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21、告白

 「コンコン。具合、如何です」

 節子だった。

 「だいぶ、楽になりました」

 節子は今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 「ごめんなさい」

 急に謝れた天璃は、ん? と首を傾げる。

 「もっと早くに、本当のことを話していれば、おそらくこんな目に遭わずに済んだのに……」

 感極まって、節子は俯いてしまう。

 しばらくして、ようやく涙を仕舞い込んだ節子が、ポツリポツリ話し始める。

 「私、昔、美希さんと同じ事務所に所属していたんです。売れないタレントです。男性雑誌とかそういった類が主な仕事で……」

 「良いよ。無理して話さなくても。俺もその件に関しては、君に謝らなければと思っていたから」

 目を潤ませた節子に、天璃は優しく微笑む。

 「俺、知っていたんだ。美希と節子さんに接点があったことも、全部、知っていたんだ。君に謝りたくて、あの店に通ったんだけど言い出せなくって、観光巡りを一緒にすることになって、いいチャンスだって思ったんだけど、結局、言い出せなくって、本当に申し訳ない」

 「いつから?」

 目を大きくして聞く節子に、天璃は遠い目をして答える。

 「比呂美さんのお母さんが亡くなられて、葬儀に参列している時、美希に話している声が聞こえてね。もしやと思って調べたんだ。本当、驚いたな。あの花嫁さんが節子さんだって分かった時には」

 絶句してしまっている節子を見て、天璃は優しく微笑む。

 「悪いことしてしまったなぁって、反省しています。あの時もっと俺が大人になって、感情的になってしまっていた美希を止めるべきだった」

 節子は、俯き首を横に振る。

 「あんなことがなくても、私たち夫婦は時間の問題だったんです。小泉はだらしない男で、事務所に入ってきた女の子を言葉巧みに誘い、自分の思うがままにしていたんです。美希と付き合っていることも、私、知っていました。でも、絶対彼は私の元へ帰って来るって、自信があったんです。その内、美希の方が売れ出してきて、正直焦りました。彼の心も、どんどん美希の方へいっているようだったし、だから私、良い人のふりをして、美希から、彼の話をいろいろ聞き出していたんです。いつ頃からか、ちょくちょくあなたの名前が出る様になって、美希が生き生きとし出したんです。何とかしなくてはと思いました。このままだと、彼の心は完璧に美希に攫われてしまうって。実際、彼もそんなことを口走っていましたから。幸せだった時間は束の間でした。結婚しても彼の癖は治らず、颯大が生まれても可愛がるどころか、見向きもしなくって。発達が遅いと分かれば、家にも寄り付かなくなってしまってんです。生活費も入れてくれなくなっちゃって、働くにも働けなくって、微々たる貯金も食いつぶしてしまい、途方に暮れてしまって……。ごめんなさい。二人のことをリークしたの私なんです。お金が必要だったってこともあったけど、一番の理由は、美希への嫉妬です。ずっと勝ったって思っていた相手に負けていたなんて、認めるのが悔しかったんです。本当にごめんなさい。でも驚きました。まさかあんな場所で再会をするなんて、思いもしなかったから。美希が話していた通りで、まったく参っちゃいました。復讐でもしてやろうって思っていたのに、バカだぁ、私はバカだ。よりによって好きになってしまうなんて。どうしようもないですね私。あなたを引き留めたくて、あんな嘘の証言までしてしまうなんて……」

 節子は泣き崩れてしまっていた。

 「あの時、本当は菅さんがやったこと、分っていたんですか?」

 泣きはらした顔を上げ、節子は頷く。

 「フードを深く被っていて顔ははっきり見えなかったけど、あの香りは間違いなく、菅さんです。それにはっきり言ったんです。彼は私のもの。誰にも渡さないって。痛みに耐えながら聞いた言葉で自信がなかったけど、絶対聞き間違えていないと思います」

 その言葉を聞いた天璃は複雑だった。

 これが悪い癖だと思いつつも、心のどこかで菅に同情してしまっている自分がいるのだ。

 「結婚、しませんか?」

 ポツリと言う天璃に、節子が驚きの表情を見せる。

 「こんな俺で良かったら、一緒になって欲しい」

 「でも……」

 「美希とは、あなたが居ても居なくても終わっていたんです。俺たちは一つになれない運命だったんです」

 天璃はまっすぐ節子を見詰め、もう一度囁く。

 「俺と、結婚してください」

 差し出された手を握り返すのが精いっぱいの節子だった。

 「幸せになりましょう」

 そう言うと天璃は節子を自分へ引き寄せ、唇を合わせる。

 頭のどこかで、これで良いのだと、自分に言い聞かせながら……、言葉を噛みしめていた。


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