第一章 異世界にて【乱入者】
「と、言うことがあっていったん帰還したわけ」
「そう、では今受けている討伐任務は棄権ということでよろしいですか?」
「いや、いったん保留ということでいいか?」
「それは構いませんが、話を聞く限り私はカレンでは討伐任務自体行うのは困難だと判断しますが」
「そうでしょうね。でもエルシーさんが一番よくご存じではないでしょうか?たぶん彼女はまた討伐任務を受けようとしますよ」
「・・・」
「なら、私ができることは彼女の恐怖を克服させられるようサポートをすることだと思いますが」
「それはそうね。でも、あなたはなんでそこまでしてくれるのかしら?いくら私が頼んだからと言ってそこまでカレンに付き合う義理はないんじゃない?」
「そうですね、しかし俺と彼女はもう他人ではないんです。他人ではない人を見捨てる、そんなこと俺にはできませんよ」
「お人よしなんだ」
少し以外そうなエルシーさん
客観的に見れば俺は今「お人よし」と呼ばれる部類の人間に見えるのだろうか?
ん~見えるんだろうなぁ
「討伐任務は1か月の長い期間があるので無理しないようしてくださいね」
「わかりました、あと申し訳ないですけど・・・」
「はい?」
ここまで帰って来るまで約4時間、そろそろカレンを背負い続けるのは無理があったりする。
エルシーさんも察したようでギルドの職員用の部屋に案内された。
中はベットとタンス、ソファなどが置かれたちょっとした休憩室になっていた。
「じゃあ、カレンはここに寝かせておいて。彼女が起きたら私からいろいろと説明はしておきますね」
「お願いします」
外はもう暗くなり始め、日は沈もうとしていた。
俺も疲れたのでいったん家に帰りたかった。
彼女はたぶん俺とパーティーの解散を望むかもしれないが、とりあえずエルシーさんにその辺は任せてすべては明日だ。
カレンとのパーティーは解散しないし、今後彼女ともう少しかかわっていこうと決めた。
ギルドを出る。
季節は夏だが、日差しがない分涼しい風が俺の体に当たる。
これからの事を考えると気持ちは下り坂、それでもまずは前に前に進まなければいけない。
十字路をさしかかった所で近くから男たちの怒鳴り声が聞こえてきた。
あたりを見回すと右の酒場の前で数人の男が言い合っているのが見えた。
「またかぁ」と思いながら少しずつ彼らに近づく。
冒険者の街、そう言われるくらいこの街には冒険者が多くいる。
つまり血の気が多い漢が多いという事だ。周りの住人もまたかという風に視線を向けながら通り過ぎていく。
ただ、この場合治安隊の人を呼べばいいだけなのだが、それまでに喧嘩がひどくなれば、最悪ただの喧嘩とだけではならない。
目の前の漢たちは口調あらくなり始め腰につけていた武器を取り出そうかとしていた。
「あ~お兄さんたち。ちょっといいかな?」
「「「ああん???」」」
漢たちは三人そろって武器を俺に向け青筋を立てた表情を向けてきた。
仲良しかよ、などと突っ込むのは野暮なんだろうが、まさしくこの状況はお約束。
「ええっと、お兄さん達。口喧嘩なら構わないけど武器を使うのは止めなよ」
「ガキは引っ込んでろよっと言いたい処だが」
「俺たちの喧嘩に入ってくるとは」
「いい度胸じゃねえか」
流れるようにそれまで喧嘩していた男たちがセリフのように言葉を合わせ、逆に俺のほうに武器を向けてきた。
俺と彼らを見てアッという間に周りには人だかり、もとい野次馬がうろついている。
出来れば、治安隊の方にはぜひともすぐ来てもらいたいものだ。
日本ならば通報から数分もしないうちにくるというのに・・・
「あ~で、お兄さん達。私は別にお兄さん達と喧嘩がしたいのではないので、詰め寄ってこられても困るっていうか」
「てめえから誘ってきたんじゃねえか」
「そうだそうだ」
「そうだそうだ」
おめえらなんでそんなに息ぴったりなの!何?さっきの喧嘩はなんかの漫才だったの?
