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第一章 異世界にて【過去】


私はもう彼に会うつもりはなかった。たぶん彼も私の事は忘れていると思っていた。


「昨日はすごかったな、あの大きな魔獣を剣一つで倒せるなんて思わなかったよ」

「さっき食べたぜ、俺なんか全く料理もできないのに美味いよなぁ」

「なぁ知ってるか?北の地方にはでっかい海ってやつがあるんだってさ」

「この間、母さんがごめんな。悪気はないんだ。ただごめん、もう母さんには声はかけない方がいい」

「泣かないで!君が悪いわけじゃない。俺たち家族はそういもんなんだよ」

「・・・ごめん、ほんとうにごめん」


今でも君の言葉は一つ一つ覚えているよ。

忘れられないよ。

だって君は私を救ってくれた人だもの。

憎しみだけしかもっていなかった。

人を殺すすべしか知らなかった。

人の気持ちをわかろうとしなかった私を変えてくれた君。


あの人を憎むのではなく、尊敬と友愛の気持ちを持たせてくれたきっかけを作ってくれた。

あの人を師匠と呼ぶことができるようになったきっかけを作ってくれた彼


「ごめんな、俺は騎士だ。悪いが君を見過ごすことは出来ない」


師匠、わかっていました。

うん、わかっていたんです。でもそれでも、私はあなたの弟子に慣れてうれしかった。

師匠は私を助けたことを後悔しているんでしょうか?私を憎んだでしょうか?


「お前はそれでいいのか?」


その言葉は一体どのような意味があったんでしょうか?

分からない、わかりたかったけど、分からなかった。

でも、これだけは実感した。


私は幸せになるべき人間ではないのだ。

いくつも人を、物を欺き殺した私は、そいつらと同じような運命をたどることになる。いやなるべきだ。

私はそう思った。それなのに・・・


「僕だ、アルトだよ。君をずっと探していたんだ」


やだ、やめてよ。どうかお願いだから私を一人にさせてください。

そう心で叫びながら、ただ逃げることしかできなかった。

こんな思いをするなら、あんな思いを手に入れなければよかったんだ。


◇◆◇◆


彼女を見た時、既視感に似た何かを感じた。

かつ丼にかぶり付いている彼女に今まで出会ったことはない。

しかし何故か、あれ?っと思う自分が居た。

既視感に近いなにか・・・これはなんだ?


「えっとヒナさん?大丈夫?」


「え!?だ、大丈夫です。話の続きをどうぞ」


気づかないうちに、エルシーとかつ丼を食べる少女の前に座っていた。

俺の第一印象はちいさい子だな。だった。文字通りの意味だ。

俺はこの世界に転移してきて体のサイズも変わってしまった。

今のこの世界での身長は155cmほどだったが目の前の彼女はそれよりも少し低い。

だが、見た目に反して彼女からは何か特別な物を感じた。

これは・・・殺気?


