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第1話 事故

「重力推進出力安定! 相転移エネルギー機関、補助機関も全て安定!」


「索敵範囲内に敵影確認できません」


「予定航路上に未確認対象存在しておりません」


「全機関問題ありません、空間跳躍(ワープ)行けます!」


 艦橋(ブリッジ)に報告が上がってくる。

 と言っても、これを聞いている()()()()()()だ。

 それ以外の乗務員(クルー)は全てアンドロイドだ。


「これより本艦は未踏宙域へのワープを実行する」


「ワープ航法準備完了いつでもいけます!」


「ワープ!」


「ワープ」


 同時に体に急激な負荷がかかる。

 防御壁に覆われたブリッジの外部を映していたモニターから星々が飛ぶように背後へと流れて行く。

 光の輪が前方に現れ艦体がその輪に突入すると同時に外部を観察するモニターも全て暗転する。

 何も映し出されないモニターに囲まれ加速のGが落ち着くとガタガタと艦体全体を包み込んでいた振動が落ち着く。

 ワープ空間に艦体が完全に安定したことを意味している。


「ワープ航法、安定化しました」


「予定宙域に到達するのは95時間48分33秒後」


「各自モニタリングモードでワープ航法を維持してくれ、俺は適当に過ごしている。

 到着1時間前に起こしてくれ」


「了解いたしましたキャプテン」


 アンドロイドたちは休むことなく艦内と艦外の状態をモニタリングし続けてくれる。

 俺は安心してブリッジを後にする。


「さーて、俺はあいつらの様子を見て、冬眠すっかねぇ……」


 俺は格納庫に向かう。

 格納庫では俺と長い間一緒に戦ってきた愛機グランドホープ号と内部のカプセルには二体のアンドロイドが眠っている。

 見た目は可愛らしいバーニーズマウンテンドッグの姿を模した犬型戦闘支援アンドロイド、カイル。

 もう一体は銀と金の瞳を持つ黒猫、猫型総合支援アンドロイド、ミケル。

 アンドロイドと言っても構成物質は最新のナノマシンの集合体だ。

 俺の趣味でこの形を取らせている。戦場でもやはり見た目で癒されている方が優れていることは科学的にも証明されている。俺の中で。


「相変わらず可愛い奴らだ」


 こいつらのためにも早いとこ今回の仕事を済ませてゆっくりしたいもんだ。

 

 俺の仕事は、星先案内人(アンカー)

 広大な宇宙の未踏破宙域を探索して、人類が居住可能な惑星を探すことが仕事だ。

 それ以外にも資源星などを探すことも役割の一部となっている。

 広大な海に錨を下ろして人々を導くことからアンカーと呼ばれている。

 この仕事ははっきり言って超ハイリスクハイリターンだ。

 人間の生存領域から大きく離れて航海をしなければならないし、未知の危険な惑星の探索を行う必要もある。もちろんアンドロイドを利用し初めてかなり安全性は増してきたが、先住者の存在や接触があった場合の判断などは生身の人間が行う必要があるらしく、アンカーの船には最低一人の生身の人間が乗っている必要がある。

 

 人間は増えすぎた。

 科学技術が発展し、エネルギー問題や食糧問題が人類同士の戦いの原因になりにくくなると、人々は無作為に増え始めた。

 労働の多くをAIやアンドロイドに任せることによって、人間は多くの余暇を得ることに成功した。

 退廃的な行動に出る一部の人間以外は、余裕のある生活を喜び、そして増加した。

 結果として限られた土地は増加した人間に埋め尽くされていく、高所へと居住を移動させても限界が来る。

 そして人類は無限に広がる宇宙へとその居住を移すことになった。

 宇宙開発は飛躍的に発展した。コロニー型住居をはじめとする宇宙生活は人類に新たな世界を広げていった。


 拡大する人類の増加は、膨れ上がり広がり続けていた。

 そして、アンカーという職業が生まれた。

 宇宙空間で出会う外敵は知的な生命体は今のところ確認されていない。

 しかし、宇宙空間でも生活可能な生物は存在していた。

 様々な形態の物がいたが、特に恐ろしいのが強固な甲羅に包まれ宇宙空間を飛来する宇宙昆虫(テラバグ)と呼ばれる奴らだった。

 人類は生存地域を広げる代償に、未知の敵に遭遇してしまったのだ。

 最初のころは人類がただ虫を駆虫するだけだった。しかし、虫たちは高度ではないにしろ知恵を持っていた。少しづつ戦艦や戦闘機と渡り合える能力を身につけていき、そして最も問題だったのは人類が彼らにとって非常に有効かつ美味な食料ということを知られてしまったことだった。


