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第一章 異世界にて【カレン】

『大丈夫かい?俺は・・・だ。君は?」

『・・・だ』

『・・・か、いい名だな。さて俺はこれから別の町へ行かねばならない。君はどうする?』

『・・・私は、私を弟子にしてほしい。あなたの剣技を技を教えてほしい』

『それが・・・君の決断なんだね?いいだろう君に教えてあげよう』


あの日、私は彼を殺そうと考えていた。

家族が死んだ、友人が死んだ、そして私の事を娘だと言ったあの男が死んだ。


すべてあいつに殺された、だから殺す。

また、私はすべてを奪われた。


でも、あいつは強い。今の私が挑んだところで一瞬で殺される。

だからまずあいつを殺すために、あいつからすべてを学ぼう。

あいつを殺すための術を、あいつを超えるための力を、すべて学んでやる


それが私の復讐・・・だった。


◆◇◆◇


「あら?カレン久しぶりね。死んだんじゃないかと思ったわ。心配したのよ」


「ちょっといろいろあってね。ほらこれクリスタの薬草、換金をお願いするわ」


「はいはい。1週間も姿を見せないんだもの。本当に心配したわ」


彼女はほんとに心配そうな表情で私に話をしてくる。彼女と知り合ってまだ日は浅いが、ここまで熱心に私という存在を心配してくれた人は彼以外今までいなかった。

しかし、彼女の心配をよそに、回収してきた薬草をカウンターに置き、近くの椅子に腰を掛けた。


今回の依頼はさほど難しいわけではなかったが、体力面や精神面的に大きな負担がかかった。

クリスタと呼ばれる毒消し薬の原料を取りに行く、これだけでまる二日も森の中をさまよった、魔獣や野生の獣から逃げながらだ。


なんでまた、そんな依頼を一人で受けたのかと後悔もあった。

しかし、私自身それほど会話が得意な人間でもないし、パーティーなどという人の集まりを作る度胸もなかった。


「カレン、お疲れ様。これ10000ギルね」


「え!?」


とっさに彼女のほうに視線を向ける

どういうことだ?つい二日前までこの依頼報酬は50000ギルだったはず!?

なぜ五分の一まで落ちている!?


「ごめんなさいカレン、実はね昨日ギルド本部から通達が来てクリスタの成分に新種の毒素が見つかったんですって。だから取引は中断、今依頼を受けている冒険者には補助金として10000ギルが支払われているの。」


「そ、そんな・・・・」


「本当にごめんなさい、クリスタ事態最近見つかった原料で、まだまだ分かっていないことが多かったみたい。・・・でも、ギルドの医療課が無理いって回収依頼を出したのだけど」


