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霧の森の幻影①

 草原に朝日が差し込む。昨日の死闘が嘘のように草原は静寂に満ちていた。


「ふわぁ………よく眠れた」

「起きたかハイド」

「わあっ!オルトルト!?まさか一晩中起きていたのか?」

「みんなには内緒で頼む」

「………今日の夜しっかり寝るなら内緒にしといてやる」

「恩に着る」


 やけに子供っぽい笑みを浮かべてオルトルトは返事を返してきた。


「おはよ〜二人とも早いね〜」

「おはようミラリア」

「おはよう」

「………おはよう三人共」

「おは……その髪はどうしたヘーゼル!?」

「荒れ狂ってるな」

「………寝癖だよ」


 ヘーゼルがプクッと膨れてそう言ったのが可愛いらしかった。


「悪いがガリアとアルトを起こしてきてくれないか?私は水を汲みに行って来るから」

「分かった」

「私も水汲みに行く!!」

「すまんなミラリア、助かる」


 二人が近くにあった水場に水を汲みに行って来る間に未だに眠りこけている二人を起こしに行く。


「起きろガリア!にしても恐ろしい音のいびきだな」

「……鼓膜破けそう」

「昨日はこんな音しなかった気がするんだが」

「…………がぁ?なんだもう朝か?」

「……おはよう」

「……早く直した方が良いと思うぞ?」

「………分かってる」


 再びヘーゼルが頰を膨らませる。


「皆さんおはようございます」

「おはよう。なんだアルト、起きてたのか」

「はい!先程起床しました」

「全員起きたか」

「只今戻りました!」


 丁度水の入ったバケツを抱えた二人が戻って来たところで俺達は朝食を食べる。これで持ってきた食料は尽きてしまったので道中で補充しなければならない。


「そういうば昨日はガリアのいびきが聞こえなかった気がしたんだが?」

「余りにもうるさいから防音膜で包んだ」

「全然気づかんかったのぉ!」

「あっ!ヘーゼルちゃん、髪の毛直したんですね」

「……まあね」

「で、今日はどれぐらい進むの?」

「最低でも森には入らなきゃな」

「じゃあ急がなきゃ!」


 俺達は朝食を食べ出発の準備を進める。


「出発!!」

「ついでに食料も採らないとな」


 俺達は草原を進む。昨日よりずっと早いペースで進んだおかげか程なくして森が見え始めた。


「森だぁ!!やったあ!!」

「急に元気になったな」

「……嬉しそう」

「なんか不気味だな」


 見えて来た森は霧が立ち込め鬱蒼としていた。

 まるで来るものを拒んでいるかのように。


「早速食いもんでも探そうかのぉ!」

「早速それですか!?流石ガリアですね」

「なんだこの霧?少量の魔力を含んでる」

「……探知魔法が役に立たない」

「進んで大丈夫なのか?」

「正直微妙なところだな」

「まあ進んでも良いんじゃない?」


 ゆっくり森の中を進む。気のせいか段々と霧が濃くなって来たような感覚に陥る。


「そろそろ方角が分からなくなって来たぞ」

「向こうだよ!向こう」

「……どうして分かるんだろう」

「野生の勘ってやつじゃないか?」

「成る程なぁ!」

「あっ!この野草食べられるよ!」

「呑気過ぎないか?」

「まあ良いことじゃないか」


 やはり霧は濃くなっている。さっきまでは見え難くとも周りの状況が分からない程では無かったが、今は10メートル先も視認出来ない程に霧が濃くなっている。


「やっぱりおかしくないか?」

「そうだな。流石に霧が濃すぎる」

「んー確かに濃いね」

「……みんな!前!」

「なんだあれ!?」


 ヘーゼルが指差すその先にはロープを纏った何かが浮遊していた。

 しかもその手に握られていたのは死神が使うような大鎌だった。こちらに向かってきた死神は容赦なくその鎌を振り下ろす。


「うおっ!?なんだコイツ!」

「ハイド!!」


 俺は完璧に鎌を回避した筈だった。しかし俺の腕には明らかに刃物で切られたような裂傷が残っていた。


「こりゃあ一体どういうことだぁ!?」

「断言は出来ないが恐らく風属性の魔法だ」

「みんなから離れて!!《七炎槍撃セブンランス・オブ・フレイム》!!」


 七本の炎槍が影に向かって走る。

 だが影は七本の炎槍と共に霧に溶けて消える。


「……消えた!?」

「後ろだガリア!!」

「なっ――!?」


 ガリアの真後ろに現れた影が鎌を振り下ろす。ギリギリハルバードで防いだようだが先程と同じようにガリアにも裂傷が出来る。


「なんなのコイツ!?」

「………!!!!」

「嘘……!」


 だがその直後にさらに絶望的な事実が目の前に露わになる。

 ――影が増えている。先程まで確かに一つだった筈の影が幾つにも増えていた。


「くそっ!このままやられてたまるかァァァ!      《爆風一閃(ブラストスラッシュ)》!!」


 俺の剣撃は確かに影を両断した。だが影を斬った時には物に触れた感触が無かった。


「なんだ……?こいつまるで空気を斬ったような感触だったぞ」

「空気を斬ったような感触……?死霊(レイス)の類か……?」

「………ぐぅ……!!」

「ヘーゼルちゃん!!《台風の矢(テンペストアロー)》」


 影に豪風を纏った矢が飛んで行くが、またしても矢は影と共に霧の中へと溶けた。


「視界が悪過ぎます!!《炎球(ファイアーボール)》!!」


 アルトの火炎魔法が影を中心に炸裂する。だがそれは影を擦り抜け地面に着弾し破裂する。


「それだ!!」

「どうしたオルトルト!?」

「取り敢えずこの視界からなんとかする!!アルト、真上に《炎球(ファイアーボール)》を撃ってくれ!」

「え!?わ、分かりました!《炎球(ファイアーボール)》!」

「《衝撃(インパルス)》!!」


 ゆっくりと上昇して行く炎球にオルトルトは魔法を放つ。炎球は空中で爆発し爆風が地面に吹き荒れる。


 ――ようやく森を覆っていた霧が晴れた

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