す。
「ワタリ! 動物舎に!」
ミケルの声に反応してそちらを見ると、ホブゴブの身長は3倍、横幅は5倍はありそうな生物がうちの動物を今まさに生のまま飲み込んだところだった。
体系はドラムのように太っている。額には分厚いコブのようなものがあってホビットに比べると小型の目がギョロギョロと周囲を見渡している。口が大きく、ぐちゃぐちゃとさっき食べた動物を粗食していてあごもでかい。腰ミノのような粗末な着物に泥と毛まみれの体、不潔だ。
腕が丸太のように太く、爪は鋭く長い。
足は体に対しては少し不格好に短いが、その代わりその体を支えるために巨木のような太さだ。
完全にパワータイプだなと思わせるその姿に気後れしてしまう。
「野蛮だなぁ……あれ以上被害が出ては困る。
とりあえず動物を避難するよう指示を出してくれ、ミケルカイルは情報収集と伝達に専念して!!」
二匹はすぐにそれぞれの仕事につく、俺は武器を構えてあのでかい原始人を叩きのめしに行く。
「ホビミ、犠牲者はいるか? あと、あいつは殺していいか?」
「犠牲者は出てない。弱肉強食、やらなければやられる!」
「最もだ! 援護頼む!」
ホビミは弓の名手、俺の言葉ですぐに意図を理解して大男、オーガってとこかな、オーガの意識を惹きつけてくれる。弓が数本刺さろうが分厚い脂肪の層で止められるみたいだ。
「犠牲になった動物の恨み!!」
「グアアアアアッ!!」
「遅い!」
ぶっとい丸太のような腕を伸ばして俺を攻撃してくるが、ホブホビ達に比べたらあくびが出る。
腕の根元を鉄棒でぶっ叩く、そのままフルスイングで頭を殴りつける。
ごっ、グシャ
嫌な感触が手に響く。しかし、その一撃を受けてもまだ腕が伸びてくる。
「頑丈な奴だな!」
振り回された腕を潜り抜けてとどめの一撃を振り下ろす。
ごしゃんという手ごたえが、頭部の完全破壊を確信させる。
同時にびくりと体を揺らして巨体がぐらりと傾き、そのまま畜舎を潰すように倒れていく……
「はぁ……ここはもう一から作り直しだな……」
こいつが侵入したであろう後は、乱暴に破壊され、その復興だけでも気が重い。
今はそれよりも外敵の排除だ。周囲を見渡すと、ホブゴブの攻撃では残念ながらオーガを倒すに至れないようだ。
「皆、攻撃回避に集中して攻撃は足と頭部に絞れ!」
大声を上げる。きっと皆には伝わるはずだ。
俺は一番近い戦闘場所へと走る。基本的にオーガに致命傷を負わせられるのは俺か、もしかしたらホビゴンなら行けるかなといった感触だ。
「援護よろしくー!」
オーガと戦っているホビット達の間に飛び込んで戦闘に参加する。
オーガの鈍重な攻撃はホビットたちにかすりもしていないし、すでにオーガの体にはいくつもの傷を作っているが……効率的なダメージは与えられていない。
「遅いけど、強い!」
「分厚い皮膚や脂肪で斬っても無駄だな。肉が薄いか所を狙うか、こうやれば!!」
振り下ろされた腕を避けてそのまま肘に鉄棒を叩き下ろす。
関節が砕ける感覚が手に残るが、そのまま折れた腕の側から頭部を横なぎに殴りつける。
顎下を振りぬいたせいで脳震盪を起こし、オーガが転倒する。
申し訳ないが、情けはかけられない、昏倒しているオーガの頭部を叩き潰す。
「硬い……曲がってきたぞ……」
今まで虫相手では無双を誇った鉄棒が若干歪み始めている。
「ホビミー! こいつらって何?」
「森の嫌われ者! 暴れん坊! 威張ってる!」
「だいたい分かった!」
見た目と行動通りだな。
森なんて広いんだからそっとしておいてほしい……
次の戦場は、なんとすでにオーガが倒されている。
「アインズ達すげーな」
わんこたちがオーガの首筋を断ち切っていた。ホビたちと協力しての作業だろうが、足首や手首、末端を攻撃しての首筋、完璧と言える。怖い怖い。
俺がもし狙われた場合なすすべなく倒されると思っているのはわんこたちの集団だ。
ものすっごく頭もよく、群れとして最適解ともいえる行動を取れるわんこたちは最強の軍隊と言える。
「良くやった! 他の場所も手伝ってくれ!」
それから、一時期の奇襲によって混乱した戦線は少しづつ押し上げて村の外に追い出していく。
森に入れば鈍重なオーガとホブホビ達、犬たちのパーティを相手にするのは不可能。
逃げ出した奴らはあまり深追いしなかったので3体ぐらいは逃がしたが、倒したオーガは10に昇る。
こちらの人的被害は軽症5名ぐらいと軽微で済んだ。
「大活躍だな! よくやった!」
久しぶりにわんこたちを撫でまわして回る。
ホビットたちも嬉しそうにわんこと戯れている。
「しかし……住居がばれた以上対策を取らないとな。あと復興も……」
「ワタリ、このオーガばらせば大量に油を手に入れられそうよ」
「おおう、えぐいこと言うね……」
「頭を潰している奴が何を言うんだか……」
「ワタリ、オーガの骨とても固い。いい武器になる」
「なるほど、解った。装備の刷新は急務だ。
とりあえず死体から使える物は使うぞ!」
ホブホビ達は躊躇なくオーガの死体を解体して骨や肉を取り出す。
分厚い脂肪は調理や照明の燃料にもなった。
人を食べるみたいでいやだったけど、なんと、獣臭い豚肉みたいな味だった。
さて、忙しくなるぞ。




