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第一章 異世界にて【贖罪】

 時折、その夢を見る。

 辺りの家は燃え、近所の知り合いは地面に転がり死んで、友達は縄で縛られている。

 遠くで叫び声が聞こえた、近くで子供の泣き声が聞こえる。

 私自身も縄で縛られて地面に転がっている一人だった。


「うん、ならそろそろ夢は終わるのね」


 人生の岐路はいくつかあったけれど、その夢の終わりは私の幸せの終わりだったから。

 多くの命を奪った未来があった、多くの化け物を殺した未来があった。

 だけど、多くの事を教わった未来もあったんだ。


「―――!!」


 声が聞こえてくる、誰かが私を呼ぶ声。

 もう、夢の終わりを迎えるのね。


 トントン、と耳元で音がなっている。

 ボーっとした頭で目を開けると薄暗い部屋だった。

 頭にはやわらかい枕があり、私の上には純白の布団が敷いていある。

 何度か見たことがある光景で、ギルドの休憩所だという事に安堵した。


「気分はいかがかしら?」


「最悪ね」


 などと言いながらも、見知った知人の声を聴いてまた心が落ち着く。

 

 でもそうか、私が今ここに居るって事は………


「私を助けたんだ、あの人」


「それがパーティーってモンでしょう、後でヒナちゃんに礼をいうのね」


「………そうだね」


 何故だか自然とそんな言葉が出た。

 あんなに初対面の彼女に警戒していたのに、今はそれがない。


「初任務失敗で何かが吹っ切れたって気分?」


「そんなんじゃないよ、私は答えを見つけたのかもしれないと思ったんだ」


「答え?」


 こんな気持ちは初めてだった、誰かに師匠の話を聞かせようだなんて。

 でも、それでもエルシーにこの気持ちを知ってほしかったのは事実だった。


「少し長い話になるんだけど、友達として聞いてエルシー」


 自分の話を人に聞いてもらう。

 そんな体験は初めてだったけれど、なるべく分かり易く聞こえるように話をした。

 ただ不思議だったのは、私の話を涙ぐんでくれるエルシーがなぜ他人の言葉に涙を流しているのか。

 私には何も分からなかった。



「………そう、カレン」


「何?」


「私には何も言えない、カレンの出した結論にもその結果にも。だけど、あなたの師匠の願ったものはそこじゃないと、私は思ったわ」


「………うん、ありがとう」


 エルシーはどこか悲しそうな表情を浮かべたが、カレンはそれに目を瞑る。

 彼女がいくらそれが違うと異を唱えてもカレンはその言葉に耳を傾ける事はないだろう。

 だからこそ、拒絶の意味を込めてカレンは感謝の言葉を出したのだ。


「私、行くね」


 死ぬために行くわけではない、これは私が前に進むために。

 ———などと言えば聞こえは言いけれど、まぁ私は死ぬ事になるだろう。

 エルシーは私の行動を止めることはなかった。彼女もまた私の行動を意見する事に意味は無いと察してくれたんだろう。

 師匠、私はまだあなたの言葉の意味が何だったのか分かっていない。だけど、それでも私は答えが見つかったと思う。

 これは、私の贖罪だ。



 ———これは私が10歳の誕生日の時

 町はずれの小さな村の集落で私は家族と暮らしていました。両親がいて、兄がいて、妹がいて、友人が沢山いました。

 しかし、その日盗賊の一団が私の住む村に襲撃をしてきました。

 両親も兄も妹も私の目の前で死にました。

 抵抗を試みましたが、私は縄で縛られて、何人かの子供と共に盗賊のアジトに連れていかれました。

 

 そのアジトで、私は盗賊のスキルを学びました。彼らの目的は人材資源の確保と食料の供給でした。

 抵抗しようとした子供がいたけれど、逃げようとした子供もいたけれど、私は本能からそのすべてを諦めました。

 そうして両親が殺した人達の下で私は盗賊の暗殺術を学びました。

 簡単な話です。私の幸せを奪ったあいつらを殺すためです。

 

 彼らの信を得るために行動をしました。

 彼らの期待を抱かせるように仕事をしました。

 結果、3年で私は盗賊団の団長の一角を担うまでになりました


 何もかも計画がうまくいって、盗賊の頭領は私の事を娘のように接するまでに中を深めていました。

 ああ、あとはあの頭領を殺すだけだ。

 でも不思議な事に頭領暗殺日に、私はその時間も手段もあったのに、彼を殺すことが出来なかった。

 馬鹿げたことだと思うかもしれませんが、両親を殺された憎しみと同じくらいの親愛を彼らに抱いている私がいる事に気が付きました。


 ———けれど、私の復讐は別の形をもって成されました。

 

