研究棟
「………あと少しだよ!」
「アルト!しっかりせい!」
「は、はいぃ!」
「ミラリア!大丈夫か!」
「大丈夫だよー」
「近くに反応は無い。追ってきてはいないようだ」
俺達はやっとの思いでゴールに到着する。
「皆さん随分と遅かったですね」
「先生!実は――」
俺達はさっきの怪しい男についてキューハイトに説明する。
「――というわけなんです」
「何ですって!?すぐに追手を差し向けます!」
話を聞いたキューハイトは懐から赤水晶を取り出し叩き割る。その瞬間に警告音とアナウンスが森中に響き渡った。
『警告!警告!森エリアにて侵入者あり!職員は直ちに生徒の安全を確保し警備兵は侵入者を確保せよ!繰り返す――』
「全員居ますか!誰か周りで居ない人は居ませんか!確認して下さい!」
「全員居ます!」
「良かった!全員そこから動かないように!」
「キューハイト先生、生徒の身の安全は確保出来ましたか?」
「が、学長!勿論です!全員の安全は確保出来ました!」
「そうですか、それは良かったですね。そうそう、侵入者を捕らえようとしたのですが抵抗が激しく……確保出来ずに殺してしまったようです。」
「………そうですか、分かりました。はい!それでは皆さん全員固まって教室に戻ります!ついて来て下さい」
「そうそう、襲われたのはどの子なのですかな?」
「私です」
「そうですか、もう大丈夫です。私は学長のグターリアです。私があなたの安全を保障しましょう」
「ありがとうございます」
「そんなにかしこまらなくても良いんですよ?」
グターリアは今年で80歳になる老齢の魔術師だ。80歳になるといってもこの学園の学長であり、かなりの実力を持った武闘派の魔術師である。
「…………………………………」
「どうしたオルトルト?」
「………あっ?ああ、学長を初めて見たんでな、ちょっと驚いていたんだ」
「そうか、そんなに有名な人なのか?」
「そうだ。ドラゴンの単独討伐、ポーション精製法の確立、魔法装備の開発など挙げたらキリが無い程の功績を残している魔術師だ」
「成る程なぁ」
行きはあんなに広く感じた森が今は狭苦しく感じる。しばらく歩くと教室棟が見えて来た。
「皆さん。今日はここで解散とします。各自身の安全を最優先して下さい。それでは解散!」
「この後みんなはどうするんだ?」
「………ボクは図書館に行くよ」
「儂は少し散歩をしようと思っとる」
「私は部屋で研究でもするさ」
「部屋?寮の部屋か?」
「いや。研究棟に部屋があるんでな、そこでやろうと思ってる」
「あの!見てみても良いでしょうか!どんな研究をしてるのか気になります!」
「私も興味あるなぁ」
「俺も」
「私の部屋か?うーむ大分散らかってるがそれでも良ければ」
「「お願いします!」」
俺達はオルトルトを先頭に研究棟に向かう。
「なあオルトルト?」
「どうした?」
「さっき疑問に思ったんだが、キューハイトが適正は基本一種類って言ってたのに何種類もの魔法を教えるのか?」
「ああ、それか。別に適正が無くとも基本的な魔法くらいなら覚えられるからだ。覚えている魔法の種類が多い方が対応力が上がるしな」
「成る程」
「ほら見えて来たぞ、あれだ」
「なんか不気味ですね」
「同感だね」
研究棟は図書館よりも大きい建物で図書館と違い近寄り難い雰囲気を放っていた。
「私が使っているのは108号室だな」
「おっ!オルトルト!後ろの人達は?」
「ああ、同じ班のメンバーだ」
「そうか、ところで今度の騎士人形の出来はどうかな?割とよく出来たと思うんだが」
そう言った男は鎧騎士を引き連れていた。
「えっ!?それ魔法人形なんですか!?」
「アルトちゃん?そんなに凄いの?」
「そりゃあ凄いですよ!あれだけ綺麗に動ける物を作るなんてかなりの技量が居るんですよ!」
「ふーん、君魔術師かい?」
「はい!」
「そうか。褒めて貰うのは嬉しいな。それでオルトルト、出来はどうかな?」
「そうだな。よく出来てる、回路の完成度はかなり高いな。戦闘にはどのくらい耐えれるんだ?」
「おそらく30分くらいだろうな。ちなみに素材は鉄だ」
「なら鎧の素材を魔法鉄に変えたらどうだ?コストをあまり上げずに性能を上げられると思うぞ」
「その手があったか!流石だな!早速製作に取り掛かるよ!」
「ちゃんと休めよ?」
「ああ!またな!」
俺にはよく分からないやり取りが目の前で展開される。
(まあアルトが目を輝かせているところを見ると凄い話なんだろうな)
「オルトルト君は魔法人形の製作にも詳しいんですね!すっごいなぁ」
「別にそういう訳では無いんだが………少し照れるな」
「おっと!顔が赤いぞオルトルト?」
「嘘をつくな、嘘を!おっとここだ」
俺達はオルトルトの部屋に入った。




