草原の死闘②
「《七炎槍撃》!!」
「《台風の矢》!!」
七本の炎槍と豪風を纏った矢が緑竜の腹に命中する。
「グォォオオオ!!!」
「こっち向いたよ!」
だが緑竜は煩わしげにブレスで焼き払おうとする。大して効いていないようだ。普通に考えれば二人は危機的状況にあるがそれは狙ったものだった。
「今だハイドぉ!《重砕撃》!!」
「分かってる!《獄炎斬》!!」
「グォォオオオ!!?!」
緑竜が二人に気を取られた隙にガリアとハイドの攻撃が緑竜に襲い掛かる。二人の攻撃は見事に命中したが、緑竜が力尽きるまではまだまだ遠そうだった。
「ギャォォォオオオオ!!!」
「こいつ!!また炎か!?」
「………させない!《霧の幻影》……!」
「グォォ!??!」
ヘーゼルは緑竜の周りに幻惑効果のある霧を発生させる。この魔法は本来現れる幻影を囮に攻撃する魔法だが、緑竜の周りに再び魔法陣が展開されたかと思うと正確に三人の位置を捉えていた。
「………どうして!?」
「精神系の耐性魔法だ!!森賢人の名を冠するだけあって一筋縄ではいかないようだな!!」
「不味い!!炎だ!!」
「………当たったら死ぬ……!!」
「当たったらな!!!《氷山壁》!!」
緑竜と三人の間に巨大な氷山が出現し炎を遮断するが、炎が消える頃には氷山は全て溶け切っていた。
「離れて!!《矢の雨》!!」
無数の矢が緑竜に降り注ぐ。だがそのどれもが硬い鱗に阻まれ致命傷には至っていなかった。
「嘘!?硬すぎる……!!」
「まだだ!!《炎の鎧》最大出力!!《獄炎斬》!!」
《炎の鎧》は自分の周りに炎を纏い炎属性の攻撃を強化するスキルである。防御効果はあくまでも副産物であり、真の効果はその名前に反し攻撃強化である。俺はそのスキルを最大出力で使う。紅炎を纏った騎士が緑竜に斬りかかった。もしこの姿を夜見たものがいたならば紅く煌めく炎に見えた事だろう。
「グォォオオオ!!!!」
「こいつ……!!防御魔法まで使えるのか!!」
俺の攻撃が緑竜に届く寸前に魔法障壁が展開される。
さらにそれだけでは終わらず緑竜の爪が俺に向かって走る。
「……万事休すか」
「まだです!《炎弾》!!」
「障壁を砕く!《降雹》!」
炎の弾丸と雹が無数に障壁に降り注ぐ。障壁は俺が緑竜の懐に入る前に砕け散る。
「くらぇぇぇぇぇ!!!!」
「グギャァァァァ!!?!!」
獄炎を纏った斬撃が緑竜を捉えた。緑竜は相当なダメージを負ったように見える。
「やったか!?」
「残念だがまだのようだな」
緑竜の全身が緑色に発光し始める。するとみるみるうちに緑竜の傷が塞がっていった。
「回復魔法まで使えるんですか!?」
「ありゃあもう手がつけられんぞぉ!!」
「でも向こうは逃してくれそうもないよ!」
「………どうすれば」
「まだ諦めるな!」
口ではそうは言ったが俺もそろそろ限界に近かった。最初に受けた傷からの出血は止まらないし、スキルの連続使用で筋肉痛が酷くなってきていた。
「どうします!?」
「………仕方無い、切り札を切る」
「切り札!?どうしてもっと早く使わなかったんだ!?」
「準備に時間が掛かる上に範囲が広すぎるからだ」
「私達はどうすれば良い!?」
「時間を稼いでくれ」
「分かった!!」
オルトルトは目を閉じ足元に魔法陣を展開する。
「グォォ!?グォォオオオオオオォォ!!!!!!」
それを視認した緑竜は命の危機を感じたのか、全力でオルトルトを排除しようと動く。
「させないよ!《矢の雨》!」
「………《麻痺斬》!!」
矢の雨で動きを止め麻痺効果のある斬撃が緑竜を切り裂く。
だがそれでも緑竜は止まらない。
「余所見か?余裕じゃのう!!!《破砕撃》!!」
「全くだ!《爆風一閃》!!」
俺とガリアの全力攻撃で緑竜の動きを止めようとする。緑竜は苦痛に顔を歪めるがそれでもなお魔術師を殺そうと動く。俺達が本能的に緑竜を恐れたのと同様に、緑竜は目の前の魔術師を本能的に恐れている。
故にその足を止める事は無い。
「止まって!!《炎球》!!」
緑竜を爆炎が包む。アルトの全魔力を込めた一撃の威力は凄まじかった。
――それでもなお緑竜は止まらない。
「グォォオオオオオオ!!!!」
緑竜の思考は冴え渡っていた。ここでどれだけダメージを受けようともあの魔術師を排除しなければならない。最早一刻の猶予も無い事を理解していた。それには目の前の護衛を殺す必要があった。
つまりは―――
「炎だ!!」
全て焼き払ってしまえば良い。事あるごとに自分を邪魔してきた魔術師は動けない。ならば動く前に殺す。
緑竜の炎は護衛である俺達を吹き飛ばしオルトルトを完全に捉えた。
炎が直撃する。これは即ち死を意味する。
「…………っぐ!!オルトルト!!!!!」
「きゃあああ!!」
「不味い……のぉ……」
緑竜も俺達もオルトルトを見る。いくらオルトルトでもあれが直撃すればタダでは済まないだろう。
緑竜は残りの敵を排除しようと動きだす。最早敵は風前の灯だ。炎を吐くだけで全員死ぬと確信があった。
―――だが誰もが死んだと確信した魔術師は口を開いた。
「すまない。長らく待たせてしまった」
「オルトルト!!」
「良かった!!生きてた!!」
「グォォオオオオオオオオオオオオ」
緑竜が選択したのは逃げの一手。最早あの魔術師は殺せないと判断し飛び去ろうする。
だが羽が動かない。さっきまでの攻撃で損傷していたようだ。
「覚悟は良いな?仲間を散々痛めつけてくれたんだ。相応の罰を受けてもらおう」
「オオオォォォォォォォ!!」
「「やっちまえオルトルト!!!」」
「《絶死の極低温》」
――視界一面が凍りついた。




