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やってきました。多分警備会社だと思われる場所へ。
なぜ多分なのかと言うと、ここが高級マンションの一室だからです。でもって、向かいののソファーに座っているのがここ最近顔見知りの大男だからなのです。
「……いきなり、どうされたんでしょうか?」
あ、敬語。私には使わなくなったくせに、ちょっとアズサさんが可愛いからって。顔だけでなく、本能まで抑えきれなくなったか。獣だけに。
お茶を出してくれた先程の青年に微笑んだ後、アズサさんは大男に目を向けて小首を傾げてみせた。
「改めてそちらの仕事内容を確認させてもらおうかと思って」
「……何か問題がありましたでしょうか?」
「あら、問題がないとでも?」
美人のにっこり笑顔に、言葉を詰まらせる大男。何とも珍しい構図である。
「とりあえず、あなたたちに指示されている仕事内容を教えてください」
ちらりと一瞬私の方を見て、大男は諦めたように小さく溜息を吐いた。
「……山田美里に害をなすすべてのものから、彼女を守るように、と」
「え……、」
思わず言葉が出てしまった。すべてのもの、ってそんな大袈裟な。
「それにしては、あなたの保護対象者に対する態度はいかがなものかと思いますけど」
「そ、それは……、申し訳ありません。以後、気をつけます」
「言い訳しないのは評価できますが、今聞きたいのはプロであるあなたがなぜ彼女にあんな対応をしたか、ということです」
嫌な対応はお互い様なので特に気にしたことはないけど、そう言われればあんなにあからさまな対応はおかしいのかもしれない。
それにしても、アズサさんは何がしたいんだろう。大男を叱ってくれる為にここに来たんだろうか。
大男の何か逡巡しているような様を見つつそんなことを考えていたら、とうとう何かを決意したようにこちらを見てきた。
「山田さん、私的な感情であなたへの対応を誤り本当に申し訳ありませんでした。あいつが、宰が個人的な依頼をしてきたことなんて今回が初めてで。もちろん仕事に手を抜くような奴じゃないから、空いている時間全部、それこそ寝る間を惜しんで、あいつはあなたが普通の生活が出来るように手を尽くしています」
一言一言、私に伝わるようにと話してくれているのが分かる。そうか、この人成田さんと仲が良いんだ。それだったらあの態度も理解できる気がした。
「あいつの一方通行なのは分かっている。これが八当たりなのも。でも、せめて見込みがあるならもう少し優しくしてやれないかと、宰ばかりが必死で可哀想で」
父親か。心でそっと突っ込んでおく。
「うん、聞かせたかったのはその部分じゃないんだけど、まあいいか。とりあえず、これで2人は仲直りってことでいいわよね? 大滝さんもこれ以上成田くんに嫌われたくないでしょう?」
「それは、もちろんだ!」
こんな人だったんですね……大滝さん(名前初めて知りました)、なんか一気に親しみが湧きました。
「山田さん、最近宰は疲れが溜まっているようなんです。あなたのことを悪く言われたくないと、仕事は結果を出し続けているし、関係各社の女性陣には悪感情持たれることなくお断りする技術を身に付ける為に日夜努力続けているし、あなたの周辺には自分以上に気をつけているし、でもそれでも幸せそうなんですよ。あなたには関係ないことかもしれませんが、どうか少しでもいいんです。あいつに構ってやってもらえませんか?」
なんか、こんなことをばらされてしまう成田さんが可哀想なんですけど……
ちらりと隣のアズサさんを見ると、なぜか満足そうに頷いている。
「愛されてるね、そう思わない? ミリー」
「そう……、ですね」
少し痩せたようにも見えた成田さんを思い出す。愛されてる、というよりも、なんかバカだなぁ、と思ってしまう私は、大滝さんに嫌われて当然だろう。
でも、そんな成田さんを嫌だなとは思わない。ともすれば、……可愛いな、と思わないこともない。
「まあ、掴みはオッケーかな。よし、じゃあ今後も彼女のことよろしく頼みますね」
「もちろんです!」
90度に頭を下げた大滝さんに見送られて、私たちは次の目的地へ向かうことになった。




