猛吹雪の中で
「前が全く見えない!」
「何この風!?体が前に進まないよ!!」
「……寒い」
「とんでもない吹雪だな!!誰がこんなところに紙を取りに行けなんて考えたんだ!?」
「ハックシュン!?」
「どうしたキューハイト。夏風邪か?」
「おかしいですねぇ?ちゃんと睡眠は取っていますし食事もしっかり摂っています。風邪を引くなんてそんな筈は無いのですが……誰かが噂でもしていたんですかね」
はっきり言って非常に不味い。視界も先程より悪くなっている。昨日の霧よりもタチの悪い視界の悪さだ。
「どうする!少し休んだ方が良いんじゃ無いのか!?」
「どうやって休むの!!」
「……この吹雪じゃ立ち止まるのも難しい」
「なんとかなる!《氷結半球》!」
オルトルトの少し先の地面を中心に氷で出来たドームが出来る。見た目はかまくらのようだ。
「ホント便利だな!」
「人を便利屋みたいに言うんじゃない!」
「……あ〜疲れた」
「全員いるか!!」
「ガリアとアルトが居ない!!」
「何!!吹雪ではぐれたのか!?」
「すぐに探しに行かなきゃ!」
「……でも今出て行ったら……」
「くそっ!!」
「分かった。私が探してくる」
「なんでそうなるんだよ!?」
「駄目か?」
「駄目だろ!!」
「でも探しに行くしか無いだろ!!」
その時だった。
ドゴォォォォン
どこかから爆発音が聞こえてきた。決して吹雪の音では無い、異質すぎる音だった。
「なんだ今の音!!」
「やっぱり全員で探そうよ!!」
「……賛成」
「行くぞ!はぐれないようにな!」
俺達はドームを後にして吹雪の中に出て行った。
〜その少し前〜
「ガリア!みんなからはぐれちゃったよ!!?」
「困ったのぉ!」
班員からはぐれたガリアとアルトは吹雪の中を彷徨っていた。容赦なく吹きつける雪が徐々に二人の体力を奪っていった。
「……寒い……ですね」
「大丈夫かアルト!?」
「まだ……大丈夫です」
「無理をするんじゃないぞぉ!休みたい時は遠慮なく休むんじゃあ!」
「すみません……少し座らせてもらいます」
アルトが岩に腰を下ろしガリアが周りを見張る。
「これからどうします?」
「少し待ってみんなを探すのが良いじゃろうなぁ!」
言葉を発しようとしたアルトが止まる。見えるのだ。5メートルくらいの大きな影がこちらに近づいて来るのが。それも一つじゃない。何十、何百と見える。
「ガリア……!あ、あれ……!」
「なんじゃあれは……?とにかく逃げるぞぉ!動けるか?」
「は、はい!大丈夫です――危ない!《炎球》!!」
アルトはガリア目掛け飛んで来ていた氷弾に炎球を放つ。二つの球はぶつかり合い爆発を起こす。
「走るぞアルト!!」
「はい!」
走る、走る。吹雪の中を行くあても無いまま走る。雪が顔に張り付く、痛い。顔の感覚がだんだん消えて行くのを感じるが止まってはならない。
止まれば追いつかれる。今にもあの影が追いついて来る。そんな焦燥感に追い立てられる。故に止まることは許されない。
――いずれ限界が来るとしても。
「はあ……はあ……はあ……!!」
「………すまんなアルト」
「………!!!」
目の前には巨大な影、いや壁のような物がそびえ立っていた。数はおおよそ30。挑めば間違いなく負けるだろう。それはガリアもアルトも分かっていた。
「走れアルト。儂が全力で応戦すれば少しは持つ筈じゃ、お前はその隙に逃げろ」
「……そ、そんな!!それじゃガリアは……!!」
「いいから走らんか!!今なら間に合う!!」
ガリアの覚悟のこもった声が頭の芯まで響く。それでも引くわけには行かなかった。絶対に彼を一人では戦わせたくない。自分だけ逃げるなんて嫌だ。
「……!!……嫌です!私も戦います!あなただけ死なせるなんて絶対に嫌です!!」
「馬鹿言うな!死ぬぞ!!」
「それでも!私は逃げたくない!!」
「…………………そうか。なら、行くぞアルトぉ!」
「はい!」
だんだんと影が近づいてくる。近くで見ると分かることがいくつかあった。まず生物では無い。全身が鉄で出来た魔法人形だ。感覚が無いのかこの吹雪でも比較的機敏に動いていた。
比較的機敏と言っても完全な氷耐性があるわけでは無さそうだった。その証拠にその巨体の端々が凍りついておりそれが動きを鈍らせていた。
「《大地砕く剛撃》!!」
ガリアの先制攻撃が入る。剛撃が魔法人形の頭部に命中し頭部が砕け散る。が、どう感知しているのかは分からないが魔法人形はガリア目掛けて剛拳が飛んだ。
「《炎球》!!」
その拳がガリアに届く前にアルトの炎球が魔法人形に直撃し爆発が巻き起こる。拳はガリアに届く事なく砕け散る。
「まずは一体じゃあ!おっと!!」
続くもう一体の攻撃をハルバードで受け止める。相当なパワーだったが受け止められないことは無かった。
敵が一体なら間違いなく勝てただろう。二体でも危なげなく勝てただろう。だが――敵は数十体だ。ガリアの脇腹を魔法人形が容赦なく殴りつける。
「があっ!!?」
「ガリア!!」
ガリアの体が弾き飛ばされる。雪の積もった地面に叩きつけられ地面を滑って行く。
「まだまだ……!!」
「大丈夫!?」
「儂のことよりも自分の事を心配するんじゃあ!!」
「分かってます!!《七炎槍撃》!」
七本の炎槍が魔法人形を穿つ。その個体は動きを停止したようだが左右からは別の魔法人形が迫る。
「数が多すぎます!!《七炎槍撃》!」
「こっちは任せろぉ!《破砕撃》!!」
右はアルトが左はガリアが対処する。それでも敵の数は増えるばかり、こちらの体力は減る一方だ。
それでも――そんな状況でも、例え勝ち目が万に一つも無いとしても、二人の心が折れる事は無い。
「負けたくない!」「負けてたまるかぁ!」
吹きつける吹雪の中二人は戦い続ける。




