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気がついたら森でした

(待て待て待て待て、これは一体?)


  落ち着け、落ち着いて考えろ、俺。

 家で平和に寝ていたはずだ、なのにどうして見渡す限り森、森、森なんだ?昨夜何かしたか?


 〜昨夜〜

「はあ〜ベータ版も今日で終わりかぁ、製品化したら絶対に買うぞぉ!」

  俺はゲームからログアウトした。

「良いゲームだったなぁ、さて、寝るかぁ……」


 〜現在〜

  何もしていない、原因が思いつかない。

(ん?森?そういえばここは……)

  思い出した。

(ここはゲームをログアウトした森にそっくりなんだ。ということは…まさか……?)

  ありえない、ありえてはならない。

(ここはゲームの世界なのか?いや、違うか…?)

  情報が足りない。取り敢えず近くにあった川で自分の姿を確認する。

(………!これは…!)

 そこには綺麗な茶色い髪をしている顔立ちの整った少年が映っていた。間違いなく自分の作ったキャラクターだった。そこまで確認した俺はあることに気づいた。

(ここ、もしかして危険地帯?)


「グォォォォォォォ!!」


  早速不安が的中した。


「!」


  後ろを振り向く。そこには縁色の竜の姿があった。


「緑の竜種![森の飛竜(フォレストワイバーン)]か!」


(やるしか無いのか?幸い、腰には剣を携え、体には鎧を纏っている。だが・・、戦えるのか?)

  当然の疑問だった。俺がやっていたゲームはパソコンのゲームだ。つまり実際に戦闘していた訳ではない。普通に生活していて後ろから竜に襲われることがあるのだろうか?ある筈がない。そもそもこの世界はゲームの法則が通用するのか?


「グオオオオオオオオォォォォォォォ!!」


  だが、目の前の竜はそんなことはお構いなしのようだ。


「畜生!やるしか無いのか!」


  剣を構える。

(ゲーム通りなら、初撃は直線的な噛み付きの筈だ、避けてスキルを叩き込んでやる・・!)

  緑竜が突っ込んで来る、生まれて初めての命の危機、切っ先は震え、意識が遠のいていく気さえする。

 目の前の竜が[森の飛竜(フォレストワイバーン)]では無い可能性すらある。

 初撃はゲーム通りでも身体が動く確証は無い。

 それでも今はゲームの法則が通じるのか祈るしかなかった。


「躱せるのか――!」


  必死の思いで身体を動かそうとする、ゲーム通りなら躱せるはずだーー。

 ――身体がイメージ通りの動きで攻撃を回避する。


「今だ!頼む、発動してくれ!《炎斬(フレイムスラッシュ)》!」


  剣は炎を纏い竜を切りつける。


「やっ……た……!」

「グォォ…ォォォォォォ……」


  竜が崩れるのを見ながら俺は地面に倒れ伏せた。極限状況を乗り切った反動で、視界は揺れ身体は動かなくなる。

 だがそれは致命的な隙だった。


「グォォォォォォォォォ!!!」


  俺は、倒れた筈の[森の飛竜(フォレストワイバーン)]が、俺の息の根を止めようと迫って来るのを揺らぐ視界の中で確認した。

(しまった…!)

  [森の飛龍(フォレストワイバーン)]の特殊能力は、 森のフィールドでのみ発動する再生力の増加。


 ――つまり、急所を外した《炎斬(フレイムスラッシュ)》くらいでは死なない。

(忘れていた、思い出せなかった。これが実戦の恐怖か・・・!)


「とにかく…今は…体勢を…!」


 だが手遅れだった。防ぎようが無い。

 その時だった。風を切る音と共に何かが飛んで来た。


 ヒュン!ドスッ!


 今度こそ飛竜は崩れ落ちた、起き上がる気配は無い。

 完璧に急所を撃ち抜かれている。

 おそらくはスキルによって強化された矢だ。

 もっとも動体視力が強化されていなければ、飛んで来たことすら分からなかっただろうが。


「一体…何が……?」


 状況が上手く飲み込めない俺に誰かが声を掛けた。


「君!大丈夫?」


 女の子の声だった。


「うん…まあ…なんとか」


 何が起こったかよく分かっていないが何とか返事を返す。


「良かった〜」


 そう言った少女は、猫耳で尻尾があった。

(獣人かな…?それにしてもかわいい。かわいい。)

 そんなことを考えていた俺に少女は言った。


「その竜、貰っても?」

「えっ、あっ、はい、どうぞ…?」


 それを聞いた少女は緑竜を肩に担いだ後、俺の肩を見て言った。


「肩!怪我してるよね!」


 そう言われて肩を見ると確かに血が出ていた。おそらく倒れた時に打ったのだろう。


「ついて来て、手当てするから」


 少女は続けて言った。

(なんて優しいんだ…)

 しかし、一つ聞いておかなければならない事がある。


「本当に俺みたいな初めて会った得体の知れないやつを、連れて行っても構わないのか?助けて貰った挙句に怪我まで治して貰うなんて…その…少し気が引ける」


 俺はそう言ったが彼女は屈託の無い笑顔で透き通った水色の目を俺に向けながら答えた。


「もちろん構わないよ、人には優しくしなさいってお母さんも言ってたし!」


 そう言いながら、彼女は歩き出す。俺も釣られて彼女の隣を歩く。


「ねぇ」


(ぎゃあ!)

 いきなり彼女がこっちを向いて話しかけてきたので、変な声が出そうになったが、何とか押し殺す。


「君、名前はなんて言うの?」


(名前、名前…か、なんて言おうかな)

 少し悩んだが俺はゲームをやっている時に使っていたプレイヤーネームを言うことにした。


「ハイド、ハイド・ヘーリウ。君の名前は?」


  ( …科学の勉強をしていた時に思いついた名前だった)


「私?ミラリア・ハーレルト。よろしく!」

「よ、よろしく」


(この世界のことはまだ何も分からないけども精一杯生きよう)


「ところで、その竜何に使うんだい?」

「いろいろだよ、いろいろ」


(いろいろって例えば何に使うんだろう…?)

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