 こうして人類の宇宙発展の歴史は、虫との戦いの歴史へと塗り替えられていく。

 人類は強力な虫に抵抗するためにさらに宇宙空間での艦隊戦闘と戦闘艦による戦闘が発達していく。

 さらには人類の美味を求める虫たちとの白兵戦技術も発展していく。

 人類の希望である解放宇宙軍の兵士たちは、自らの体内にナノマシンを注入し、それらによって戦闘艦や様々な武器などを運用して虫たちと戦い続けている。

 ナノマシンによる武具はその破壊力、応用性が高い。

 無人兵器も多く戦場に投入されているが、人間が操作するナノマシン兵器はそれらAI兵器よりも遥かに多くの功績を立てている。

 特に常に最前線で戦い続けている特殊部隊、ブラックフォースと呼ばれる部隊の兵士たちは一人で一個大隊に匹敵する戦力を持っていると呼ばれている。


「俺もそんな部隊にいたんだよなぁ……」


 どうにも他人事に感じてしまう。事実、俺はその部隊にいた。

 確かに体は虐めるだけ苛め抜いていたから、我ながら引き締まった身体をしていると思う。

 身長は184㎝体重は91kg体脂肪も8%でキープしている。最近このキープがかなりしんどくなってきて……いや……言っていると哀しくなる。

 軍隊時代と同じくサイドをギリギリまで刈り上げた黒髪の短髪、人からは眼光鋭いなんて言われるが、実際は細めのたれ目であまり好きではない。人からは上の中ではないが中の上か上の下くらいはあると褒めてるんだか褒めてないんだがよくわからない言われ方をされる。

 軍生活は苛烈を極めて、今まで彼女なんていたこともない……

 そういった生活を犠牲にしたおかげか、何度も虫たちと渡り合っていくつもの作戦を成功させてきた。

 しかし、ナノマシンがすごいだけで、どうにも自分の実力と感じることが出来なかったというのが正直な気持ちだ。

 特にカイルとミケルは俺との相性が抜群で、いくつもの戦場で彼らに助けられた。

 そんな俺も36歳……ブラックフォースに利用される軍用ナノマシン投与限界の年齢を迎え、軍に残らずにアンカーの道を選んだ。

 カイルとミケルも軍用装備は封印され俺の手元に残してもらえることになった。

 軍用兵装がなくともあの二匹は非常に優秀なアンドロイドだ。

 アンカーとしての俺の人生でも良きパートナーとして過ごしていけるだろう。


「さて、それじゃあひと眠りするかな」


 ワープ航法が終わるまで俺は睡眠カプセルで眠りにつく。

 ひと眠りすれば人類が到達したことのない未踏宙域になる。

 その事実は俺の心を高ぶらせた。

 

 元々俺は冒険だのそういう話が大好きだった。

 物語や小説もたくさん読んだ。今ではデータを入れればすぐに理解できるが、俺は文章を読んでその世界に入り込んでいく感覚が好きだった。

 もちろんアニメや漫画、その他いろいろな物も一通り手を出している。

 同僚にはこんな訓練の合間にそんなことをやってられるお前は強靭だと良く褒められた。

 ありがとうと答えるといつも変な顔をされていたのはなぜなんだろう?


 意識がまるで水に沈んでいくかのように遠くなっていく。

 再び目を覚ませば人類が見たことのない宇宙(そら)が広がっている。

 俺はそんな夢を心に抱いて睡眠カプセルに導かれるままに眠りへと落ちていくのだった……

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