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遠い記憶の中の受け売りだけど、前世で近しい存在だった人とは今生でも近い存在として生まれ変わるらしい。


あの王子と近しい存在だったとは言えなくても、彼のせいで色々思いを残したことは事実。だから、私は魂レベルで感じたあの複雑な感情を信じることにしました。


成田宰はロード王子だ。そして、私が怪我した時に傍にいた男二人が今屋と仲井だと思う。

雪野さんはちょっと分からないけど、あの三人はほぼ私の中で確定です。


「さっと説明させてもらいましたけど大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」


雪野さんに社内を案内してもらいながら実は上の空でした。もちろん頷いておきますが。

一先ず自分が働く場所とトイレが分かっていれば支障ないし大丈夫だろう。


「もし分からなくなったら遠慮なく聞いて下さいね」


ニコッと微笑む姿は完璧。雪野さんの可憐な笑顔に周辺の男性陣が見惚れている。

このコは自分をより良く見せる術を分かっているな、と感心した。


「ありがとうございます」

「そんな畏まらないで下さい。3ヶ月だけだけど、私、女性が来てくれて嬉しいんです。山田さん、よかったら仲良くして下さいね」


ちょっとはにかむようにして笑うのがまた可愛い。自分の本音とは違う表情をここまで完璧にできるなんて凄いと思う。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


多分仲良くはできないだろうけど、上辺だけでも良い関係にしておきたい。

意識して口角を上げながら、私はまた軽く頭を下げた。


疎まれていること前提で、雪野さんと良い関係を築く為に必要なことは一つだけ。

あの元王子とその部下1と2に必要以上に近付かないこと、だろう。


頼まれても近付きません、と声を荒げたいところですが、同じ部署で働いている時点でいつどこでどんな風に要らない接触をしてしまうか分からない。話すことは必要最低限、仕事のことのみ。そう心に決めたのに、なぜこんなことになったんだろうか。


「山田さん、下の名前はミサトと呼ぶんですか?」


お洒落な居酒屋で斜め向かいに座る成田さんが綺麗な笑顔を浮かべて聞いてくる。


なぜ、私の名前に興味があるのか教えてください。ほら部下1は雪野さんに夢中だし、部下2は食べ物にしか興味がないようですよ。そして、雪野さん睨まないでください。


なぜ私がこんな目に遭っているかというと、社会人の宿命である歓迎会を拒めなかったからです。

お酒は飲めないんで気持ちだけで結構です、と言ったのに、王子様は笑顔で絶対に譲ってくれなかった。


「明日休みだし、もう予約したから一緒に行ってもらえませんか? 山田さんがどうしても行きたくないなら仕方ありませんが……」


あんな悲しそうな顔で見つめられたら自分が大罪人になったような気がする。顔が良いって本当に得だなって思った瞬間だった。

もちろん断りきれずに部署のメンバーでご飯を食べに来たはいいけど、これなら大罪人になった方がマシだったかもしれない。


「山田さん?」


小首を傾げる仕草も絵になるな、ではなく、そうだ質問されていたんだった。


「あ、すみません。名前ですよね、ミサトではなくミリと呼ぶんです」


嘘を吐いてもよかったけど、バレた時が面倒くさいので正直に答えておく。だけど、本当は教えなくていいのなら教えたくなかった。


「そう、なんですね。ミリさんって言うんですか」


一瞬成田さんの目がギラッと輝いた気がしたのは気のせいだろうか?

部下1がこちらに鋭い視線を送っているのと、部下2が食べ続けながらも私に目を向けたのは間違いないけど。


私の前世であるあの少女の名前はミリファ。愛称はミリだったのだ。何の因果か、またその名前になるなんて不思議なもんです。


という訳で、成田さんらに何かしらの記憶があるのなら絶対に私の名前に反応するだろう、と思っていたのだ。


「あの、私の名前が何か?」


少しだけ困ったようにして部下1と2に目をやれば、私の視線に気付いた成田さんは隣の部下1の頭を叩いた。


「女性を睨むな」

「……悪い」


チャラい部下1は即座に謝る。根は素直なようで一安心。3ヶ月間も睨まれ続けるようじゃ仕事に支障をきたしますからね。


「ごめんね、山田さん。ちょっと嫌なこと思い出しちゃってさー」

「いいえ、こちらこそ嫌な思いをさせてすみません」


そうか、そんなに嫌な思い出か。こっちの台詞ですよね、と心の中だけで呟いておく。


「山田さんが謝る必要はないだろう」


おお、渋い声。もしかして初めて部下2に話し掛けられたかもしれない。

食べる手は休めずにだけど、一応気遣ってもらえたようなので頭を下げておいた。


「仲井の言う通りだよ。山田さん、今屋がすみません」

「いえいえ、そんな。そこまで謝っていただくようなことじゃ……」

「そうだ、仲直りを兼ねてミリさんって呼んでいいですか?」


なぜそうなる。多分成田さん以外の全員がそう思ったと思う。


まさか気付かれたのか、と一瞬ひやりとしたけどそんな風でもない。まあ気付かれることはないだろうけどね。

あの頃の私とは、今はもう何もかも違うんだから。


「あの、申し訳ないんですが、下の名前で呼ばれるのは苦手なもので」

「成田くん、女性に無理強いは良くないわ。山田さん、こんな男性陣は放っておいて私と話しましょ!」


ね? と笑う雪野さんの可愛いこと。部下1の目がハート型になっている。


「私、山田さんの隣に行こうっと。ちょっと今屋くん、退いてくれる?」


隣に来ると言ったのは雪野さん自身なんだから、部下1、舌の根乾かないうちに睨まないでもらえますか?



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