第16話 一匹見たら……
ミケルとカイルがアレの巣を見つけてくれて帰ってきた。
正直、行きたくない……でも、アレは危険すぎる。
巣を壊滅させ、虫害も少し減ってきたような気がする最近、大物が来たものだ……
「けが人はいないか?」
「だいじょぶ! けが、ない!」
「はたけも ぶじ!」
「むし! にげた! かち! かち!」
「まだ巣をつぶさないとまたわんさかやってくるぞー」
「やだやだ、すつぶす!」
「つぶす! つぶす!」
「森の点検が終わったら少し休憩して巣を退治しに行くぞー」
「いくぞー! いくぞー!」
「たいじ! たいじ!」
ホビット達の士気は衰えていない。
少し喉を痛めたホビットはいたが、皆大けがなどはしていなかった。
実害としては雨が降らなければ数日周囲が臭いことだな……
俺は巣を破壊するための道具をまとめておく、基本的には火攻めで終わりなんだが、ヤツらはしぶといから万全を期す。
村を守るために豪快に使用してしまったので、またストックを溜める日々だな。
虫よけの草などは森を探せば困ることなく見つかる。
ホビットたちも協力してくれれば何とかなるだろう。
巣退治部隊は精鋭5人を引き連れていく。
ほかのメンバーは村の復興と勝利の宴の準備をお願いしておく。
ミケルが俺たちを誘導してくれる、カイルは監視のために残っている。
すでに座標で把握しているので迷うことは無い、流石だ。
「あそこかぁ……」
ちょっとまずい場所にある。木の根元に穴が開いてその奥らしい……
あの位置で火を使うと木が燃えて収取がつかなくなる可能性がある。
「仕方ない、俺が先行して上を切り倒す。
切り倒したらすぐにあの穴に殺虫剤と着火剤を投げてくれ」
「りょ! りょ!」
「なげる! なげる!」
時間がない、レーザーカッターを使用する。穴の反対側に回り込んで隣の木から目的の木に飛び移り、一気にカッターをねじ込む。ズブズブと木にめり込んでいく、そのままぐるりと一回してあとは上部分を全力で持ち上げて幹から離れるようにぶん投げる。
「今だ!!」
「くらえ!」
「えいや!」
「とりゃ!」
見事な投擲で煙を上げながら薬が穴に落ちていく、すぐにぶわっと煙が発生して、炎が上がる。
残った幹が炎にあぶられてぶすぶすと音を立てている。
「気をつけろよ、大量にあふれ出てくるかもしれないぞ」
周囲の監視はミケルとカイルに任せている。
今は何をしているかというと、送風機で風を送り込んで煙が他の場所から上がらないかのチェックだ。
これが済めばいよいよ突入となる。
殺虫成分が超高温で巣穴に満たされても無事なものがあったりする。代表的なのが卵だ。
熱を併用してほぼ問題ないが、稀に生き残る奴がいる。
それにアレは卵を卵鞘とよばれるもので包むために殺虫剤の利きが悪い、きちんとぶっ潰してやらないといけない。
「よし、すげー嫌だけど。突入するぞ」
十分に燻され煙も収まった。アレの巣穴に潜入する。
「ぐえええ……エグイでござるー」
巣穴の中に、所狭しとアレの死体が散らかっている……
「とどめ! とどめ!」
ホビットたちは元気に頭を潰して回っている。
周囲の警戒に二人、潰すのが二人と俺だ。
おれもぶちっぐちゅっと潰して回っている。
「1匹いれば100匹いるってほんとなんだなぁ……
巣自体はそんなに大きくないのに、こんな数が……
っと、あったあった……」
卵鞘に包まれた卵が部屋の隅に置かれている。
ホビットたちと次々に潰していく。
あまり細かな描写はやめておこう……
それから丁寧に残党を潰して、油を撒いて火を放つ。
これで本当に終わりだ。
幸運なことに、生きた個体は存在せずに、無事に根絶やしにすることに成功したのであった。
「やった! やった!」
「かち! かち!」
村へ帰る道もホビットたちは元気に踊りながら俺の周りをまわっている。
あまり探索に出ないほうのエリアだったので、食べられそうなものを集めながら帰っている。
その途中で断層があらわになった小さな崖を見つける。
「あれって……」
その一層にすごく興味をひかれた。
宝石というほどではないが、妙に透き通った様な石の層がある。
「もしかして……」
俺は岸壁に取りついてその石の部分まで上がっていく。
「のぼる? のぼる?」
「いや、確かめるだけだから大丈夫」
なんとかその透明な石の場所まで上がり両足で壁面に安定させ、手持ちの道具で石を削ってみる。
匂いは無機質だが、独特な風味を感じる。
意を決して軽く舐めてみる。
「……岩塩だ……」
鋭い塩っ気が舌を刺激した。
本格的に取るのは今度にして、少し大きな塊を削り出して懐に入れる。
思わぬ報酬を手に入れた。
ホープが稼働すればいくらでも手に入るが、現在は天然から何とかするしかない、海が見当たらない場所でこの発見は大きい。
「近くに海があったりしたのなら、進めばあるいは発見できるか?」
墜落時のデータでもあれば周囲地形も把握できたのだが……
「岩塩があるから海って考えも地球の知識だからな、でも、朗報には間違いない」
「まだー? まだー?」
「ごめんごめん」
俺は一気に飛び降りる。
「ここまでの道はこれから使うから軽く整備しながら帰ろう」
「りょ!」
「き、きる!」
「えだ、おとす」
「そうそう、頼んだぞー」
俺の周りを回りながらは変わらないが、器用に枝を落として草木を刈り取っていく。
獣道より立派な道をこの場所へとつなげていく。
「さっき、なに? なめてた」
「うまい? うまい?」
目ざといな……
「ほら、塩だよ。しょっぱい奴、味付けに使ってる奴」
「なめる、しょっぱい」
「そのまま、きらい」
「りょうり、うまい!」
また元気に踊りだした。
こいつらの歌みたいな踊りを見たり聞いたりしていると俺まで楽しくなってくる。
本当に大切な仲間、いや、家族なんだなぁと、なんとなく思ってしまう。
「よし、帰ったら宴だ!」
すでに夜明も近い時間だが、俺の一言で皆のテンションはさらに上がっていく。
アレの襲来で中断された宴が、より盛大に開催されることに疑いようはなかった……




