吸血衝動、高まる鼓動
前回のあらすじ?
シホとの仲を深めたアオイは、朝にもかかわらず寝ようとする。そこにタイミングを計ったようにあらわれるユウヒ御一行。提示されたのはアオイの誕生日だったということ、パーティーを開催すること。そして、簡単にいえば荷物持ちになれ。ということだった。アオイはマジックカード「仮病」を発動するがユカにトラップカード「キュアー」を発動されてしまったがためにやむなく荷物持ちになることに……。だが、服は先程の戦闘により使えなくなってしまっていた。そこはシオンの力によりなんとかなった……のだが、用意されたのは女物の服!?有無を言わさず着替えさせられた俺は何故か女の子扱いされることに……。ユウヒのプランに従っていた俺だが一番最初の店が女性服専門店という悲(喜?)劇にあう。なんやかんやあって店内で服を着替えることに…………。そこで出くわしたクロゴキブリの騒動(元を言えばアオイが原因なのだが)に乗じて抜け出そうとする。その目論見が失敗し、事態はもっと悪い方向へ……。アオイの運命はいかに!?
…………というわけで身ぐるみを剥がされ裸体一歩手前である。そこで俺は声が出せないほど驚いた。自分の体がなぜか女体化しているのである。
さて、怪しいことは何個あったか、言うまでも無いだろう。例のシオンがやったに違いない。
まあそれでも、今日のところは見逃す。変なタイミングで魔法を解除されても困るからだ。それよりも今の状況をどうにかしないと……。
「あっ……ちょ……そこは……。」
何があったか説明しよう。三鈴は身体の組成を変えることができる。つまりだ、手先をスライム状の触手に変えることだって……。それで、太ももをペタペタしてくるのだ。こそばゆいったらありゃしない。
「なかなか良い太ももですね。」
と言ったのは、シホだ。吸血鬼の生態はよくわかっていないのだが、時々見せる犬歯がまるで吸血行動を欲しているようにギラッと光って怖い。
「それはどうも……っていうか近い近い!何その距離!?筋肉フェチか何かですか!?」
「あっ、いや。吸血衝動に駆られたので首筋以外を見てたならまだ衝動がおさまるかなー、と。」
おお、恐い恐い。だいたい予想は当たっていたようだ。嬉しいのか悲しいのか複雑な気持ちになったが。
「ちなみに、吸血された人ってどうなるんですか?」
「それは吸血鬼によって異なるんですけど、私の場合は……。」
そこまで言ったところで限界だったらしく、シホはおもむろに立ち上がり俺の首筋に噛みついた。
「きゃーーー!」
本日2度目の悲鳴である。
「痛たたたた……。」
「あれ、たしか俺シホに噛まれて……?」
考えるんだこの状況。どっかで……。
「なかなか良い太ももですね。」
と言ったのは、シホだ。吸血鬼の生態はよくわかっていないのだが、時々見せる犬歯がまるで吸血行動を欲しているようにギラッと光って怖い。
「それはどうも……っていうか近い近い!何その距離!?筋肉フェチか何かですか!?」
「あっ、いや。吸血衝動に駆られたので首筋以外を見てたならまだ衝動がおさまるかなー、と。」
やっぱりだ。これは……。
と、思いつつ質問をする。
「ちなみに、吸血された人ってどうなるんですか?」
「それは吸血鬼によって異なるんですけど、私の場合は……。」
そこまで言ったところで限界だったらしく、シホはおもむろに立ち上がり俺の首筋に噛みついた。
「きゃーーー!」
本日3度目の悲鳴をあげる。
「……ン…………あれ……?」
「たしかシホに噛まれて……。」
という、デジャヴである。しかしここからが違う。ここは、ギルドの医務室。どうやら運ばれて来たらしい。
「すみません、アオイ君。私が未熟だったばっかりに……。」
しっかりと君付けをしているあたり女体化の原因を知っているのだろう。しかし、今回の話の焦点はそこではない。ぼんやりとした頭で、返事を返す。
「いや、大丈夫。さすがに3回も吸血されたら慣れるから。」
嬉しいのかよく分からない複雑な気持ちに悩まされながら俺は、
「ところで、シホさんの吸血の効果は時間旅行ですね。」
「え……ええ。」
「事実上、どのぐらいまで移動出来るんですか?」
「……えっと、前後1時間近くですね。」
シホは本当のことを隠した……。
分からなかったのだ。
そもそも、私自身が吸血衝動に駆られるということ自体が初めての経験であったのだ。また、男の人を魅力的に思うことも同様に初めてのことだった。
お兄様の吸血による性転換という効果は実例があり知っていたのだが、私自身の効果については実例がない、故に分からなかったのだ。
