四話
『異世界の力』
光の巨剣が魔物達を薙ぎ払うかと思われた時、魔物側から一つの光が魔物たちを包み込み巨剣をはじき飛ばした。
はじき飛ばされた巨剣は光の粒となって消えていく。
「防御フィールド!?」
完全に決まったと思ったエレナは自身の攻撃が防がれた事に驚き叫ぶ。
俺自身あまり魔法と呼ぶものに詳しいわけではない、しかし魔物は魔法を使わないということは知っている。
つまり魔物以外のものがエレナの攻撃を防いだ、つまり魔族だ。
魔族は属性耐性がないが、知性を持ち魔法を使うことができる種族。しかし魔族じたいそれほどいない。
そもそもこんな処に魔族がいるなんてエレナも思わなかったのではないだろうか。
魔物を囲っていたフィールドが消え魔物たちの動きが止まった。
『破滅の魔法か。なかなかいい物をもっているではないか人間』
洞窟全体に突然声が響き渡る
「魔族か!」
『然り、我は魔王軍序列9位アモン=レイズ』
それは突然魔物たちの上に現れた、黒い翼をもつ人間のような姿の男だった。
魔王軍というのは聞いたことがないが9位ということはある程度の地位のあるものなのだろう。
俺が戦った魔王はそもそも一人で暴走していた野郎だったし、魔族も魔王に協力的だったかといえばそうではない奴らだった。どうやらいろいろと俺の知っている知識とは違うようだ。
「・・・ヒナ、どうやら私たちもう終わりかもね」
「エレナ?」
青い表情を浮かべる彼女は唇と噛みながら下を向いている。
確かに魔族はほかの魔物、魔獣と比べ戦闘力が遥かに上だが、あのエレナの攻撃を見た後の俺としては攻撃こそ防がれたもののエレナがあの魔族より弱いとは言えないと思う。
「大丈夫よエレナ、まだわからないわ」
「いいえ、わかるのよ。ええ、私にはわかる。あいつの異常さが・・・!」
エレナは先ほどまでの彼女の勝気なそれとは違い絶望に近い姿だ。
『我を恐れるか人間、その姿を見るのは気持ちがいいが今はお前たちの相手をする時間はない。役目を終えた故我は去るとしよう。まぁこの数の魔の物を相手に貴様らが勝てるとはおもわないがな』
そう言い残し、魔族アモンはそこから消えていった。
その直後それまで止まっていた魔物、魔獣達が大声をあげて俺たちに襲い掛かってくる。
「おい、エレナ。どうやらやばい奴はいなくなったぞ」
横を向くとエレナはまだ蒼白なままだった。
地面に膝をつきうなだれる彼女。これはまずい非常にまずい。
何故エレナがここまで打ちひしがれているのかわからないが、今の彼女の状態はあれだ。
自分より強い敵が突然現れてもうだめだーー的な感じになっている。まさにそれ
このままほっとけばいずれ「 orz 」な姿勢になるに違いない。
「おいエレナ!!このままじゃやばい。おいってば!」
「・・・じゃない。そんな。私は」
くそっ!だめだ。エレナは今動けない。しかしエレナなしではこの状態はなんともならない。
なら、これしかないか。てかできんのかよ!!
「≪癒しの力≫発動」
俺の中の力が消えていくのを感じ取る、発動した証拠だ。
手を前にかざすと白い光が収束し、俺たちに白い光が降り注いだ。
≪癒しの力≫事態にはHP回復しか効力はない。また俺たちのHPが減っているわけではない。
しかし、状況を変えるために何を行うべきか、それは希望を与えることだ。
希望とはなんでもいい、絶望から立ち直らせるために俺にできる希望を与える。
光という希望、これは賭けだ。エレナが俺の光に気づけるか。はたして・・・
「エレナ・・・」
「・・・・もう、だめね私。さっき会ったばかりのあなたに鼓舞されるなんて」
「いや、私にとってあなたがいなければこの状況を切り抜けられないから。だから・・・」
「ええ、もういいいわ。もうどうにでもなれって感じ。ああ恥ずかしい」
エレナは笑いながら立ち上がる。手に持っていた剣が再び光始めた。
「エレナ大丈夫?」
「ええ、何とかね。でもさっきの攻撃ができるだけの力はもう残ってないのよね。くそっ!出来て一の舞だけか」
エレナは先ほど見せた妃王剣<ヒオウケン>一の舞を再び発動させた。
「魔獣だけならまだ何とかこれだけでなったんだけど、魔物がこんだけ多いとね。対策属性が私にはない。まさに万事休すね。」
「属性・・・か。エレナ一つやってみたいことがある。強力してほしい」
「・・・いいわ、私にはもう手がないしあなたにかけるわよ。珍しい癒しの魔法師さん」
エレナが先ほどまでの蒼白な表情から和らげな表情を俺に向けてきた。
魔法についてはそれほど扱いなれているわけではない。細かい力の使用はあまり得意ではないのだ。
しかし、俺が今からやることは細かい魔法が求められる作業だ。
まだ、先ほど自覚できた力だ。発動するのは初めて、やるのも初めて、でもやらなくてはいけない。
「エレナ、短剣を奴らに飛ばせ!全部だ」
「ええ、なんにでもなれよ。アタック!!」
俺たちの周りに浮かんでいた短剣が彼女の言葉で、魔獣、魔物たちへ向けて反射された。
本来なら属性耐性がある魔物に対して無属性であるあの短剣はあまり効果はない。
しかし・・・・もし別の属性を付与することができる者がいるとすればその無数の短剣は多勢な魔物たちにとって脅威となるだろう。
問題はすべての短剣に力を付与できるのかどうなのかだ。しかし、やるしかない
「≪炎の付与・水の付与・風の付与≫エンチャント!!」
俺の持つMP残量は100、俺のエンチャントがどれぐらいの武器に対して有効なのかもわからない。
しかしもうこれしかないのなら俺は異世界のこの力にかける!!
発動と同時に癒しの力と同様に俺の手から光が収束し弾ける。
弾けた光が粒となりエレナの打ち出した無数の短剣を包み込んだ。
「エンチャント成功!!いっけーーー」
短剣は魔物・魔獣にあたり周りを巻き込み爆発する。
爆発と同時に火と水、風の魔力が爆発する感覚を感じた。これがエレナの短剣に付与したエンチャント効果なのだろう。
数秒後、俺たちの周りから敵は一掃された。