病室にて
「お前奴隷だったのかよ」
「もう一緒には居たくないのぉ?」
「……さよなら」
「じゃあね」
「待ってよ!置いて行かないで……!」
アルトは何も無い中空に手を伸ばす。気がつけばそこはベッドの上だった。
「夢か……良かった……」
「目が覚めましたか?」
「あ、はい。あなたは?」
「私はセレストよ、よろしく。取り敢えずココアでもいかが?」
「ありがとうございます」
温かいココアを飲み身も心もあったまる。
落ち着きを取り戻して来た所であることに気づく。
服が別の物に変わっている。自分が元々着ていた服は部屋の隅に畳んで置かれていた。という事は……
「私の……右肩の……見たんですか?」
「……ごめんね。治療の時に必要だったから……」
「……いえ、すみません。セレストさんの所為では無いのに……」
「謝らなくても良いわ。……あなたの傷に触れてしまったのは私の方だし……」
「……………………」
「取り敢えずあなたの怪我についてなんだけど……全身の傷は深かったけど治療は成功したわ。少し休めばすぐに治ると思うわ」
「分かりました」
「……それであなたの右肩の印のことなんだけど……」
セレストは極力アルトの心の傷に触れないように優しく話を進める。
自分を気遣ってくれていると感じたアルトは少し申し訳なくなってきた。
「それは私達では治せないの。ごめんなさいね」
「いえ……大丈夫です」
「その呪いを解くには、元の印を破壊しないといけなくて……本当にごめんなさいね」
隊長なら何か知っているかも知れないとセレストは思っていたが変に希望を持たせるのは可哀想だと思いセレストをそれを口には出さなかった。
「さて、私はもう失礼するわ。ゆっくり休んでね」
「ありがとうございました」
「失礼しました」
セレストが部屋を出て行ったのとほぼ同時に誰かが部屋をノックした。
「アルトちゃん!入っても良い?」
「どうぞ〜」
部屋に入って来たのは班のメンバーだった。
「アルトちゃん!無事で良かった!」
「……本当に心配した!」
「無茶ばかりするもんだからのぉ!」
「吹雪の中で魔法人形に襲われて……意識が戻らないって聞いて心配したんだぞ!」
「全くだ。まだ教えることは山のように残ってるんだぞ?勝手に死んでもらっては困る」
「みんな……心配してくれありがとう!う…うう……」
「泣くなって!」
「みんな無事で良かったよ!」
「ふぅー、一時はどうなることかと思ったぞ」
「全くじゃのう!」
「盛り上がってる所申し訳無いのだがちょっと良いかな?」
「ふ、副隊長!?」
「君達、ロレスビュート軍人養成校の生徒だろう?これを貰いに来たんじゃないのか?」
そう言ってアルインは緑色に発光する紙を手渡して来た。
「多分そうだと思います」
「多分?もしかしてちゃんと説明されてないのか?」
「ただ紙を貰って来いとだけ言われました」
「キューハイトの野郎……!後でみっちりと説教をかます必要があるようだな……!!」
「……なんか寒気が……」
「やっぱり風邪なんじゃないのか?キューハイト」
「おかしいですねぇ?」
「あ、あのぉ?」
「おっと失礼、こっちの話だ。さて君達には後二日ここで疲れを取ってもらう。二日たったら隊員に養成校まで送り届けさせよう」
「良いんですか!?」
「構わないとも。後、一つお願いがあるのだが」
「何かのぉ?」
「キューハイトにアルインが説明を怠るんじゃないと言っていたと伝えておいてくれ」
「お知り合いなんですか?」
「養成校の同期だ」
「成る程」
「それじゃあ私はそろそろ失礼させて貰うよ。ここの砦を見て回るのも良いし、ゆっくりここで寝るのも良いだろう。じゃあまた」
アルインが病室を出て行くのを見届けた後、また六人で話し始める。
「この後どうする?アルトはもう少し休んだ方が良いと思うが」
「なら今日は休む事にして明日砦を見て回ることにしようか」
「がっはっは!儂はもう大丈夫だがのぉ?」
「嘘をつくな。まだ完治してないだろその右腕」
「バレたか」
「当たり前だ」
「じゃあさ、今日はここでお菓子とか食べることにする?」
「……お菓子あるの?」
「ありますよ」
「セレストさん!」
「副隊長からの差し入れです。ケーキと紅茶です。どうぞ」
「ありがとうございます!」
「それじゃあお大事に」
差し入れのお菓子を食べながら俺たちは他愛ない話で盛り上がった。
「ただ今戻りました」
「ありがとうセレスト」
「いえいえ、私も丁度彼らに何か持っていってあげたかったんです」
「ところでアルイン?」
「なんだシール?」
「彼らが【森賢人の巨竜】を倒したって本当なのか?」
「今確認に行かせてるがあの人が言うなら本当だろうよ」
「とんでもない連中だな」
「確認取れたっすよ」
「お疲れ様カーリアス。で、どうだった?」
「ドラゴンの方は確認取れたっすが鎌の方は戦闘後しか無かったっす。まるで誰かが鎌を持ち去ったみたいっす」
「……何か匂うな」
「私もそう思います」
「少し様子を見るか」
北方守備隊は静かに動き出す。