 あの人は騎士でした。一つの剣をもって次々と盗賊団のメンバーを殺していきました。

 正義の騎士が悪しき悪を叩く、それは必然の行為で、そして私もまたそんな正義の騎士の抹殺の対象となっていたと思います。

 だから、騎士を殺すために短剣を取ろうとしたら、頭領は何を考えたのか私を地下牢まで連れていき、扉を閉めて閉じ込めたのです。

 今でもなんで、あの男がそんな行動をとったのか分かりません。

 

 だけど

 

 「すまなかったな」と最後に言い残した彼の背中を今でも覚えています。

 いくつもの叫び声が聞こえました、いくつもの怒鳴り声が絶叫が聞こえました。

 

 数時間後、地下牢に姿を現したのは、私を閉じ込めた頭領ではなく騎士のあの人だった。

 「大丈夫かい? 俺は騎士だ。君は?」

 「カレンだ」

 あの人は私が盗賊団にとらえられた村人だと思っているようだった。

 あの人の体には返り血が沢山ついていて、血の色がない箇所を探す方が難しいほどだった。

 その姿を見て、盗賊団は全滅したのだと悟った私はとっさにあの人に言う。

 「私を弟子にしてほしい。 あなたの剣技を教えてほしい」


 焦燥感が沸き上がる、憎しみが沸き上がる、悲しみが沸き上がる。

 悟った私に残されたのは、あの人への殺意だった。

 どんなに非道でも、どんなに憎しみを抱いていた相手だろうとも、ともに過ごした3年の月日で私は盗賊団の連中を家族として、友人として認識していたのだ。

 

 だから次の復讐の相手は、そんな私の幸せを奪った師匠に向けられたのだ。


 あなたも、盗賊団の人たちを殺そうとしていたんでしょう? ですか。

 ええ、でも私が殺すのと、別の他人が殺すのでは違うでしょ?

 

 ともあれ、私の復讐は師匠に移った。

 彼とは2年間、たくさんの場所を旅をして、その道中で剣技を学んだ。


 ダンジョンでの戦い方を教えてもらった。

 魔獣との闘い方を教えてもらった。

 食事の作り方を教えてもらった。

 数の数え方を教えてもらった。

 お金の使い方を教えてもらった。

 

 師匠と過ごした時は、盗賊団時代では学べなかったものを知った。

 過ごす中で私の中で、私の中での師匠の立ち位置というのが変化していったのは当然の事だった。

 復讐をしようと近づいても、その人をしってしまうと情が移ってしまう。

 

 優柔不断な性格? またそれとも違うかな?

 うん、そうね。

 私には大切な存在って物が沢山出来て、相手をすんなり受け入れてしまうのかもしれない 

 

 そんな師匠との旅路の終着はボレナという小さな町に滞在したときに終わった。

 うん、今から半年前ね。

 その場所で、私は師匠に盗賊団のメンバーであった事を知られてしまった。

 師匠は旅人だったけど、同時に騎士だった。彼にとって盗賊団とは滅ぼす対象だ。

 私にとって師匠とは文字通り、私に学ぶ事とは何かを教えてくれた恩人だ。


 「ごめんな、俺は騎士だ。 悪いが君を見過ごすことは出来ない」


 ………なんて言って私を殺す決意をしていたハズなのに、あの人は最後、私を殺すことはしなかった。

 

 師匠、私には貴女が言った最後の言葉の意味が分からない。その言葉は一体どのような意味があったんでしょうか?分からない、わかりたかったけど、分からなかった。でも、これだけは実感した。

 殺したくて師匠を殺したわけじゃなかった、ただ生きる為に殺した。

 生きたくて恩人だった人を殺した私自身を、私はどうしても許すことはできないのだから。


 だから、私に救いはいらない。

 私は幸せにはなるべきではない。

 

 こんな、醜い心を持った私の最後は、あの時思った通り戦って死ぬ事だけだろう。


 ガチャンと、古びたギルドの休憩室のドアを閉める。

 ギルドホールから窓の外を見ると時刻は昼間になろうとしている頃のようで人はほとんど居なく閑散としていた。

 何をしようか、それはもう定まっている。あの討伐任務をまた受けるのだ。

 逃げる事はしない、負けることは許されない。

 答えは得た、もう生きる為に生きるのは止めよう。それが私の贖罪だ。

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