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友達からお願いします

成田さん視点です。

後半は本編直後の話になります。


血族同士で王位を巡り命を狙い合うことも、勝手に名乗りを上げて醜い争いを繰り広げる婚約者たちにも、それらの問題に向かい合うことさえ嫌になることがある。

逃げる訳にはいかないことはよく分かっている。だから、気持ちを抑えきれなくなりそうになった時には、身分を隠して町に行き気を紛らわせていた。


いつもは賑わう町並みを歩きつつ行き交う人々を眺めるのだが、あの日は何となくいつもは行かない場所へ行ってみたくなった。


賑やかな大通りから奥まった場所へと進み、見つけた一軒の食堂。

ぽつんと建つ年季の入ったその店に、私は何かに惹かれるようにして手を伸ばしたのだ。


それがミリファと私の出会い。

振り向いた彼女を見た瞬間に、もう私は恋に落ちていたのかもしれない。


漆黒の髪をきちんと結い上げ、髪と同じ黒い瞳を真ん丸に見開く少女。でも、すぐに「いらっしゃいませ」と少し照れたように笑った姿が堪らなく可愛かった。


一生懸命に働く姿、どんな時も笑顔を忘れない健気さ。

そして、私を見て嬉しそうに頬を染める愛らしさ。


何をしてもミリファを私のものにする。そう決めると共に面倒な婚約者たちも同時に片付けることにした。


あえてミリファの存在を隠さずに何度も食堂を訪れる。

悋気の強い伯爵令嬢とプライドの高い隣国の姫。どちらかが罠に食い付けばそれで良し、どちらも掛からないようならそれもまた良し。そのままミリファを私のものにしてしまえばいい。


