霧の森の幻影②
爆風が森を穿ち霧を消しとばす。ポッカリと森に空いた穴から光が差し込み影を照らし出した。
そこには確かにローブを纏い鎌を持った死神のようなモンスターがいた。だがローブの中は空っぽでローブ自体も何処と無く透けていた。
しかしそれとは逆に鎌の方は紫色に発光し始め禍々しさを増していた。
「……オオオォォォ……オオオォォォ……」
「やっぱり死霊ですか!?」
「どうだろうな?何かが引っかかる」
「今なら数がはっきり分かるよ!」
鎌を持ったモンスターの数は7体、先程までは霧でよく分からなかったが霧が晴れている今なら見える。
「……おかしい」
「どうしたヘーゼル?」
「……あのモンスター実体が無い。というか多分幻影だと思う」
「でもしっかり斬られたぞ?」
「まさか鎌の方が本体だったりしてのぉ!」
「あり得ますね」
「……確かに鎌はちゃんとそこにある」
「付喪神の類か?」
「分からんがあまり良い物では無いのは間違い無いな」
「……オオオォォォ!!!!」
「なんだ!?」
俺達が話している間に七体の幻影が一つに集まる。いや、纏まると言った方が正しいのか。
それは先程までの幻影と違い、実体のあるモンスターだった。手には巨大な鎌を構え、周りには残りの六本の鎌が浮かんでいる。最早それは本物の死神のようだった。
「……オオオオオオ!!!!!!」
「何……!?この音……!」
「……頭が割れる!!」
「があっ!?」
耳をつんざくような音が俺達に襲い掛かる。頭の芯まで響くような不快な音は特に耳のいいミラリアとヘーゼルには拷問のような音だった。
「ああああああァァァ!!耳が!!」
「……くぁぁぁあぁぁ!!頭が……割れる……!」
「二人共しっかりしろ!《防音壁》!!」
「はあ……はあ」
「……ああぁぁ」
オルトルトの防音壁で音を防ぐ。しかし音に気を取られている間に六本の鎌と共に死神の姿を見失う。
「しまっ―――」
「………オオオォォォ!!!」
いきなり目の前に巨大な鎌が出現する。あまりに突然のことだったので反応が一瞬遅れた。
俺は大鎌の斬撃をモロに食らった。鎧は切り裂かれ身体に大きな裂傷が出来る。硬化スキルを発動させていなければ恐らく鎧ごと両断されていただろう。
「ぐぁぁぁァァァ!!!!」
「ハイド!!今回復に…………ちぃ!!」
俺の傷を治すべくと近づこうとしたオルトルトは六本の鎌に阻まれる。
「邪魔だ!!《旋風球体》!!」
オルトルトを中心に暴風が吹き荒れ鎌を吹き飛ばす。だが目の前には再び死神の鎌。
「速い!!」
「オオオォォォ………オオオォォォ!!!!」
辛うじて斬撃を回避するオルトルトだったが、目の前に風の渦が出現しそれに吸い込まれていく。
「なんだと!?ぐあぁぁぁぁ!!」
風の渦に吸い込まれたオルトルトがズタズタになっていく。
「やめて!!《台風矢雨》!!」
「……《麻痺斬》!!」
ようやく立ち直ったミラリアとヘーゼルの攻撃が死神に命中する。死神には効いているようには見えるがそこに再び不快な音が響く。
「………オオオォォォ!!!」
「「ああぁぁぁァァァ!!!!」」
「……くそっ……《治癒加速》……」
「……耳障りな……!!《防音壁》……!!」
ぼろぼろのオルトルトが防壁を展開し俺は治癒スキルを発動する。だがどちらもはっきり言ってしまえば満身創痍だった。
「オオオォォォォォォ!!!!!!」
未だ立ち直れないヘーゼルに死神が、ミラリアに六本の鎌が迫る。
「……ぁぁぁ」
「くぅぅぅ!!!」
死神の鎌がヘーゼルを、六本の鎌がミラリアを捉え――
「そうは行かんなぁ!!」
「させない!!《炎球》!!」
死神の大鎌をガリアが受け止め、六本の鎌をアルトが吹き飛ばす。ガリアの身体は赤く発光し筋肉は元より一回り大きく膨らんでいた。
「フゥゥゥゥゥ!!!!!」
「大丈夫ですか!?」
「……なんとか」
「まだ大丈夫……!」
何とか持ち直したが依然こちらが圧倒的に不利だった。
「……なんとか立てるようにはなったが」
「……辛いな」
「……どうする?」
「儂が何とかする」
「どうするんだガリア?」
「オルトルト、アルト。強化魔法を儂に寄越してくれ。ありったけな」
「俺にも頼む」
「良いのか?身体が持たないかも知れんぞ?」
「そ、そうですよ!!」
「ここで死ぬよりはマシじゃあ!!」
「同じくだ」
「……………分かった。死ぬなよ?」
「……………分かりました」
二人は順々に強化魔法をかけて行く。勿論死神は待ってはくれなかったが。
「こっちだよ!!《煙幕の矢》!」
「……行かせない!《複製幻像》!!」
煙幕で惑わし幻像で混乱させる。今の彼女達に出来る精一杯の妨害だった。
「終わったぞ」
「お願いします」
「行こうかガリアぁ!」
「そうだなぁ!ハイドぉ!」
二人は七本の鎌と向き合った。