「エルシー、それでこの人はだれなの?」


「こちらはヒナちゃん、私の友人のパートナーで今日冒険者に登録したの」


「へぇ、で?なんでそのヒナさんが私の所に来ているの?」


ああ、これはそういう事か。

そりゃあそうだ、俺は見ず知らずの他人で彼女からすれば異邦人だ。

警戒している、ということなんだろう。


俺自身の身なりもまた変なんだろう。

当たり前のようになってしまっていたが、俺は今所謂巫女服を着ている状態だ。

エレナにも「そういえばあんたのそれ民族衣装?変な恰好ね」なんて言われていたしなぁ

懐かしい気もする。

しかし、これはまぁ勇者だった時も何度も受けた視線だ。


彼女は困惑しているのか、俺という存在を観察しているのか。

しかし・・・やけに慣れている感じだな。

いや、相手にばれているという点ではだめなのだろうけど、自分で言うのは恥ずかしいが俺の場合潜り抜けてきた死線が違う。


彼女のその視線は日ごろから身についていたものなんだろう。

相手に違和感を持ちながら、なおかつ無意識に探るような視線を向けてくる。


◆◇◆◇


【ねぇ日向の世界ってどんなところだったの?】


目を輝かせながら俺に質問をする少女がいた。


【こら、日向に元の世界の話をさせるな。彼は我々が無理やり呼んだ勇者なんだ】

少女をいさめる青年がいた。


彼らはいつも喧嘩ばかりしていた。

でも、時折見せる思い合っている視線を見て素直になれよ、なんて言いたくなってしまう。


アイゼン、ソフィア。結局俺はどちらも救えなかったし、どちらも守れなかった。


あの時の事は今でも忘れてはいない。そしてあの時の事は今もこれからも元の世界でもこの世界でも忘れることはない。


◇◆◇◆


「と、まぁそんなわけで、私からの提案。カレンはこれまで一度も討伐任務はやったことはないし、ヒナちゃんも今さっきギルドに入った新人さん」


「さっき入った!?」


「あ、大丈夫。ヒナちゃんは私の友人のパートナーだから実力はあると思うわ」


「思う!?」


「さて、カレン。先ほどの討伐任務を受理しにいきましょうか」


「まちなさいよ!!さっきから聞いてても不安しか残らないんですが」


確かにその通りだろう。

というか、さっきもおんなじことをエルシーが言っていたのに聞こえてなかったのか・・・かつ丼に夢中だったのか。


「確かに私は討伐任務も初めてだし、パーティーを組んだほうが安全だろうけど、そんな実力も何も分からない人と一緒なんて・・・」


うん、これは彼女のほうが正論だろう。パーティーを組む以上相手の事を知った中ならいざ知らず、誰かも変わらない相手だというのは不安しかない。


「確かにエルシーの事は信用しているし、頼りにしてる。だけど、突然パーティーを組んでくれなんて言われても・・・」


「ああ、ごめん。私が入っていいもんなのか分からないけど、まぁ私の事でもあるし話させてもらうね」


エルシーさんが何故俺にパーティーを組んで貰えないかと頼んできたのか、少し分かってきた。

ただ、俺が彼女に信用が足るかどうか。今重要なのはそれだ。 


「自分で自己紹介していなかったね。私はヒナ、ヒナ=スカーレット。さっき冒険者登録したわ」


「・・・私はカレン、冒険者登録したのはつい最近、あなたと同じね」


「そう、ねぇカレンさん。エルシーさんに言われたからってだけではないけど、一度私とパーティーを組んでみない?」


「私にはパーティを組む意味がない」


「そうかな?私はあると思う」


カレン、彼女の姿勢を見ればわかる。彼女はただの人間ではない。ただし強い人間でもない。

彼女の目は人を殺したことがある目だ。ただ彼女の目に闘志はない。

そんな彼女が初めての討伐任務を受けるという。


生きる為ではあるが、強いわけでもなく、闘志があるわけでもない。

ただ、仕方なく魔獣を殺しに討伐任務を受ける、それは自殺行為に等しい事は俺も知っている。

エルシーが俺に頼んだのは、実力というより別の何かを感じたんだ為なんだろう。


「カレン、人を殺したことがあるだろう」


彼女の目が細く俺を睨んだ。


「それと私とパーティを組むことに何の関係がある?」


「いや、ただ人を殺すことに慣れていない。そしてその事に後悔を抱き続けているという君に人間ではないとはいえ生き物を殺す。そんなことができるか?」


「できるわ」


「いや、出来ない。君は一人で行けば死ぬだろう」


諦めは何事においても抱いてはいけない感情だ。あのエレナでさえあの時その感情を抱いていた。

諦めからくる気持ちは何を持っていたとしても悪い方向にしか行かない。

これは俺の経験談だが、ただ。


目の前で、一度行ってしまえば間違えなく生きて帰ってこない子がいたら。

俺は全力でそれを止めたい。同じ失敗を繰り返さない。


「俺に力がない、俺を信用できない。それはもっともだ。だけど、それでも俺を信用してくれないか」


なんの脈絡もない言葉だ、なんの力もない言葉だ。たぶん彼女には何も届かないと思う。

どうだろうか・・・


「・・・別にあんたは信用できない。けどそうね、エルシーの頼みでもあったしあんたと組んでもいい」


数秒の日、彼女がそういった。


◆◇◆◇


『ああ、ようやくだ。ようやくやったよ日向』


彼はそういって笑顔で俺に言った。

一つ、彼は間違えを犯していたが、最後までそれに気づくことはなかった。


『お前、なんで・・・一体何が』


その時の俺はそんな言葉しか出なかった。目の前の光景が信じられなかったのだ。


『分からない、ただ魔王の副将軍のバレルが来て、それから・・・・それから』


頭を抱えながらアイゼンは静かに立ち上がる


『そうだ、日向。魔王軍の副将を倒せたんだ。ああ、これで我が帝国がまた平和となるだろう』


アイゼンはそいって、立ち上がった瞬間壊れたかのようにその場に崩れ落ちた


『・・・いったい、なんなんだよ。一体何があったんだ!!』


アイゼンは死んでいた、そしてその近くにはアイゼンに殺されたのだろう人物が横たわっていた。


首の骨が折れている、目から血の涙が零れていた。

そこにはつい先日まで一緒にいたソフィアの遺体があったのだ。

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