不思議な喫茶店へようこそ
こっそり色んな魔道具やらなにやらが出てきてるんです。
内訳は後書きにでも。
日が落ちてぱらぱらと先ほどから降り出した雨の中、一人の男性が暗い影を落としながら歩いている。頬を濡らす雨がまるで泣いているよう。何時もの通りの道を歩いているはずが、何処で間違えたのか見知らぬ風景。男性は今日起きた事を考えながら歩いていたからと思いその道を何気なく進んでみることにした。
どれ位歩いただろうか?十分ほど?それとも一時間?不思議な感覚に見舞われるその通りに都会に、この様な場所が在ったのかとキョロキョロと見回す。ノスタルジックな雰囲気を感じるその道を進んだ先に木々に囲まれ社でもあるような場所。何かあるのか?と木々に囲まれた道を進むと其処にあったのは社ではなく喫茶店。今の気持ちを切り替えるには丁度いいかもしれないと思い、喫茶店の扉を開き店内に。
「いらっしゃいませ」
聞こえてきた挨拶は女性の声で耳に優しく何処か心を落ち着かせてくれる。声の主の方に視線を向ける、其処には女優やモデルも裸足で逃げるような、美女の中に可愛らしさの少し残すような二十歳前後の女性。少し前に色々あったと言うのにドクンと心拍が上がるような感覚を覚えつつ席に座る。周りを見てみれば迷い込むような場所に在ると言うのにお客の姿がちらほら。隠れた名店なのだろうか?と思いながらメニューを見てみると知っている物から謎と言える物まで。冷え切った心身を暖める序に此処まで冒険して来たのだからメニューも多少冒険してみようと飲み物一覧にあるクリンメールのホットを頼むことに。
コポコポと言う音と共にコーヒーに似た香りが漂ってくる、店内では何処の国の言葉か判らないがゆったりとした歌が流れ疲れた心を癒しつつ何かが起こるような予感を感じさせる、そのような空気が此処にはあった。
「熱いからゆっくりとな」
不意に声をかけられ其方を見ると、コーヒーに似た飲み物が置かれていた。一口飲んでみると其処には不思議な感覚に襲われつつも言葉では表せない美味しさ。思わず声をかけて来た男性の顔とカップを何度も見る。
「満足して貰えた様でよかった」
男性が嬉しそうにそう言う。飲み物の美味しさにショックを受け色々な意味でぶっ飛んでしまったが、目の前の男性がこの店のマスターなんだろう。見た感じ中の上から上の下と言った感じで幼さを多少残した顔つき。さっきの女性と合わせて何故この様な場所で喫茶店を営んでいるのか不思議な二人だった。
「お客さん、入ってきた時から見たら多少よくなったけど、何か悩み事でもあるのかい?」
マスターからそう声をかけられ今度は違う意味で胸がドキリと高鳴る。そんなにも表情や雰囲気に出ていたのだろうか、きっと出ていたんだろうな今も言い当てられた。そんな思考を巡らせつつマスターの顔を窺う。
「あぁ、言いにくい事だったり言いたくないなら深くは聞かない。まぁ一時の出会いだ顔もしらん人間になら言える事もあるかもしれないと思ってね」
マスターの言葉に確かにそうかも知れない、元々此処には迷って来たわけだし又来れるかも判らない。ならば少し愚痴ではないが相談するのも在りだな。なぜかその様に考えてしまうが不思議と違和感もなかった。
「実は、親友だと思っていた相手に婚約者を奪われまして・・・・・・もう訳が判らなくなってて」
「なるほど、ソレは頭の中が真っ白になっても仕方ない、こういう時はゆっくりと飲み物でも飲みつつ一ずつ問題を解決かな?まずはお客さんがどうしたいかだね」
どうしたいか?そういえば如何してこんな事に等考えがぐるぐる回ってどうするかなんて考えもしなかった。少し考えてみるが思いつかないので聞いてみるのが一番だろう。
「どうしたいか・・・・・・今少し考えてみたけど、どうにも判らなくて」
「まぁ今言われた事だから仕方ないね。幾つか質問をするからソレに答えてもらおうか。」
「はい、お願いしますその方が考えが出てきそうですし」
「ではまず、婚約者とどうなりたい?取り返したい?それとも縁を切りたい?」
「それは・・・・・・判らないです、いい思い出も有れば裏切られたなんでだって思いも」
「ふむ、じゃぁ次に親友だった人はどうかな?やり直したい?縁切りしたい?」
