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砦の中で

 言葉が出なかった。

 スノーマウント・グレイス砦は二重の壁に囲まれた砦であったがまずその規模が違う。

 砦と言うよりは一つの都市とも言うべき広さを誇っており、中央には城とも言えるような白銀の建物がそびえ立っていた。

 次に注目すべきは吹雪だ。先程まで猛吹雪が吹いていたはずなのにまるでドームに囲まれているかのように雪が止んでいる。

 さらに壁上にはいくつもの結晶が規則的にならんでおり幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「ねぇ!あの結晶って……」

「オルトルトの部屋にあったやつじゃないか?」

「あれを作ろうとしたのだが失敗したんだ」

「……来たことあるの?」

「………一応な」

「中に入りますよ」


 俺達は副隊長に連れられ砦の門を潜る。

 門を抜けるとそこはまるで町のようだった。家が道路に沿って規則正しく並んでいる。中央には舗装された道もあり騎士の像がいくつか並んでいた。その中の何軒かはお店のような作りをしておりも活気に溢れている。少し進んだ先には噴水もあり何人かの男女が談話していた。


「すごーい!」

「へぇーまるで町だな」

「……リュロイレンより活気があるかも」


 八百屋さんのような建物の前を通った時に声を掛けられる。


「いらっしゃい!新鮮な野菜はいかがかな――ってお前かよ……声張って損した」

「悪いか?ここは北方守備隊の基地だったと記憶しているんだが?」

「悪くはありませんがねぇ、アルイン副隊長様?」

「そういう言い方はやめてくれないかシール」

「はっはは、冗談だよアルイン。そうカッカすんなって。そんな調子だと近いうちにハゲるぞ?」

「ぶっ!」


 誰だか分からなかったが誰かが吹き出した音が聞こえた。余程高速で表情を戻したのか副隊長が振り向いた時には全員真面目な顔をしていた。怪訝そうな顔をする副隊長を他所にシールという八百屋の男は笑いを噛み殺していた。


「ぷ……くく……ゴホン!ところで君達。野菜はいかがかな?今ならお安くしとくよ?」

「えっ!?えーと……」

「……遠慮しておきます」

「そうかい?それは残念だなぁ。この雪なら大根なんかぴったりだと思ったんだが……」

「いい加減にしろシール。彼らは負傷してるんだぞ?」

「分かってるよ。また今度機会があれば買って行ってくれたまえ」


 シールがおどけるように肩をすくめて店の中に戻って行くのを見た後、俺達は八百屋らしき店を後にする。会話を聞いていたらなんだか元気が出てきたようだ。


「すまないな。彼も悪いやつでは無いんだ」

「大丈夫です。おかげで元気が出ました」

「ん?なんのことだか分からないが良かった」

「副隊長は素直過ぎるんですよ」

「そうなのか?普通だと思うんだが?」

「そういう所ですよ」

「??」


 他の隊員達に突っ込まれてはいるにも関わらず当の副隊長はなんのことだか分からないといった顔をしていたのがたまらなく面白かった。


「さて。君達には二つ目の壁を超えた先にある治療棟で休んでもらう。後でラルアスを向かわせるから取り敢えず休んでおいてくれ」

「えっと……どの部屋を使えば良いですか?」

「着いたら案内するよ」

「……分かりました」


 俺達は門を潜り二つ目の壁の中に入る。先程一つ目の壁の中に入った時の風景は町のようだったが二つ目の門の中は城のようだった。全体的に荘厳な雰囲気があり中央の城のような建物が何とも言えない威圧感を放っていた。


「すごいな」

「綺麗……!」

「……輝いてるみたい」

「そう言ってくれると嬉しいな。治療棟はこっちだよ」


 俺達は5階建ての治療棟の中に入る。一階では負傷兵が楽しそうに会話をしているのが聞こえてきた。


「君達の部屋は2階だよ。荷物を降ろして少し休憩していてくれ」


 俺達はそれぞれ部屋に案内される。俺が案内された部屋は寮の部屋と同じような大きさでベッドや本棚、トイレに風呂などがあるが、作り自体は簡素な部屋だった。窓はあったが壁と壁の中、空しか見えなかった。


「はあー疲れた」


 荷物を降ろしため息をついていると部屋の扉がノックされた。


「ラルアスです。今大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

「失礼します」


 ラルアスが部屋に入って来た。ラルアスが入った瞬間部屋に甘い香りが漂い始めた。


「ココアです。どーぞ」

「ありがとうございます」


 俺は渡されたココアを一口飲む。

 甘い。疲れ切った体に糖分が染み渡る。


「ほぅ〜、甘〜い。ああ、温かいなぁ」

「ふふふ、それは良かった」


 満面の笑みを浮かべるラルアスの事も気にならない程にココアが美味しかった。俺はココアを一気に飲み干す。火傷しなかったのは奇跡だと言う程の勢いだった。全身に力がみなぎってきたような気がする。


「はぁ〜。ご馳走様でした」

「一息つけたかい?」

「はい」

「それじゃあちょっと失礼して……」


 ラルアスが俺に手をかざすと全身が緑色に発光し始めた。心なしか少し楽になったような気がする。


「うん。さっきも軽くスキャンさせて貰ったけど、今見ても特に命に別状が出るような怪我は無かったよ。筋肉痛は酷いだろうけどね。まあそこはしばらく休めば治ると思うよ」

「あ、はい。分かりましたありがとうございます」

「それじゃあ今日は風呂でも入ってゆっくり休むと良い。着替えはそこの棚に入ってるから。お大事に、失礼しました」


 ラルアスが部屋から出て行く。ここの人は本当に良い人だなぁと思っていた。


「さて、風呂に入って寝ますかね」


 ここ数日水で濡らした布で体を拭うだけだったので久々の風呂が楽しみだ。日本人たる者、やはり風呂に入らねば。

 言われた通り風呂に入ってベットで横になる。この服を着ていると病院に入院してるみたいだなと思った。

 疲れ切っていた俺はすぐに深い眠りに落ちた。

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