さあこの場合、俺の取るべき行動は以下の三つに分かれる
三人と、戦う・大声を上げる・逃げるだ。
「ちょっといいか?」
「「「ああん?」」」
しかし、この場合訪れるべき第三の登場人物が現れるのが筋だろう。
しかしそれは物語の中で起こりうる必然であり、今はその時ではなかった。
だからこそ、彼が現れるというのは、運がいいの一言に尽きる。
「彼女、怖がってるみたいじゃないか。それにほら、冷静になってみてくれ。彼女は一触即発だった君たちをいさめてくれたんだ。感謝されこそ恨まれるのは筋違いじゃないか?」
突然現れた私の救世主は、実に的確に男たちの矛盾を指摘する。
しかし、時にその矛盾の指摘は別の角度から帰ってくることがある。そう例えば・・・
「「「てめぇも俺らに喧嘩売ろうってか?」」」
と、まぁいわゆる指摘からの逆上。こればかりは彼も驚いた表情を浮かべ困ったように頭をかいた。
彼を見た時の直な感想とすれば、ああイケメンだなと。たぶん彼みたいな人が今この場でふさわしい救世主なんだろうな。
「これは予想外だな」
しかし困った表情を浮かべる彼には少しも焦りの表情はない。
落ち着いたその表情は余裕の表れか、それとも・・・
などと考えている俺の手を彼は取った
「え?」
「さぁ走った走った」
少しおどけたように言いながら、走りだす。
それを見ていた男たちは、あっさりと逃げ出した彼に呆然としたのち表情を怒りに変えて追いかける。
たん、たん、たん。
リズムよく走る彼の動きには無駄が一切なかった。それは以前の勇者の俺であっても見ほれるくらいきれいな足取りだった。
遠くで「「「まてぇ卑怯者め!!!」」」などという声が響き渡る。
卑怯者か、言い当て妙だなと彼は笑う。
何故かその笑いを乾いた諦めの声だなと俺は思った。
走る事10分で例の3人組を巻くことに成功した俺と名もしらぬ彼
たった数十分前にあっただけなのに、走るのを止めた瞬間彼と見つめ合い二人で一斉に笑った。
その笑いは何だったのか分からないが、たぶんいたずらに成功した気持ちだったんだろう。
この世界で初めて本当に笑ったのは初めてだ、と思う。
「助けてくれてありがとう。君のおかげで何とか窮地を脱した。私はヒナタ君は?」
「俺はアルト、最近この街に来たばかりの君と同じ冒険者だよ。よろしく」
アルトという彼は笑顔で握手を求めた。ああ、と俺も同意の手を差し伸べた。
「しかし、危ないことをするな。あの酔っ払い3人相手に突っかかっていったら危ないことに会うなんてわかるだろうに」
「ああ、でも私が止めないと彼らはたぶん殺し合いをしていただろうから」
「・・・・・その為らな自分が危険にさらされようとかまわないと?確かに君の介入で彼らは敵を君だけにした。しかしそれは同時に3:1というヒナさんにとって不利な状況を作り出すことに他ならない。それは無謀なことだよ」
彼の言葉は正論だった、確かにあの時私が声を掛けなければ彼らは殺し合いをしていた。
しかし、それに水を差すということは自分に火の粉が降りかかるのと変わりない行為だった。
「人が人を案じるのは素晴らしいことだが、そこに自分を守るということを忘れちゃいけない。ああ、なんか説教みたいになっているけど、これは俺が言えた話ではなかったな」
なんで?と不思議に思って聞き返すと彼は照れた表情で「だって、俺もヒナさんの姿を見て君を助けようと思ったからさ」と性格までイケメンばりなことを言ってきたのだ。
少しばかりあっけにとられたが、不意に似た者同士なのかもなと思い笑いが出てしまう。
そのな私を見つめていたアルト君は「さぁ、では家まで送りましょうか」と言ってきたのを丁重にお断りする。
「さすがにアルト君をこれ以上突き合わせるのは良くない。今回はほんとに感謝してる。ありがとう」
「ああ、君も行動には十分気を付けてくれ」
そういい残しアルト君は去っていった。
ああ、あれがほんとのカッコいい漢なんだなぁとなぜか見惚れる俺であった。