三日目の朝
「…………私は…………?」
「おはよう!オルトルト!」
「ここは……?私はどれくらい寝ていた?」
「大分寝ていたのぉ!」
「……急に倒れるから心配した」
オルトルトが目を覚ます。既に周りは明るくなり始めていた。
「すまない。心配をかけたな」
「おはようオルトルト」
「おはようございます!」
「なんだ。二人とも起きていたのか」
日が昇り始め俺達は出発の準備を始める。朝食の材料は無いので、昼食までに集めることにする。
「ところでさ、オルトルト」
「どうした?何かあったのか?」
「そのブレスレット何のための物なんだ?」
「これか?……これはな……魔法の補助をしてくれる物だが……いきなりどうしたんだ?」
若干口ごもったような気がするのは気のせいだろうか?
「昨日光っていたのを見たので」
「……そうか。これが光ったという事は魔力不足ということだ」
「今は光って無いってことは体調は戻ったんだな?」
「心配かけたな」
「もーオルトルト!見張りするなら言ってよね!」
「全くじゃあ!」
「……申し訳無い気持ちになってくる」
「おいハイド?話が違うようだが?」
口調はいつもと変わらなかったが、オルトルトはどこか楽しげに見えた。
「いやーごめんごめん」
「まあ構わんさ。心配してくれたのだしな」
「出発しましょう!」
木漏れ日の差し始めた朝の森を進んで行く。澄んだ空気の中を進むのは最高に気持ちが良かった。
「にしてもお腹が空きましたね〜。この空気ではお腹いっぱいにはなりませんしねぇ」
「はっはっは!!仙人みたいじゃのぉ」
「……すぅーはぁー」
「やっぱり森は良いよね!!」
「ふぁーあ」
「まだ眠いのか、オルトルト?」
「朝に弱くてな」
「意外だな。てっきり徹夜とかには強いと思っていたんだけどなぁ」
「そうでもない。徹夜しては爆睡、徹夜しては爆睡の不摂生生活を繰り返している」
「ねぇねぇ!あれ【森の飛竜】じゃないかな!?」
「うわぁ……」
「どうしたんだハイド?顔色が悪いようだが?」
「ちょっとばかりトラウマが……」
「……?無理するなよ?」
「……どうする?」
「捕まえて食べる!」
「即決ですね!」「即決じゃのぉ!」
「………捕まえるってことで良いのか?」
「まあ良いんじゃないか?」
「よし!それじゃあ行動開始!」
ミラリアの合図で全員が散開して緑竜を取り囲む。緑竜には申し訳ないがここで仕留めさせてもらう。
「グォォ!?」
「《速射》!」
「……《麻痺斬》」
緑竜は糸の切れた人形のように倒れ伏せる。以前より緊張しなくなったのは自分が強くなったからだろう。
「さーてと。朝ごはんにしようよ!」
「こ、これを食べるんですか!?」
「結構美味いぞ?」
「そりゃあ気になるのぉ!!」
ミラリアは慣れた手つきで緑竜を解体しステーキを作り始める。この状況でステーキとは驚いたがバッチリと野草で挟んであった。
「いただきます!!」
「……!美味しいです!」
「こりゃあ絶品じゃあ!」
「……すごい」
「久々だなぁこの味」
「美味いな」
「でしょでしょ!」
緑竜のステーキ野草付きは空腹を一気に満たしてくれた。
「このまま砦まで急ぎましょう!」
改めて一同は森の中を進んで行く。三日目にしてようやく平和に進むことが出来ている。
「そういや最近オルトルトの補助魔法見てないな」
「ん?」
「……最初に補助寄りの魔術師だって言ってたのに最近は攻撃してる姿しか見てない」
「どっちも出来るだけだ。大体、昨日強化魔法をありったけかけただろう」
「確かにそうだったな」
「もうすぐ森が終わりそうですよ」
やっと森を抜けた。森を抜けると少し草木の少ない草原に出た。
「やっと森を抜けたかぁ」
「何あれ!?」
ミラリアの指差す先には巨大な白い竜巻が見えた。否、竜巻では無い。グレイス山を中心に渦を巻くように雪が降っていた。
「夏でも雪が降るって本当だったんですね……」
「驚いたのぉ!」
「……失敗」
「すごーい!!」
「あそこに行くのか……」
「………………みんなまさかとは思うが……防寒具を忘れたんじゃないだろうな?」
「「忘れた」」
「…………………………」
「だ、だって!本当に降ってるとは思ってませんでしたし!」
「この辺は遠くて来たことが無かったしのぉ!」
「私も来たことなかったかな」
「……ボクも本当に降るとは思わなかった」
「お、俺も」
「……一体なんのために図書館へ行ったんだ!?」
「「ご、ごめんなさい」」
「………………仕方ないな、よっと」
「ひっ!?」
オルトルトが空間から取り出したのは以前アルトを燃やした赤い球体だった。
「そ、それはぁ!!」
「心配するな、改良は終わってる。多分これで寒さを軽減できるはずだ」
「多分?大丈夫なのかそれ」
「大丈夫だ。信じろ」
俺達は恐る恐る竜巻のような吹雪に突入して行く。オルトルトの魔法のおかげか寒さは軽減されていたがやはり寒い。
「駄目か。仕方無い、こっちを出そう」
「防寒具全員分持って来てたんですか!?」
「何となく嫌な予感がしたんでな」
「ありがとうございます!!」
「それリュックに入るようには見えないんだが?」
「空間系の圧縮魔法だ」
「便利だな」
やけに上機嫌にオルトルトは語る。
「あったか〜い」
「……モッフモフだよ」
「こりゃあ良いのぉ!」
「凄いです!着た瞬間に身体と同じサイズなりましたよ!」
「あったけぇ〜」
「……出来れば次は自分で用意してきてくれ」
「「はい!」」
オルトルトが持ってきた防寒具を着込んで俺達は吹雪の中へと進んだ。




