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第一章 異世界にて【再会】


「君は俺と会うべきではないと、そう考えているのかもしれないけど。俺はまた君と会いたいと思ったんだ」


「……」


「だから、少し俺と話をしてくれないか」


 そこに彼がいた。もう会うはずがないと、会いたくないと思っていた彼が。

 私の逝く道は決めたはずなのに、また私の大切だった人が私を止めに入ってくる。

 

「私はあなたと話す事なんて何もない」


「……うん、君はやっぱりあの時のままなんだね」


 彼のあの時という言葉にドキっと心臓が跳ね上がるのが分かる。

 目の前の彼は、あの時のままであの時最後に見せた泣き顔が脳裏に浮かんだ。

 

「なら、なら頼む少し俺に、俺に時間をくれないか。 君に伝えたいことがあるんだ」


 私もあるよ、あなたに、君にたくさん話をしたい。聞きたい。弱音を言ってしまいたい。贖罪を、断罪を何もかもを君に打ち明けたい。だけど、私は君に私の罪を聞いてほしくない。

 君の私に向けるだろう軽蔑の視線が怖いんだ。


「うん、いいよ」


 駄目だよ私、もう君に何も背負わせないって決めたじゃない。もう私の贖罪を清算しようって考えたじゃない。駄目なのに、苦しいのに、なんで私は「うん、いいよ」という言葉を言った時に私の手を摑まえてどこかへ連れて行こうとする彼の手を振りほどけないのだろうか。

 

 ギルド会館からほど近いあまり人が居ない公園のベンチまで連れてこられた。

 それぞれ向かい合うように座ったら彼は緊張した面持ちがしっかりと見て取れた。

 久しぶりに見た彼は、あの時と比べ少し顔つきが引き締まったように感じた。

 肩にある剣や装備を見るに彼も冒険者になったのだろうか?あの後どうしたのだろうか?

 『お前はそれでいいのか?』ズキンとする痛みから咄嗟に胸を押さえる。聞きたいことが沢山溢れてくるのを何とか抑えなければならない。


「……話は何かしら? 私は、私はあなたに何も要はない」


 話を切り出さないこの場に耐え切れなくなったのか、彼女はそう口にしていた。


「うん、そうなんだろうな。 これは俺のわがままで君をここまで振り回している」


「……」


「今は冒険者をしているんだってね」


「ええ、でも何の問題も無いわ。師匠と一緒に旅をしていた時には魔獣との闘いだって何度もやった事あるんだから」


「うん、知っているよ。 だけど、今の君は一人だ、お節介かもしれないけどソロでの戦闘は危険だと思う」


「忠告ありがとう、その変は大丈夫よ。 つい最近パーティーを組んだ子がいるんだから。 それより話って何? 私これからいろいろとやらなきゃいけないんだけど」


「……」


 ただ無言で少女を見つめる少年に苛立ちが募る、何故なの!!という感情が彼女を支配していた。

 できる事なら彼とは出会いたくはなかった、出会ってしまえば少女が決意した贖罪が否定されてしまうかもしれないという気持ちがあったためだ。

 そんな彼に救いを求めている自分に気がついて嫌気が指してしまった。無論彼女自身がだ。


「……なんか言いなさいよ」


 だから、なんでもいい。はやくこの場から、はやく彼の前から姿を消したいのだ。

 だから、なんでもいい。私に何かをいってください。


「……」


「黙っていたら何も分からないわ」


 それは彼女心からの叫びだった。わからないことが多くて知らないことが多かった。

 でも、私は師匠の事を少しでも理解したかったし、彼の事ももっと知りたい。

 それでも、その機会を逃したのは私の行動の結果だったけれど、この沈黙は何よりも辛いものだのだ。

 

「俺も俺が分からない」


「……なら話って何!!」


「俺は俺が分からないけど、一つ君には言わなきゃいけない事があったんだ」


「……何よ」


「君はあの時すべてを失ったと教えてもらった」


 すべてを失った。そう改めて聞いたとき私の中が真っ白になった。


「……別に元から私には何もなかったのよ」


 辛うじて絞り出した言葉、そう元々あの関係は私が壊すはずだった者たちだった。

 元より私には何ももって居なかったのだ。


「ううん、そんな分けないよ。 君は俺にはないものをたくさんもっていたじゃないか」


「それは貴方の幻想よ、空っぽなのよ私。 大事な物を最後まで大事とわかっていなかった、分かろうとしていなかった。 気が付いた時には大事にしていた物はすべて消えているの!!」


「俺は君に生きる力をもらったんだ」


 初めて彼と出会った時の事を思い出す。


「あの村で死ぬ未来が決まっていた俺に明るい光で照らしてくれたのは君だった」


「やめなさいよ」


「自分の置かれている状況に妥協して、すべてを受け入れている俺に未来を考える術を教えてくれたのも君だ」


 それは彼の幻想だ。あの時私がもった感情は哀れみに近い物だったと断言できる。

 それでも彼は私の気持ちなどいざ知らず言葉を続ける。


「だから伝えたいんだ、君に。 俺の言葉がどこまで響くか分からないけど言いたいんだ」


「何よ」


「俺を救ってくれて本当にありがとう」


「……」


「こんな言葉しか言えないけど、何も言わずにあの村を立ち去ってしまってからそれがずっと心残りだったんだ」


「そんなの……そんなの私に言わないでよ!!」


「カレン!?」


 彼から聞いた言葉は何より私にとっての毒だ。

 我慢できずその場を後に走ることしか出来なかったのだ。


 聞いちゃいけない、望んじゃいけない。私にはその資格がない。

 師匠の言葉の意味も、私の生きる意味も、アルトと一緒に居たかったという気持ちも全て私が投げ捨ててしまった。私が手放してしまった事なんだ。

 

 だからお願い、もう私の事は放って置いてください。

 

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