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第15話 黒いヤツ

「うまい! うまい!」


「おいし! おいし!」


「うたげ! うたげ!」


 ホビットたちが火を囲んで各々好き勝手に踊っている。

 よくわからないけど、凄く楽しそうで見ているこっちも自然と笑顔になって楽しくなってくる。

 ミケルとカイルも振り回されながら迷惑そうにしているが、あきらめ気味だ。

 ほんとの子犬も、子猫姿のミケルもホビットたちはものすごくかわいがってくれている。

 畜産動物たちの世話もとても熱心にしてくれている。

 命の大切さを知っているからか、狩猟でとった獲物も無駄にせずに感謝していただいている。

 ホビットたちの潜在的な倫理感というか、品みたいなものを感じる理由はそういうところだと思っている。

 

「にくにく!」


「やさい! だいじ!」


「にくすき! やさいにがて!」


「だめ! たべる!」


 母と子の微笑ましいやり取りを見ながら俺も食事を口に運ぶ。

 きちんと調理された猪の肉は、その独特の風味とスパイスが絶妙に絡み合い、上等な物へと昇華している。ここでビールがあれば最高なんだが……残念ながらアルコール作成機はいち早くホープの修理に使用された……

 カイルとミケルの一部も早いところホープから分離して元に戻してあげたいが……


「鉱石の産出も飛躍的に増えたとはいえ、希少な鉱物とか素材もあるからなぁ……化学プラントもないし……エネルギーの問題も……俺が生きている間は難しいかな……ま、それでも、いいかー」


 ホビット族との出会いのおかげで、俺は益々ここでの生活に満足している。

 

「ワタリ!! ムシ!! おおい!!」


 そんな幸せな宴を終わらせる叫び、警戒に当たっていたホビットからの急報だ。


「すぐに行く! 皆宴はおしまいだ! 戦士は俺に続け!

 子供たちは砦へ向かえ!」


 町の何か所か、防衛設備を作っている。

 戦えない者はそこに避難するように決められている。


 俺は急いで物見櫓へと上がり、ホビットたちが示す場所を探る。


「……げっ……()()か……」


 そこに見えたのは最悪の相手だ。

 黒く硬い甲羅、素早い機動と生理的に受け付けない動き、飛行能力も備えており、雑食性で食欲旺盛、数匹でいくつかの畑を壊滅的に破壊してくれたこともあった。

 それが、黒い絨毯のように広がっている。


「総力投入するぞ! ありったけの薬を焚け!」


 俺は手ものと鐘をけたたましくならす。

 緊急事態を告げる鐘、出し惜しみなしだ。


 虫よけの香を焚いて、さらに濃縮したエキスを噴霧する。

 粘着性のある樹液と混ぜたものも街の外周に手分けして散布する。

 風向きは湖から森へ向けて流れるために、たぶん、しばらくは狩りの成果が低下するだろうが、ヤツらもかなり嫌がっていることが手に取れる。


「投石開始」


「なげろ! なげろ! うて! うて!」


 ホビットたちは歌うように踊るように投石器でヤツらの群れに石を打ち込んでいく。

 かたい甲羅ではじかれることも多いが、無残にも潰される奴も出てくる。

 あいつらの小癪なところは、仲間が死ぬとその体液が危険を感じさせるようで、距離を取って立て直してくることだ。

 すぐに距離を取られてしまい投石の射程外になってしまう。

 そのまま逃げだしてくれればいいが、これだけの群れ襲ってきたのだから向こうも成果を持ち帰りたいのだろう。


「全く、森の中にも食べられるものがあるだろ……知られちまったからなぁ……」


 この虫たちは明らかに俺が持ち込んで育てた野菜や果実を好む傾向がある。

 さらには家畜やホビットたちを襲うのも好んでいる。どうやら、俺が持ち込んだものを食べた生物は……美味しいらしい……。


「しつこいなぁ……あー、気分悪い……」


 森の中でカサカサと黒い虫が蠢いてこちらの様子を伺っている。

 飛行して飛び込んでくることもあるが、空中はもうもうとした煙に包まれているので、地表近くにいた方がいいと判断したみたいだ。


「……持久戦は……不利だな……仕方ない、別動隊で敵を投石の間合いまで追い込もう」


 特に戦いに長けているホビットたちを集めた別動隊を迂回させて背後からヤツを突っついて投石と挟み撃ちにする。


「みんなちゃんと草はつけたか?」


「くさいくさいのつけた。いけるいける」


 対虫用装備は濃厚な臭いを発している。

 マスクとメガネをしていないと染みるほどだ。

 そのおかげで虫に一斉に襲われることが無い、命には代えられない。

 5人ほどの戦士を従えて、村の反対側の門から大きく迂回して森を進んでいく。

 一旦森の中に入れば、この装備の迷彩機能は大したものだ。

 風向きをきちんと考えればかなりの隠密行動がとれる。風向きを考えれば、だ。


「臭い……」


 これを着て戦うと2・3日は匂いが取れない。

 それでも仕方がない、ヤツらにあげる食糧などないのだ。


「しかし、これだけの群れだと巣を探さないとまずいな……」


 増える速度も半端ないから早いとこ巣を見つけて火でも放っておかないと、今日みたいなことを何度も繰り返されてしまう。今までも大量の虫が発生したときにはカイルとミケルに巣を探ってもらって壊滅させてきていた。今回も敵が撤退してくれれば後をつけてくれるだろう……


 そんなことを考えていたら、予定襲撃地点に到達する。

 ハンドサインで後続の戦士たちに指示を与える。

 出来る限り効果的に敵を混乱させたい。

 俺は懐から瓶を取り出して、蠢く黒いの中心に高く放り投げる。

 すぐに矢に着火装置で火をつけて弓を引き絞る。

 瓶が地面に落ちて内部の液体が周囲に飛散したことを確かめて矢を放つ。


 ブワッ!


 炎が周囲に走り、熱風が生じる。

 これ自体は一瞬で落ち着くのだが、強烈な臭気が周囲を覆う。

 俺たちは濡らした布を当てて地面に伏していたが、その臭い熱風を浴びたアレ達は手足をびくびくと動かしながら行動不能に陥っている。

 

「かかれぇ!!」


 武器を鈍器に持ち替えて、行動不能の集団に突撃していく。

 熱風から距離があったアレ達も異臭と俺たちから逃れようと村側へとカサカサ逃げ出していく。

 俺らは片っ端から鈍器でアレ達の頭部を潰して回る。


 濃縮した虫よけは非常に火が付きやすく、しかも燃えることでより一層効果が上がる。

 その代わりに目には染みるし、吸い込めばせき込みが止まらないし、場合によっては寝込むことになってしまう。

 きっちりと準備をして使用しないと危険が危ない代物だ。


「森に火がついてないかよーく調べろー」


 ようやく敵が撤退をしてくれたので、一度村へ戻ってからホビットたちに指示を出す。

 一瞬しか燃えないのであまり燃え広がったりはしないが、一度実験で一部の森を黒焦げにしたことがあるので注意している。


「あとは二人に任せよう……」


 まだ大仕事が残っている。巣退治だ。



 



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