西部戦線にて
「………朝か」
夕食まで眠るつもりだったが朝まで寝てしまったようだ。ふと外を見れば雨が降っていた。昨日のどんよりとした空を踏まえれば当然の結果かも知れない。
「……腹が減った」
猛烈に腹が減った。当然だ、昨日の夕食を食べ損ねたのだから。
俺は食堂で朝食を食べた。四肢にエネルギーが溢れるて来るような気がした。
「さてと、教室に向かうとしますか」
俺は傘を差し教室棟へ向かう。この世界にも傘というものがあったことに少し驚いたが、すぐに慣れた。
「おはようみんな」
「おはようございます」
「ハイド君!おはよう!」
「よく眠れたようだな」
「………おはよう」
「俺が最後だったか」
「がっはっはっは!まだ気付かんのかのぉ!」
「ん?何がだ?」
「皆さん!おはようございます!」
「おはようア……ル………トォォ!?」
「おはようございます、私」
「!!!!!!!!」
俺は朝から心臓が止まるかと思った。何故なら目の前にアルトが二人いたからだ。
「だ、誰ですかあなた!?」
「失礼な!私はあなたですよ!!」
「えーと?一体何がどうなって……?」
「もうそろそろ良いだろ?」
オルトルトがそう言うと先に席に着いていた方のアルトが煙のようになって消えた。
「ああ………びっくりした!死ぬかと思いましたよ!?」
「ごめんねアルトちゃん。昨日なんだか元気無かったから元気づけてあげようと思って……」
「……ボクとガリアとミラリアで計画を立てた」
「……そうなんですか!?……ありがとうございます!!」
「さて、飲み物でも一つ如何かな………しまっ!」
「きゃあ!?」
「なんだなんだ!?」
水筒を開けた瞬間にオルトルトに閃光が襲いかかった。
「げほっ!!」
「だ、大丈夫ですか!?」
「………入れる飲み物を間違えたようだ」
「ぷっ!」
「「あっはははははは!!」」
(ああ………私は良い友達に巡り会えたみたいですね)
「……なんだか騒がしいですね、取り敢えず席に着いて下さい!これから授業を始めますよ!」
俺の学園生活はまだまだ始まったばかりだ。
――――――――――――――――――――――――――
〜西部戦線〜
「……………キリがないな」
若き女性はテントの中で項垂れる。
彼女の名はリーレルナ。28歳という若さで西部戦線の指揮を任されている女傑だ。普段はもっと豪放でいる彼女だったが、今に限ってはその豪放さは微塵も無かった。
「隊長!お疲れの所申し訳ございませんが、またしても魔法人形の襲来です!!ご指示をお願いします!!」
「……何?またかい?全く……動ける兵をかき集めるんだよ!何としてでも止めるんだ!!」
「了解しました!!」
「この数日でレイラリアスの攻撃が激しくなって来たね。全く、身がもたないよ。こう何度も何度も団体様がいらっしゃったら西部戦線の部隊が壊滅しちまうよ」
彼女は悩む。最早西部戦線の崩壊は時間の問題だった。兵の約半数は負傷し、死者も増え続けている。援軍を要請しても中々援軍は来なかった。だが、だからと言っていつまでもくよくよしている訳にも行かない。
「さて、アタシも出陣しようかね!!」
愛用の斧を握りしめ、彼女は戦場に立つ。
まさに威風堂々たる姿に兵達の士気も上がる。
「アンタ達!負けたら容赦はしないよ!そのかわり……勝ったらみんなで祝杯をあげようじゃないか!とびっきりの酒を奢ってやるさ!」
「やった!!!」
「最高です隊長!!」
「アタシらは西部戦線防衛部隊!!アタシがいる限りここを破らせはしない!出陣!!」
「「ウオォォォォォ!!!」」
百戦錬磨の戦士達が魔法人形に立ち向かう。
「一兵卒ならいざ知らず。我々をそのような玩具で殺せると思うなよ!!」
「もらったァァァ!!!」
魔法人形が次々と撃破されていく。にも関わらず、一向に数が減っている気がしない。倒しても倒しても増えて行っているような気さえする。
「不味いね……このままだと……」
「隊長!!援軍です!!」
「何!?」
「大丈夫かリーレルナ!!」
「総員!!怪我人の治療に取り掛かって!!」
「ジルレイド!リヒール!来てくれたのかい?」
「西部戦線が押されていると聞いてな」
「まだまだ大丈夫だったんだがねぇ?」
「強がりねリーレルナ?さっき不味いって言ってたじゃない?」
「相変わらずの地獄耳だねぇ」
「さて、行こうかリーレルナ!『万砕』のリーレルナの実力が衰えていないか見てやるとするか!!」
「言うねぇ!じゃあアタシも『不屈』のジルレイドの力を見せて貰おうじゃないか!」
戦場に二つの暴虐が荒れ狂う。二人が通った後の戦場には破壊された魔法人形と戦士達の雄叫びだけが残った。
「ふうー。なんとか押し返せたねぇ。被害状況は?」
「負傷者が多数ですが死者は出ておりません!」
「流石だねリヒール?『鉄心』のリヒールの名は伊達じゃないって事だねぇ」
「ふふふ、あなた達こそ全く衰えてないじゃない」
「流石の豪撃だったな、リーレルナ」
「アンタこそ。さて、お二人さん。しばらくここにいては貰えないかねぇ?こっちは人手が足りなくてさ」
「勿論だ。元からその予定だったし」
「同じく」
「すまないね。じゃあ早速魔法人形戦の後片付けを頼んでも良いかねぇ?」
「了解だ」「分かったわ」
「さて野郎共!後片付けを手伝いな!」
「了解です隊長!!」
この日を境に西部戦線はロレスビュート側が巻き返しほぼ互角となった。




