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ゴールが見えてきた、そういう時こそ油断禁物です。

最近成田さんと仲井さんのせいで雪野さんの目が怖いことが悩みの種だったんですが、ついにやってきました直接対決。


「山田さん、よかったら相談に乗ってもらえませんか?」


よくないです。そう言えたらどんなにいいか。

ミッション完了まで残すところ2週間。無事にやり遂げる為にもこの壁は乗り越えなきゃいけない壁だろう。中ボスくらい軽く倒せなければラスボスなんて夢のまた夢。


目の前で私の返事を待つ雪野さんの瞳がうるうると揺れている。溢れそうで溢れない、それがミソですね。


「……私でよければ」

「山田さんがいいんです! よかった、じゃあ仕事が終わったら前に行った居酒屋に行きましょう」

「はい……」


気分はドナドナ。時間よ、過ぎないでくれ、なんて思う時ほど時間が経つのは早い。


あっという間に定時になり、私は笑顔の雪野さんに引き摺られるようにして歓迎会の時と同じ居酒屋にやってきました。

もう二度とこの居酒屋には来ないと心に決めたのは言うまでもない。


「あのですね」


食べ物がある程度出揃ったところで雪野さんは話を切り出した。


「実は私が悩んでいるのは、部署の男性陣のことなんですけど……」

「はい」


そうでしょうね。それ以外を私に言ってもどうしようもないだろうし。


「私、入社してすぐ、彼たちと初めて顔を合わせた時に何だかスゴく懐かしいような感じがしたんです。だけど、別にそのことを特に伝えたりはしてません。そんなこと話す程のことじゃないですし。でも、いつくらいだろう……そうですね、山田さんが来てくれるちょっと前くらいに夢を見たんです。その夢に成田くんに似た人が出てきたんで、だから雑談のついでにその話をしたら、それから何となくみんなの反応が変わってしまった気がして」


つらつらと話を聞いていたけど、それってもしかしてもしかするのか。


「ちなみに、夢の中の成田さんに似た人はどんな感じだったんですか?」

「何でかは分からないんですけど、金髪に青い瞳でまるで王子様みたいでしたよ」


あー、成る程ですね。つまり彼らは雪野さんをミリファと思っているってことかな。

まあ分からなくもない。自分で言うのもなんだけど、ミリファは雪野さんに似た部分も多かった気がする。明るく素直で笑顔が評判の看板娘。彼女が前世の夢を見たなんて言えばそう思うのも仕方ない。


「皆さんの反応はどんな風に変わったんですか?」

「あ、えっと……」


パッと頬を染めるのが愛らしい。

ここには私しかいないからそこまでしなくていいんじゃ? いや、普段からやっておかないとここぞという時に使えないのか。


「まあ、気にしすぎなのかもですけど、過保護になったというか、なんか独占したいっていうか……そんな雰囲気を感じるんです」


恥ずかしがりながらもその目に優越感の光が点ったのは見逃しません。女同士はこういう感情の動きに敏感なんもんです。


ふむ、私への自慢、というよりは牽制かな。

不本意ながら最近本当に成田さんと仲井さんとの距離が妙に近くなった気がするし。


「それは雪野さんはとても可愛いし、仕方ないんじゃないですか? 夢のせい、というよりは気持ちを隠せなくなったとかじゃ」

「そんなことはないと思いますけど……じゃあ、気にすることないと思いますか?」

「そうですね、まあ雪野さんに他に好きな方がいて困ってるのならまた話は別だと思いますが」

「いえ! 今は好きな人はいないので。とりあえず、あまり気にしないようにしてみます」

「そうですね、それがいいと思います」


どうやら気持ち良く話を終わらせられそうだ。こういう時にはさりげなく褒めるのが一番、特に褒めてほしいだろうことをピンポイントに突くと効果覿面です。


「なんか、スッキリしたらお腹空いてきちゃいました」

「じゃあ、パッと食べて帰りましょうか」

「ですね!」


それから私と雪野さんは大した話をすることなく、30分くらいで別れた。


本当なら女同士で飲むのは楽しいはずなのに、こんなに気を遣う飲みがあるとは。

帰宅の途に就きながら、ストレスから解放された安堵感に深く息を吐き出す。


それにしても、雪野さんの夢の話は本当なのか。本当だとしたら彼女は誰だったのか。


「……まあ、どうでもいいか」


それが本音です。



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