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放置国家  作者: 水芦 傑
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―帰還という始まり―

 スペースシャトルが宇宙での旅を終えて、着陸した。非公式ながら、これは日本初の宇宙旅行という意味を持っていた。

 スペースシャトルから次々に人が降りてくる。総勢、男女十名。彼らは宇宙という無重力空間で半年間も過ごしていたとは思えない程、しっかりした足取りをしていた。

 しかし、それは当然とも言うべき事柄だった。十名の旅行者は旅行中、この瞬間に備える為、毎日厳しい訓練を積んできたのだから。

 勿論のことなのだが、彼らは正規の宇宙飛行士ではない。

様々な場所で公募されていた宇宙旅行。これが政府による公募ということは伏せられていた。その為か、この公募は雑誌の懸賞や商店街での福引、更には街中で配られるポケットティッシュにまで募集されていた。

 このことは世間でも話題となったが信じる者は少なく、殆どの人が嘘だと決め込んでいた。一般的な常識からすれば、一般人が宇宙旅行に行けるようになるには、あと十年から二十年は先だと言われていたからだ。

 しかし、そこには政府の思惑があった。政府にとって、この公募に引っ掛かる人は純粋で正義感を持つ人を希望していたのだ。

 そして、選考には何千人という応募数が集まり、選ばれたのが今降りてきた十名の人だった。実際に彼らが政府の要望を踏まえた人達だったのかはまだ定かではないが、それぞれ年齢も職種も容姿も共通点がなかった。

 ただ、彼らに一つの共通点があるとすれば、それは政府の思惑に引っ掛かってしまい、今後の人生を狂わされてしまった、ということぐらいだろう。

 それぞれの表情は異なっており、宇宙を楽しめた満足感に浸る者、宇宙での厳しい訓練のせいで疲労感に満ちた者、慣れない環境から帰って来た安堵感に溜め息を吐く者、もう終わってしまったのかという虚無感に陥る者。まさに多種多様な反応が窺い知れた。

 ただ、この時の彼らはまだ知らない。

 この旅が持っていたもう一つの意味を。

 この旅によって起きた様々な変化を。

 そして、帰還した今がまさに始まりだということを。

 彼らの帰還を迎えた者達は数える程しかいない。非公式である為に仕方ないことなのだが。その中でいち早く駆け寄った人がいた。

 ネクタイを締め、スーツをきっちりと着こなす眼鏡の男は明らかに歓迎しているという雰囲気ではなかった。いや、それよりも表情には焦りや陰りが垣間見えた。

 男は十人のもとに行き着くと、二・三度深呼吸して荒くなった息を整えた。

 そして、十人の戦士に告げる。

「総理大臣がお待ちになっております。是非とも貴方がたに感想を聞きたく、お会いになりたいと申しております」



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