「そっちは縁を切りたいですね」
自分の口からすんなりと親友だった男と縁を切りたい、そんな言葉が出てきたことにビックリした。長い時間を共にした友人だったはずだったのに、切り捨てるまで思いつめていた。
「少し答えが見つかったようだね?もう少し進もうか、次は自分がどうしたい。復讐に走りたい?其れとも前に進みたい?」
「復讐と言う言葉にやや惹かれけど、それ以上に前に進むって言葉が気になりますがどういう物でしょう?」
「そうだね幾つかあると思うけど、新しい出会いを求めるとか仕事の鬼になってみるとか?気持ちの持ちようってのも在るけど逃避じゃなくて、其処に楽しみを見出すなり目的をつくる感じかな」
「なら前に進みたいですね、そうしたら復讐にもなるのかな?」
「ははっ、よくなった自分を見せ付ける、優しくも残酷な復讐だね」
他にも幾つか会話のやり取りをし、軽くなっていく気持ちを理解する。あぁやはり何かが起こる予感は正しかったんだ。道に迷ったのはこの為だったんだと不思議な出会いに頬が緩む。
時間も進みそろそろ帰宅しなくてはと思い、店を出る為に会計を頼む。割とリーズナブルなお値段にあの味なのにと驚愕する。
「初めて来てくれたお客さんには之を」
そういって差し出されたのはネクタイピン。銀で作られ鳥の形が彫られいい雰囲気のソレ。
「一ヶ月ぐらい着けてくれるといい出会いが有るように、お呪いかけて置いたから」
おどけながら笑顔で記念品だよっと言うマスターに、それならば騙されたと思って着けてみようとその場でネクタイにつけてみせる。
「マスター今日はありがとう、凄く美味しかったし助かった」
「いやいや、折角来てもらったから笑顔で帰ってもらいたいからね」
来たときとは違い軽い足取りで木々の中を抜けると直に見知った道に出た。行きはアレだけ彷徨ってた筈なのに何故だろう?狐にでも化かされていたのだろうか?化かされたとしてもいい出会いが会ったからいいか。なんて事を考えながら帰宅した男に暗い影はもうなかった。
数ヵ月後、男の顔には笑顔が耐えない状態になっていた。仕事ではいい取引先の相手と出会い、プライベートでは新しい恋人や友と言える人に囲まれている。ある時、恋人が男のネクタイピンを見て軽い質問をしてきた。
「そのタイピン何処で手に入れたの?ソレ今ネットで話題の人の作品っぽいんだけど?」
そんな恋人の質問に自分が変わるきっかけになった喫茶店を思い出した。此処数ヶ月忙しく走り回っていたせいか、忘れていた事に自分でもびっくりした。そして恋人にその不思議な喫茶店の話を自分が変わるきっかけになった出来事を面白おかしく話した。
数日後、男はある道を歩いていた。だが何時まで経っても目的地に辿り着かない、本当に狐にでも化かされたのか?という疑問が頭の隅から離れなくなった頃一人の少し風変わりの男性を見つける。思い切って声をかけてみよう道を聞くだけ。
「すみません、ここら辺に木々に囲まれた社でもあるような場所にある喫茶店を知りませんか?」
カッと目を見開いた風変わりな男性に恐怖を感じたが、男が返事をしてくれた内容にさらに驚くことになった。
「君は、その喫茶店に辿り着けたのかね!その喫茶店はね、本当に必要になった者だけが辿り着けると言われてる、ある意味神域の様な者なのだよ!!いやぁ、君は実に運がいいな!羨ましい」
そんな会話にあの時もっと色々と話や飲食が出来ていたらと思いながらも、そんな余裕なかったきっといい者に化かされいい出会いと切っ掛けが貰えたんだ。納得して次あの地に行く様な出来事が起きないようにと思いながらも、もしあの店に偶然にでも辿り着けたらお礼代りに沢山注文して、その後の出来事を楽しく話そう。楽しげに思いふける男は、また恋人に話ネタが増えたなと帰宅する事にした。
不思議な現象を起こしたものの種類
迷いの結界 本当に辿り着くべき人以外は元の道に戻ってしまう結界
クリンメール 異世界の豆を使ったコーヒーみたいな物。今回はマスターが精神安定の術を使用している。
店内の曲 異世界の音楽というより呪歌でリラックス効果有り
ネクタイピン 異世界で飛翔と出会いの意味を持つ鳥を彫ったネクタイピン。一ヶ月の間、出会い(いい方向で様々な)の運が向上する効果がある。