少女の過去、少年の決意
俺が頷いたのを見た少女は静かに口を開いた。
「あれは……10年位……前だったかな」
〜10年前〜
ヒュ!トスッ!
「お母さん!やったよ!」
「上手くなったわねぇ〜ミラリア。お父さんに教えてもらったの?」
「うんっ!わたし大きくなったらお父さんみたいなハンターになる!」
「そうか〜偉いぞ〜ミラリア〜よーしよーし」
「もぉっおとうさんったら!」
森に幸せな笑い声が響く。いつもの出来事、平和な日常だった。
でも、そんな日々は突然崩れた。
「ねぇ?あの赤いのはなに?村の方から見える赤いの」
「あれは……?まさかそんな!」
二人の顔が強張った。
「母さん!ミラリアを頼む!俺は村の方を見てくる!」
「……分かったわ!」
〜現在〜
「そう言って・・父さんが村に戻った後に・・爆発音が聞こえて……!」
今にも崩れてしまいそうな少女は静かに語る。
俺は声をかけることも出来ずにただ黙ってそれを聞いていた。
「その後に母さんも……、ミラリア!ここに居なさい!絶対にここから出ちゃダメよ!って言って……村に向かって……!私……なにも分からなくて……!それで静かになったと思って村を見に行ったら……!」
そこで少女は一呼吸置いてから言った。
「……何も無かったの、家も……村も……!真っ黒だった……!私には……父さんが作ってくれた弓と母さんがくれた……ブレスレットしか残って無かった……!」
「何が………あったんだ?」
俺は極力声を抑えて聞いた。
「戦争だよ」
少女は力なく答える。
「この国は隣国とずっと戦争をしてるの。今でも続いてる……ね。それで……私達の村が戦場になって……!それから私は一人になった……!誰も助けてはくれなかった……!だから君が・・住むところが無いって言った時に私と同じだと思ったんだ!それに・・君が一緒に住んでくれるって言った時、私……本当に嬉かった……ずっとずっと一人だったから………!!」
そこまでが少女の限界だった。少女は堰を切ったようように泣き出す。だが俺には何も出来なかった。
俺は自分が心底憎らしい。異世界から来たことも告げなかった自分が。少女に声をかけてやることも出来ない自分が。
どれだけの時間が経っただろうか、少女は泣き疲れて寝てしまった。
(何か掛けてやれないか……?)
俺は毛布のようなものを探す。
(そうだ、インベントリを開けないか?確か赤色の毛布があったはずだ)
俺は毛布を取りたいと念じて空間に手を伸ばす。何かを掴んだ感じがした。手を引き抜くとそこにあったのは赤色の毛布だった。
(良かった。上手くいったか。)
俺はそれを眠っている少女に優しく掛けるとそのままリビングを後にした。
俺はベッドで横になりながらミラリアの話を思い出す。
(情け無い!情け無い!情け無い……!)
俺は自分に問いかける。何をすべきか、彼女に俺が出来る事はないか。
(見ず知らずの俺の命を救ってくれた!住む場所も用意してくれた!この恩はいつか必ず返す)
そう決心した後、俺の意識は闇へと落ちた。
「朝ご飯出来たよ〜!」
俺はミラリアの声で目を覚ます。
(少し寝過ぎたか……)
思ったより疲れが溜まっていたようだ。未だハッキリしない頭を無理矢理動かして俺はリビングへと向かった。
「……おはよう!ハイド君!」
「おはよう。ミラリア」
「ハイド君・・昨日は私の話聞いてくれてありがとう。あと・・その・・コホン!私の友達になってください!」
「俺で良ければ。これからもよろしく!」
「本当?ありがとう!」
ミラリアの本当に嬉しそうな顔を見てこっちまで釣られて嬉しくなって来そうだった。
「さあさあ席について!焼きたてのパンだよ!」
俺とミラリアは焼きたてのパンを頬張る。こんがりと焼けた小麦の良い匂いがする。ある程度食べたところでミラリアが口を開く。
「そういえばさ、ハイド君ってどこの出身なの?」
俺は一瞬固まる。
「あっごめんね、答えたくなかったら答えなくてもいいよ。昨日、戦争してる事も知らなかったみたいだったから……」
俺はどう答えるか一瞬考える。だがこれ以上彼女に嘘をつきたく無かった。意を決した俺はミラリアの目を見る。
「俺さ……実は……」
心臓の鼓動がうるさく感じる。言葉が上手く続かない。だが俺は今こそ打ち明けるべきだと思った。
だから深呼吸して彼女に告げる。
「異世界から来たんだ」
「えっ……?それ……どういう事?」
困惑した表情のミラリアを見ながら俺は言葉を続ける。
「言葉通りだよ、俺は多分異世界から来たんだ。昨日目覚めたらこの森に居たんだ。いきなりだったから驚いたよ」
どう話せばいいか分からない。
きっとどう話しても絵空事のようになってしまうだろうから、自分の思ったままを話す。
俺の話をミラリアは黙って聞いていた。
「そこで竜に襲われてさ、そこを君に助けて貰ったんだよ。……今まで話せなくてごめん」
俺は彼女に嫌われても良いと思っていた。だが……
「でも君は打ち明けてくれた、私の話も黙って聞いてくれた。それだけで十分だよ。私達友達でしょ?」
俺は泣きそうになる、実際泣いていたかもしれない。
こんなにも自分のことを信じてくれる友達が出来たことが嬉しかった。
「さあ、もっと食べた食べた!」
彼女の声が心の隅まで染み渡った。