だが、これで証明された。私の能力は時間旅行だ。まだ力を完全にコントロールできるわけではないが分かっていることがある。下手をするとこの力は、相手を死に追いやれるということだ。どういうことかというと、「死」それはすなわち時が止まること。私の効果は、相手の精神(魂といっても良いだろう)を擬似的に別の時間軸に移動させる。その間、置いていかれた身体は無防備になる。魂が抜けた(その時、意識は別の時間軸に飛ばされているので、体は無防備)状態になるのだ。今回は、衝動的なもので自分で制御出来ず、"暴走"を引き起こした。(暴走とは、能力、魔法などがその人の意思で制御出来なくなることをしめす。)つまり裏を返せば、私が帰ってこいと思えば、別の時間軸から帰還できるのだ。しかし今回は、"暴走"によりアオイ君が別の時間軸に囚われ続け永遠に帰って来なくなる可能性だってあったのだ。これがいわゆる「死」になる。
アオイ君は軽く流していてくれているが、私は自責の念にかられている。彼の笑みがアルカイックスマイルに見えてきて、どんどん疑心暗鬼に陥っていく。そして糸がプツンと切れたように感情が爆発する。
「どうして、そんなに笑っていられるの?死ぬ可能性だってあったのに!本当の気持ちを教えてよ!」
「……じゃあ、どうしてシホは泣いているの?」
応答としては不適切だったが、私の心を落ち着かせるだけの効果はあった。それがアオイ君の狙いだったのかもしれない。
「……それは…………。」
「……じゃあ、さっきの答えを返すよ。死ぬのがこわいか。それは、生きている限りはそうだ。その摂理というべきものは変わらないだろう。」
「…………。」
「こわいのには変わりない。でも、"死ねない"体だったら?」
「…………!」
私はこれ以上踏み込んではいけない気がした。しかし同時に彼の全てを理解したいとも思った。
「俺はね、死ねないんだよ。とある術式を埋め込まれてね……。もし、致死量のダメージを受けても周りの"魔素"(大気中に存在する魔法の残留物)を取り込んで回復するんだ。まるで魔物だよな。ははっ。こんなこと話したのはシホだけだよ。」
彼は軽く笑ってはいるが、このことを今まで一人で背負ってきたのだ。辛いわけがない。少々質問するには気がひけることではあったが、私は質問した。
「……その術式を埋め込んだ人を恨んでないんですか?」
「恨んでるさ、もちろん。でも同時に感謝もしてる。もし、みんなが危ないと思ったら助けに身をていしていけるだろ。」
たしかにそういう捉え方もできる。だが私は、
「……そうやって自分だけを犠牲にして欲しくはないです!私は、誰にも怪我、負傷して欲しくないんです!」
自分の目から熱いものが流れているのにも気づかず、私は続けた。
「たしかに、半分不死のようなものですから、仲間を守るために身をていしたこともありました。しかし戦いが終わった後、私はその人に怒られました。なんでだと思います?」
「答えはこうです。『たしかに身をていして守ってくれるのは嬉しい。けど、お前が怪我をするだろ?それを俺たちは心配する。つまり、お前が俺たちに怪我をしてほしくないと思うと同時に俺たちもお前に怪我をしてほしくないんだよ。…………つまりだな……もう少し仲間を信用しようぜ?お前が思うほど俺たちはそんなに弱くないんだからよ。』と。」
「請け売りするのもなんだったんですが、もう少し仲間を信用してあげましょうよ。なんなら、私が弱くないことを証明してあげましょうか?」
最後のは冗談のつもりでいったのだが、
「じゃあ、証明してみせてよ。」
と、彼は本気で受け止めたらしく
「え?えーと…………。」
と困惑する私であった。場所はギルド内地下修練場に移動し、弁解も出来ず互いに武器をとりそのまま勝負になってしまった、が。1分も経たずして私が圧勝した。
「いや……その…………なんか、生意気なこと言ってすいませんでした。」
理由は近距離戦にもつれ込んだからである。たぶん、実技試験の行動からアオイ君は『シホは遠距離タイプだろう。』と、予測したのだろうが実際は違う。お兄さまに近距離の手ほどきをしたのは他でもない私なのだから。つまり、近距離戦では私がギルド内トップなのである。その私に1太刀掠らせたので十分上出来と言えるだろう。
「分かった?みんなは君が考えてるほど弱くないんだよ。」
「……はい。」
この一連の流れが終わる頃には11時30分になっていた。ドアがノックされたのはほぼ同時だった。
ーーー時は1時間前にさかのぼる。
「どうしましょうか?」
とユカ。
「うーん。」
と三鈴。
「みんなに任せるわ。」
とシルフィー
「……お兄ちゃんだいじょうぶかなぁ…………。」
と私。
この時には、もう普段の言い方に戻っている。これも誕生日にからかっていただけであった。シオンの能力(異性化)にはびっくりしたが、なかなか面白い体験が出来た。さすがに笑いをこらえる魔法がなかったら登場シーンで爆笑していたであろう。と、それはさておき。メインの人がいなくなった今、予定が全て狂ったわけだ。と言っても時系列が前だおれするだけなのだが。つまり30分近くの空き時間が出来たというわけだ。
