表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/30

24、抒情

天璃は比呂美の存在を忘れてしまっていた。


 「どうしてもっと早くに相談してくれなかったの?」


 病院へ行こうと言われた天璃は、頑なに首を横に振る。


 比呂美は、不破が飛び出していったことを聞いただけで、天璃のもとへやってきたわけではない。

 仲間内からのメールが、どれも天璃の躰を気遣うものばかりで、様子を見に来たのだ。

 仕方なく入ったカフェの一角で、比呂美は盛大なため息をつく。

 「だったら言ってみて。私なら、話せる内容だと思うけど」

 そう言われ、天璃はがっくりと肩を落とす。


 不破に話せない部分が多々あるため、やはり比呂美も差し控えることを選ぶ。

 「ばってん乳井室君、君も悪い。はっきりしてあげないから、みんな傷ついてしまっとる気がする」

 情けない顔で頷く天璃を見て、比呂美は思わず吹き出してしまう。

 「何がおかしか」

 「何も」

 「笑ってるやろ」

 「ごめん。そぎゃん顔ばしとる乳井室君見とると、高校時代ば思い出すのよ。なんかいつでんそぎゃん顔ばして、うちのわがまま聞いとったなって」

 「そぎゃんことなか。ぴしゃーっとしよったやろ」

 涙を流して笑う比呂美を見て、天璃は冷静さを取り戻す。

 特盛パフェが目の前に置かれ、涼しい顔をした比呂美が、アイスコーヒーを啜りながらニコリとほほ笑む。

 「瑠璃には、また歌を歌って欲しい。あいつの生き生きしたあんな顔見るの、ここ最近、なかったから」

 「確かにそうね。まぁ泣かせている原因は、あなただけどね」

 萎れてしまう天璃を見て、比呂美は八重歯を出して笑う。

 比呂美の横暴ぶりは健在なのである。

 「よかこと思いついたとよ。いっそんこと兄妹で駆け落ちしたらどう?」

 この唐突な発想に、天璃は思わず顔をしかめる。

 「冗談ば言っとる場合やないんやけん。菅しゃんは本気で二人のことば暴露しようとしとったんやけん。そん証拠品が見つかっていない以上、おちおちとしていられんけん。こぎゃんことが世間に出回ったら、瑠璃だけやない、両親だって傷つけられる」

 「冗談なんか言っやないよ。もうこぎゃんのたくしゃんばい。あんご両親なら、きっと分かってくれるとよ。こぎゃんに思いあっとるのに、無理するからこじれるんばい。どっか遠くの国へ行って、自由に二人で暮らせばよか。よそが嫌なら、地方にでも行ってさ」

 「もう決めたんやけん。俺は節子と颯太の家族になるとよ。それがいっちゃんなんだ」

 力なく微笑む天璃を見て、比呂美は再びに盛大なため息をつく。

 ばかげた話だと比呂美は思った。

 しかし、それ以上は何も言うまいと思い、席を立ちあがる。

 「そう言えば、もうそろそろ瑠璃の誕生日よね」

 伝票を持ちながら言う比呂美に、天璃は頷いて見せる。

 「今年はどうするの? 美希も渡米するみたいだし、乳井室君も結婚控えているからそれどころじゃないか」

 「やります。それだけは、あいつのためにもやってやろうと思います」

 「そう。だったら今年はわが家を提供するわ。あなたの家っていうのもねぇ。あと、瑠璃ちゃんからのプレゼントのリクエストを承っているんだけど」

 天璃はそれを聞いて苦笑してしまう。

 大概は直接言われるのだが、高価なもののお強請りをする時は必ず人伝で言ってくるのだ。去年は美希からの口から聞かされ、二人で共同出資してジュエリーを贈ったのだが……。

 「歌詞を書いて欲しいそうよ」

 思わず、はぁと聞き返した天璃を見て、比呂美は再びゆっくりとした口調で繰り返す。

 「あいつは何を考えているんだ? 俺に書けるわけないだろ」

 「そんなの知らないわ。でも、もし書いてくれるなら、もう一度歌うこと考えてみるって言ってくれたの。これはチャンスだと思わない? 乳井室君だって、さっき瑠璃にはもう一度歌って欲しいって言ってたでしょ。お願い。美希と瑠璃に抜けられると、本当にうち、パンクしちゃうの」

 笑うしかなかった。

 勝手な言い分を残し、比呂美は帰っていき、天璃は一人、呆然としていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