何にしても正妃にはどちらかを据えなければならない。面倒ではあるが私の愛はすべてミリファに。

そう思えば、他のことはどうとでもなるような気がした。










「ミリファが怪我を!?」


受けた報告に胸が痛い程に音を立てた。


「申し訳ありませんっ!」

「まさか直接何かを仕掛けてくるとは思わずに……」


ミリファを守らせていた部下たちが、唇を噛み締めて項垂れている。


私の宝に傷をつけるなど……燃え上がりそうになった怒りを何とか抑え込み、まずは罠に掛かった獲物の処理をすることに意識を向けた。


「……傷は完璧に治せ。それと彼女の守りを厚くしろ」

「「はっ!」」


私は愚かだった。

報告を受けて怒りを覚える暇があったのなら、彼女の無事をこの目で確認するべきだったんだ。


事後処理を終えている間に、私は唯一の宝を永遠に失うことになる。


私を王位にと望む者たちの手によって、今回の企みに大きく関わり、何より私の寵愛を受ける邪魔な彼女を私の手が届かない場所へと連れ去ってしまった。


ミリファ、私の愛しい人。

ついに告げることができなかった。謝ることもできなかった。


私はこの苦しみを胸に抱いて生きていこう。いつかこの命が尽きて、再び君に会うことができたなら。もしそんな日がきたならその時は……










幸か不幸か、物心ついた時からオレには前世の記憶があった。

頻繁に見る夢がただの夢じゃないことはある程度の時点で分かっていた。


だってオレはいつも誰かを探していたから。誰と過ごして誰と肌を重ねても満たされない想い。オレはあの笑顔を、あの優しさを、ミリファだけを欲していた。


望めばほとんどのものを手にすることができる立場ながら、空虚な日々を過ごしていたある日のことだった。


グループ会社から応援に来てくれた女性を見た瞬間、生まれて初めてと言っていい不思議な感覚に包まれた。


どんな? と聞かれても説明しがたい気持ち。懐かしいような、胸が苦しくなるような。ただ言えるのはもっと彼女を知りたい、それだけだった。


「はじめまして、山田さん。3ヶ月間よろしくお願いします」


女受けが良いと言われる笑顔を浮かべて挨拶をすると、一瞬彼女の顔が強張った気がした。


「……短い期間ですが、よろしくお願いします」


すぐに頭を下げて挨拶をし返してくれたので、それを確かめることはできなかったけど。何となく良い印象を与えられなかったのは分かる。


至って普通の女性。自然な黒髪に標準的な身長、少し痩せている感と色白な印象はあるけど、取り立てて美人な訳でもなく。唯一と言っていい特長は分厚い眼鏡。


だけど、気になる。もっと彼女と話してみたい。今屋が話し掛けると何だか腹が立つ。

女にそんな気持ちを抱くのは初めてかもしれない。そう、あの夢の中で出会う彼女以外では。


彼女がミリファでも、そうじゃなくても、オレは彼女が欲しい。山田美里さんが欲しい。

オレの中でその気持ちが固まったのは、彼女と知り合って割と早い段階でのことだった。










「ミリ、とりあえず婚約しましょう」


紆余曲折を経て、オレは今度こそ彼女の手を取る。

会えない間に彼女を迎える準備も整えたし、周りへの手回しも今度は完璧に行った。


胸を張って迎えにきたはずなのに……


「私、少し血迷っていた気がします」


こうやって会うのは2年振りだけど彼女は彼女のままだった。


彼女の部屋に勝手に訪れたオレを最初は驚きながら出迎えてくれたけど、すぐに冷静なミリに戻ってしまう。


「血迷う?」

「はい、ミリファの気持ちに大分ほだされていたと言いますか。私はまだ成田さんのことよく知りませんし、藤堂家に入る覚悟もないんですよ」

「え、でも、オレの本気を示せばって……」

「まあ、あの日はお酒や薬に酔ってましたからね」


ニコッと笑うミリはスゴく可愛い。

2年間こっそりと彼女のことを守らせて陰ながら見守っていたけど、やっぱり目の前で見る彼女は格別だ。


でも、彼女の言葉は少しも笑えない。こんなに可愛いのに何でなんだ……


「オレはあなたじゃないとダメなんです!」

「あなたもロード様の気持ちに流されてるんじゃないですか?」


真っ直ぐこちらを見つめる黒目がちな小さな瞳。眼鏡をしていたってミリの可愛さは変わらない。


この気持ちはオレのものだ。そう自信を持って言えるのに、この答えに間違うと確実に彼女が離れていく気がして声が震える。


「……あなたを愛しく思うこの気持ちはオレのものです。もしロードに流されていたとしても、今はオレだけのものだ。あの日あなたを守れなかったことも、あの日バカなことをしてあなたを無理矢理手に入れようとしたことも、許してもらえるまで何度でも謝りますから。友達からでもいいです、あなたの傍に置いて下さい!」


情けなくてもみっともなくても、ミリが傍にいてくれるなら何だっていい。


頭を下げて彼女の返事を待つ。心臓が潰れそうなくらい痛かった。


「……待たせるだけ待たせて、君を選ばないかもしれませんよ?」

「選んでもらえるまで何度でもチャレンジします」

「前にも言いましたけど、他にいい人がいたらそっちを選ぶかもしれません」

「全力で邪魔します」


オレの答えに彼女がふっと笑ったのが分かった。思わず顔を上げると、微笑みながら呆れたようにこちらを見ている彼女と目が合う。


「そんな宣言をされても困ります。大体、待たせに待たせて私が子供が産めない年齢になってる可能性もありますよ。藤堂家には跡取りが必要なんじゃないですか?」


何だ、そんなこと。

彼女が口にした中で一番どうでもいい問題だ。


「オレには弟も妹もいるんでどうとでもなります。それにオレはあなたとの子供が欲しい訳じゃない。あなたが欲しいんです」


何があっても冷静沈着な彼女がハッと驚いたような顔を見せる。

何かまずいことを言っただろうか? あ、もしかしてミリは子供が欲しいのかもしれない。


「もちろん、オレもあなたとの子供なら可愛いに決まってるし欲しいですよ? できるまで頑張ります、それに関しては自信があるので任せて……」

「誰もそんなことは言ってません」


彼女の手を取って力説したら、あっさりと振り払われてしまった。


小さな柔らかい手。もっと握っていたかったな……

へこんでいるとまた彼女が笑った気配を感じる。


「そこまで言って下さるなら、まずはお友達からお願いします」


それはそれは可愛い笑顔で手を差し出してくれたミリを、思わず抱き締めてしまったのは仕方ないことだろう?



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