初めての朝
「ふぅ〜、ご馳走さま。美味しかったよ。ところで今日は何をやるんだ?ミラリア?」
「うーん、そうだなぁ……また狩りに行こうかな」
「俺も連れて行ってくれないか?」
「いいよ〜」
「ありがとう、無理を行ってごめん」
「全然大丈夫だよ!準備が出来たら呼ぶね」
俺は取り敢えず部屋に戻る。本棚に並べてある本が気になったからだ。
俺は左から順に本の題名を見ていく、何かの魔道書や童話もあったが一つだけ素材の違う本があった。
俺はその本を手に取る。
(なんだこれは?やけに重い。それに何かの魔力を感じる。苦手だが試してみるか……)
「《魔法探知》」
俺はこの本にどんな魔法がかかっているか調べる。
上位の物なら魔法の解除も容易いだろうが騎士に準じた職業構成の俺にはこれが限界だった。
(《選別者》に《絶対防護》、
《自動反撃》……?)
知らない魔法ばかりだったが尋常でない力を有していることだけは分かった。
(取り敢えずインベントリにしまっておいて後でミラリアに聞いてみるか……)
俺はこの本をインベントリに仕舞う……が。
「痛たたたたたた!?」
本がインベントリに入るのを拒むかのように帯電し始めた。
とっさに俺は本を床に放り投げた。
「何!何!どうしたの!」
俺の声を聞いたミラリアが部屋に飛び込んでくる。
「がぁっ!なんだこの本!?」
俺とミラリアは床に浮いている本を見る。
「ミラリア!この本どういう本なんだ!?」
未だ状況がよく分からない俺はミラリアに問いを投げる。
「見覚え無いなぁ。ここに元からあった本じゃないかな?」
「元から?」
「実はこの家誰のか分からないんだよね。10年前にたまたま見つけて入ったんだけど……持ち主が来たら謝ろうと思ってたんだけどさ……」
「来なかったんだな?」
ミラリアは頷く。
「取り敢えず本を戻したら?」
「そ、そうだな」
俺は恐る恐る本に触ってみる。もう帯電はしていないようだった。
そのまま本を元あった場所に戻す。
「じゃあ私準備してくるから」
「ん……ああごめん」
ミラリアは自分の部屋に戻っていくのを横目で見ながら俺は本の確認に戻った。次に手に取ったのは『ロレスビュートの近代史』という歴史書だった。
【内容】
ロレスビュート王国は、王都リュロイレンを首都とする国であり、北には多数のドラゴンが生息するグレイス山がそびえ立っている。現国王はカイル・ロレスビュート2世。亜人種には比較的擁護的であり、そのことが原因で王国の西側を覆うように位置し、亜人種の排除を掲げる隣国レイラリアス帝国と長い間戦争をしている。軍隊は様々な部隊から成り立っており各部隊の隊長によって分割管理されている。
一通り読み終わったところでミラリアが俺を呼ぶのが聞こえた。
「ハイド君!準備出来た?」
俺は慌てて鎧を着て外に出る。
「準備出来たみたいだね」
そう言ったミラリアの両腕にはブレスレットがあった。
「じゃあ早速出発!」
「おー!……と言いたいのですが今日の目標は?」
「川で魚を取りたいと思いまーす」
そう言ってミラリアは歩いて行く。俺はそれについて行った。しばらくするとミラリアの足が止まった。
何事かと聞こうとしたが、彼女が先に静かにするようにジェスチャーし次に茂みに隠れるように言ってきたので一緒に茂みに隠れる。
(どうした?何かあったのか?)
([森の狼]の群れよ。数は6匹だね)
俺たちは極力声を抑えて話す。
(せーので一緒にやるよ……せーの!)
俺たちは二人でほぼ同時に群れに飛びかかる。
「グルルルルルル!」
それを見て[森の狼]も飛びかかってくる。またしても命の危機の到来だ。
だが昨日とは決定的に違う点が一つある。
(昨日は一人だった。でも今日はミラリアがいる!)
昨日より遥かに速い剣撃が[森の狼]を真っ二つにする。
「よしっ!残りもこの調子で片付けてやる!」
ちらっとミラリアの方に目をやると見事な弓捌きで[森の狼]を倒している。
「《強射》!」
(近距離であの速さ……凄いな。俺も負けてられない!)
「《炎斬》!」
やがて狼たちは1匹残らず地に倒れ伏せた。
「お疲れ〜怪我とかない?」
「大丈夫」
「じゃあ気を取り直して川に行こう!」
しばらくして川に着く。
「なあミラリア、釣竿も無しにどうやって魚を採るんだ?」
「手掴み」
(ワイルドですねーお嬢さん。さっすがですわ)
俺には初めての体験だった。
「全然掴めんぞぉ!」
(ミラリアは………)
流石だ。次々と魚を採っている。
「すんません。次頑張ります」
「大丈夫大丈夫、そのうち慣れるよ」
俺とミラリアは(主にミラリアが採った)大量の魚を家に持ち帰った。
その日の夕食が絶品だったのは言うまでもないことである。




