草原の死闘①
「だだっ広い草原だなぁ」
「広ーい!!」
「良い天気ですね!爽やかな風、透き通るような青空、燦々と照る太陽!そして――」
「「グルルルルルルゥゥゥゥ!!!」」
「【草原の狼】の群れ!」
「団体様が歓迎パーティーを開いてくれるそうだ!!丁重にお断りしろ!!」
「了解!!」
相手の数はおおよそ60。一人大体10体くらいが目安だ。それぞれが相手に向き合う。
「久々じゃのう!この空気!《破壊闘気》ァァァ!ハァッッ!!」
「………《短剣双撃・炎》!」
「ちょっと多くないかな!?《矢の雨》!!」
「練習の成果を!!《七炎槍撃》!」
「俺だって!!《爆風一閃》!!」
「随分と熱烈な歓迎だな《突き立つ氷柱》」
大地砕く豪撃が、二つの短剣が纏う炎が、風切る矢の雨が、七つの煌めく槍が、爆風纏う斬撃が、地面より突き立った氷柱が、それぞれの相手に襲いかかる。
彼らに立ち向かう【草原の狼】が居なくなるのにそれ程時間はかからなかった。
「誰か怪我したやつは居るか?」
「私は大丈夫です」
「私も!!」
「儂も問題無い」
「………ボクも」
「私は大丈夫だが」
「なら良かった。にしてもいきなりこれか……先が思いやられるな」
「オルトルト!私の魔法どうでしたか!?」
「良かった。前より威力が上がったんじゃないか?」
「やったあ!!」
「ハイド、また技に磨きが掛かったのぉ!」
「そっちこそ」
「ヘーゼルちゃん!良い動きだったよ!私も見習いたい!」
「……ボクの方こそ」
いきなりの襲撃で驚いたが、4ヶ月の間に腕を上げた俺達の敵では無かった。この調子なら何とかなるかと考え始めていた。
「急ごう。このままのペースだと森に入る前に日が暮れる」
「ヘーゼル、周りに敵は居るか?」
「………ボクの探知出来る範囲にはいないよ」
「じゃあ張り切って出発!!」
俺達は草原を歩く。王都周りは舗装された道路があったがここまで来ると道路すら無くなる。だんだんと草原に岩が増え始める。
「少し景色が変わった?」
「森に近づいてるな。……どうしたヘーゼル?」
「………なんか居る!?」
「なんだ………ありゃあ!?」
珍しくガリアが驚いている。ガリアが驚くほどの何かが居たのだろうか?
恐る恐るガリアの向いている方を向くと――
「ギャォォォオォオォォォォォォォ!!!」
そこに居たのは巨大な緑地竜だった。体長は優に10メートルを超え、瞳には一流の戦士ですら震え上がるような殺気が籠っていた。全身が粟立つ。あれはヤバイと本能が必死に訴えかけてくる。あの森以来の本能的に危機を感じた瞬間だった。
「《赤色闘気》、《破壊闘気》ァァァ!!吹き飛べぇぇ!!《重砕撃》!!!」
「《筋力上昇》、《焔の鎧》!《獄炎斬》!!」
俺もガリアも全力を持って目の前の緑竜を殺そうとする。後のことなど頭になかった。
一瞬でやらなければ自分がやられるような気がしてならなかったからだ。だが――
「グォォォ!!」
緑竜の周りに魔方陣が浮かび上がる。それらが一瞬発光したかと思うと、横に居たはずのガリアが地面から生えてきた木に拘束される。
「ガァァァァ!!?」
「ガリアを離せ!!」
俺はそのままの勢いで緑竜に斬りかかるが、豪風を纏って接近した爪に弾かれる。
「くそっ!!なんてパワーなんだ!?」
次に俺が見たのは再び爪が豪風を纏って接近してくる様だった。爪はそのまま《炎の鎧》に到達し鎧を砕く。しかしそれだけでは終わらず吹き荒れる豪風に体を裂かれる。
「ガッ!!!!」
「ハイド!くそっ!解けん!!」
「ガリア!!」
緑竜の口が開く。明らかに竜は炎を吐く体勢だった。
緑竜の吐息をまともに受ければいかに強靭な体を持つガリアと言えども消し炭になる。
「不味い!!《氷柱牢獄》!!」
緑竜を中心に10メートルにもなる巨大な氷柱が出現し緑竜の動きを止める。その隙に俺がガリアを縛っている木を焼き切る。
「《炎斬》!!」
「すまんな、助かったわ」
「何ですかあれ……!?」
「見たことないよあんなの……!」
アルトもミラリアも萎縮しきっている。緑竜は今にも氷柱を砕いて出てきそうだった。
「………不味いね」
「あれは【森賢人の巨竜】だな。いくつかの魔法を使いこなす上位の竜だ。それでどうする?ゆったりと考える時間は無いぞ」
「倒すしか無いだろ。あれをほっといたら被害は計り知れないぞ」
「分かりました。私とミラリアちゃんとヘーゼルちゃんであいつの気を引きますからその隙にガリアとハイドで攻撃して下さい!」
「了解!!」
「それが良さそうじゃなぁ」
「私は支援魔法を飛ばして隙があれば攻撃する」
「………ボクは幻術で惑わしてみる」
「分かった。それじゃ行くぞ!!!」
緑竜が氷柱を砕くのとほぼ同時のタイミングで俺達は行動を開始した。