半分エルシーの言葉を聞きながら泣きたくなってきた。あの二日間死に物狂いで探して集めたクリスタが二日程度の食費にしかならないなんて。


「カレン、今日は止まるとこあるの?」


「・・・ない」


野宿か、はたまた朝まで街をふらつくか

しかし、この二日間ろくに寝れないまま過ごしたからそろそろ私の限界だ。


「なら、私のところに来なさい。ほら私ギルド職員だけど家は実家だから。親もいるけど」


「・・・ううん、いい。気遣いありがとうエルシーでも、あなたにそこまで甘えるわけにはいかないわ。何とかしてみる」


心優しい彼女の事だ、本当に善意の気持ちで行っているのだろう。

でも・・・・


「とりあえず、お金が手に入る依頼はないかしら?まだFランクだから、そんなに難しいのは受けられないと思うけれど」


これまでいくつかの依頼はこなしてきたけれど、どれも平均して20000から30000ギル程度の報酬だ。これは宿と食事1日と半日で終わってしまう額だったりする。

この街は冒険者、ダンジョン攻略者が多く集まる街の為宿や飲食店は多くあるが、それの単価はほかのそれと比べて高い。

それだけ高ランクの冒険者がこの街にいるということだ。


私の目的は、とりあえず生活をある程度維持させ他の街に移る事にある。

この世界では、交通網は馬車か徒歩のみだ。しかし、街の外には山賊や魔獣といった危険が常に潜んでいる。

だから、護衛の冒険者や傭兵といった人を雇って移動する場合が殆どだ。


本来なら護衛の依頼を受けて別の街に移ればいいわけだけど、私は護衛なんてことはできない。

だからとりあえず、今の生活水準を上げるため依頼をたくさん受けていたわけで、その中でもクリスタの薬草依頼は私にとってとてもいい依頼だったわけ。


「カレンは労働職希望だったけど、労働職は基本ギルドが出している依頼がメインで、ほとんど依頼料は変わらないわよ」


「・・・じゃあ戦闘依頼は?何か手軽な討伐任務とかない?」


この街の冒険者は主に二種類の方法で生計を立てている者がいる。

一つは討伐任務、街の外に生息している魔獣の類の者を殺し、その一部を持ち帰ることで依頼達成となる

もう一つはダンジョン攻略者と呼ばれるものたちだ。

ダンジョン攻略者のほうが割合的に言えば多い。

しかしダンジョン攻略は一日につき最高で6時間程しか攻略は行えない。

またダンジョンに入ったからと言って目当ての物、場所にたどり着くには何週間の攻略が必要となる。

本当の意味で一攫千金を狙えるのは上位ランクの攻略者だけだろう。


その分戦闘依頼などの討伐任務は一定の魔獣を倒せなどの国からの依頼やギルドからの依頼で、労働職よりも多くの報酬がもらえる。

しかし、魔獣にも生息地帯というものがあるが、低ランクのエリアに高ランクの魔獣が潜んであることもある為、難易度が決まっているダンジョンと違い殉職率が多い。


ちなみにダンジョンが生成されている場所は、街の地下やある特定の遺跡などである。


私が労働職と決めていたのは、ギルドからの依頼は一定数必ずありある程度ランクが抑えられたものが多かったからだ。

クリスタなどの街の外での依頼はまれにあるが、基本労働職は街の中で依頼が多く、例えば資材運搬やペット探し、庭の草むしりなど様々で基本的に一日で終わる仕事が多い。


しかし、クリスタを取りに行く際に通常より多くお金がもらえることもあり、街の外に出る危険も考慮しいろいろと買い物で準備をしてからクリスタの採取に行った。

そのお金を含めて、実際の報酬を引くと完全な赤字となっているわけだ。


簡単に言うと、今日のご飯が何も買えないほどである。


「討伐任務は確かにすぐお金は手に入りやすいけど、それは戦闘が行えることを前提にしているわ。カレンは確かに身のこなしはしっかりしているけど、今のあなたに戦闘が行えるのかといえば、長年ここで職員をやっている私からすれば死ぬかもしれないと思う」


「だけど、今から労働職の仕事をやっても赤字分を埋め合わせできない。生活がかなりきつくなる。わかってたの、そろそろこういう仕事もこなさなきゃやっていけないって」


「・・・ギルド職員としては反対よ。でもそうねカレン、あそこに掲示板があるでしょ?あれが戦闘依頼書よ。どれがいいか見てきなさい」


「大丈夫、冒険者になったんだもの。このくらいこなさなきゃ生き残れないわよ」


軽い戦闘ならば依頼を達成するのは容易だと思う。

殺し合いにおいて、私が殺せなかった相手はいない。


ただ、あの時から一人も殺すことはしていない。


◇◆◇◆


【お前はそれでいいのか?】


あの人はそういったけれど、生きるという中で生物を、物を、人を殺すのは構わないはずだ。

何故なら、人は何かを犠牲にして生きる者だから。


あの人の願いも言葉も、私にはまだよくわかっていない。

しかし、彼の言葉は今でも私の中で私を縛り続けているのかも知れない。


それほど、あの時の出来事は私の中で特別なものとして残っているのだから。


今まで一度も見ることがなかった掲示板の前に立つ。

様々な依頼書がそこには貼ってあったが、私のほかにも何人もの冒険者達も観ていた。

時間的に今依頼を受けに来る冒険者が一番多い、彼らは一枚、一枚と依頼書をもってカウンターへ行く。

また、パーティーを組んでいこうとしているもの達もいた。仲間がいるのだ。


【俺と一緒に行こうぜ】


そんな言葉を昔掛けられたのを今でも覚えている。

彼は私があの人の事を良く思っていないことに気が付いていたんだろう。

でも、結局私は彼の手を取ることはできなかった。だって私にはその資格がないもの。

もう、私は彼にすら歩みよる資格がない。


◆◇◆◇


掲示板の隅にゴブリンの討伐依頼書が目に留まった。

ゴブリンは亜種魔獣であり、難易度はそれほど高くない、また生息地域もこの街からそれほど遠くない。

しかし、難易度は低めの為60000ギルほどしか報酬がもらえない。隅っこで残ってしまったのはこれが原因だろう。

しかし、今からでもお金が欲しい私からしてみれば、この依頼は理想的な内容だった。


私がゴブリンの依頼書をもって、またエルシーの所に行く。


「これをお願いしたいのだけど」


「ゴブリンか・・・悪くはないわね。でもそれならっ」


依頼書と私を交互に見ながらエルシーが何かぶつぶつとしゃべる。


「ねぇ、カレン少し奥の椅子にでも座って待っていてもらえないかしら?」


「え?なんで?」


「私これから知人の子のギルド登録をしなくてはいけないのよ。だから、この依頼はそのあと登録するから少し待っていてもらえないかしら?」


「なら、ほかの所に・・・」


「私のおごりでカツ丼注文しておくわね。さぁ早く早く」


「え、ええ!?」


エルシーの強引な態度に混乱するも、彼女に後押しされてしまった。

彼女の行動がよくわからなかったけど、ここでご飯にあり付けるのはありがたい。

椅子に座りテーブルの肘をついて、とりあえずカツ丼が来るのを待つとしよう。

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