「予定では、そうとうお兄ちゃんをいじくるつもりだったのに……。」
そう口に出した私だ。過ぎたことはしょうがない。で、結局どこにいくという当てもなく街の中心の広場で10分ほどたった頃、事件は起こる。
「きゃああぁーー!」
少女の悲鳴だ。これだけでは何があったかわからない。とりあえず、事情聴取に向かう。
「あの大丈夫……じゃないですよね。何があったか教えて貰えますか?」
こういう時に説得力があるのは大人びた(人間よりはるかに年上なのだが)シルフィーである。少女は腰が抜けてしまったのか、床にへたりこんだまま事情を話した。
「ひったくりにあったの。おつかいだったのに……。」
見た感じ6、7才のショートが似合う黒髪の女の子だ。でも何より特徴的なのは水色の目だ。
「ひったくりの人がどっち行ったか分かる?」
女の子の頭を撫でながらユカ。やけに扱いがなれているようにみえる。
「……あっち。」
と、女の子は右側のいかにも、という感じのやけに暗い路地を指差した。
「分かった!お姉さんたちが取り返してきてあげる!」
と三鈴。
「……待って、わたしも行く!」
この女の子の発言に一同驚愕した。無論、一緒に行くわけには"普通は"いかない。しかし、この女の子の発言からは"ただならぬ"オーラを感じた。
「……一緒にきてもいいけど、危なくなったらすぐ逃げるって約束できる?」
「うん!ありがとう!」
こうやって、満面の笑みを向けられるとこっちまで気恥ずかしく思ってしまう。
路地を歩いて10分、行き止まりに当たった。1本道だったのでどこかで出くわすはずなのだが……。不意に女の子が
「あの人!」
と言った。しかし何処を見てもそのような人は見当たらない。
「何処にいるの?」
と一応聞いてみる。
「あっ……そうか!普通の人には見えないんだった。」
というと女の子はどこからともなく取り出した小銃を壁に向かって撃った。少なくとも私たちにはそのように見えた。だが、銃弾は途中で止まり、着弾点?というべきところから真紅の液体が飛び散った。その一部は空中で不自然に止まり私たちには見えなかった者の存在を露わにする。
「急所は外しました。大人しく降伏しなさい。さもなくばもう2つ穴が開くことになりますよ。」
女の子の口から出た言葉は私たちに大きな衝撃を与えた。無論、撃たれた方も一様に言えよう。
「この照準とこの魔法、まさか……《時の支配者》(タイムルーラー)か!?でもやつは2年前に……」
これ以上男の声を聞くことはなかった。銃声が二発細い路地にこだまする。
「"大人しく"と言ったはずです。まったく、教育もなっていないのですか?……重力砲」
女の子はそう言い、銃弾を骸に1発追加で撃った。その魔法は重力を打ち消す効果なのか、男の体が撃たれた反動で不自然に上昇する。そして、
「風撃」
という声を皮切りに、男の体は急激に上昇し、そのまま落ちてくることはなかった。
一連の流れを観ていた私たちだが、何があったのか未だに理解できていない。しかし分かったことがある。女の子は魔術師だ。それもかなり高等の。皆が言葉を失ってる時、女の子が話しかけてきた。
「そう言えば、申し遅れました。私はギルド《断罪の孤独者》の次席 桜井 風花です。以後お見知り置きを。」
再び、絶句する。そんな私たちを無視して、フウカは話し続ける。
「バックも取り戻したことだしじゃあ、行こうか!家まで見送ってくれるんでしょ?」
突然の子供モード発動である。穏便に済まされるならそれで困ることはないが。ふう、と安心しつつも戸惑いを隠せない私であった。
「……え?……いや、え!?」
と言っているのは三鈴だ。
フウカの家についたのだが、そこは大豪邸。そして、ギルドの裏に位置している。さらに言えば、今日のパーティーの会場でもあった。シオンが『大丈夫、大丈夫。コネがあるから。』と言っていたのはこういうことだったのだろう。
「お帰りなさいませ、フウカお嬢様。ところでその方々は?」
と、門番がいう。
「んーとね、友達!」
とフウカ。
「そうでしたか、失礼いたしました。」
というと門番は私たちに向けていた明確な殺意の気配を消した。
私たちは案内されるがままに応接室に通されたのだった。
まず、すいませんでした。あらすじ長すぎましたね。要約しようにも手が止まらないものでして……。はい。次回は短くするよう心掛けます。ところで、読む小説のストックがどんどん増えていくのは普通ですよね。今日は2冊の本を買いに来た。気がつくと5冊の本を持っていたなんて。普通ですよね?では、雑談になってしまいましたが本日はこの辺で。ではまた来週?お会いしましょう!