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あれから何事もなく家まで送ってもらった私は、無事に3ヶ月のミッションを終えて普通の生活に戻った。
成田さんと色々話した後の残り一週間は、部下1と2の態度の変わり様に苦労しました。
今屋さんはまた土下座をしてプリンを10個も差し出してくるし、仲井さんは私の送り迎えをすると言い出す始末。
あのイイ声で「今度こそあなたを守る」なんて言われて少しだけときめいたら、成田さんが無表情で部下2の腹を殴っていた。王子様は意外と狂暴でもあるらしい。
そして、そんな私たちに引き攣った笑顔ながらも変わらない態度で接してくれた雪野さんにも感謝している。美人は忍耐力もある。
平凡で平穏な生活に戻り、あの慌ただしい日々からあっという間に2年が過ぎようとしている。
今まで通り、課長の魅力に癒される生活を送っていたそんなある日のことだった。
ニュース番組で藤堂グループが今までにない業績を上げたことで、社員の給与のベースアップや賞与を出すらしいという話が取り上げられていた。
景気の良い話だ。成田さんも頑張っているかな、なんて思っていると、テレビに映った顔に驚いた。
さらさらの天然茶髪に大きめなのに甘すぎない綺麗な瞳。記憶の中のままの成田さんが何やらインタビューを受けている。
内容聞いていると、子会社へ武者修行に出ていた御曹司が戻ってきて早速結果を出した、とか。
やるじゃないの、さすが元王子様。
今となれば、何だかあの3ヶ月は夢のようだった。嫌な思いも沢山したし、彼らのダメな面に更に呆れ返ったこともある。だけど、反対に良い面も知ることができた、ような気もする日々だったと思う。
特にあの日、成田さんと話をしたことでミリファを苦しめていた呪縛が解けた気がした。
もしかしたら、私は新たな気持ちで新しい人生を歩み出せるかもしれない。だから、あの時彼と話したことは夢のような出来事で、良い思い出のままでいいと思っていた。
あれからもうすぐ2年、最後に別れてから成田さんとも部下1、2にも、もちろん雪野さんにも一度も会っていない。
連絡は取らない、と言ったのは私だ。彼らは嫌だと言ったけど、変わらずに会える関係のままなら私のあなたたちに対する見方は多分変わらないままだろう、と伝えたら渋々ながらも納得してくれた。
実際に会えなかった間に、私の、というかミリファの気持ちがかなり落ち着いた気がするのだ。
利用されたことは多分完璧に許すことはできないだろう。だけど、彼らはあのことを悔み、生まれ変わってもミリファのことを忘れずにいてくれた。
そして何より、ロード様があの時ミリファだけを愛していた、そう告げてくれたことが彼女の心の闇を消し去った気がするのだ。
女って生き物は単純なものですね。そこに愛があれば大抵のことは許せるんですから。
いつか私にもそんな愛が訪れる日が来るのか。
久々に成田さんの顔をテレビ越しに見ながら彼の言葉を思い出す。
3年、いや2年。待っててほしいと言ったその言葉を信じてなどいなかった。
前世の闇に光が射したのなら、過去に捉われることなく私たちは今を見ていくべきだと思ったし、お互いに違う未来を描けるはずだと思ったから。
『ご結婚のご予定は?』
テレビの中では美人なインタビュアーが、少し期待を込めたような目で彼に聞いている。
そんな話は関係ないんじゃ、と思うけど、これだけの美形が独身だと気になるのが人情だろう。
『ありますよ』
その言葉に心臓が小さく揺れた。それはミリファの心か、それとも……
『約束してるんです。もう少し地盤を固めてから、とも思いますが、そろそろ私が限界ですので迎えに行こうと思っています』
テレビの中の彼が堂々と宣言した瞬間、インターホンが鳴った。
まさか、と思ってしまったのだ、私は。
一体いつから私は、ミリファでなく山田美里は彼に捕まってしまったんだろう。
ゆっくりと立ち上がり、インターホンの受話器を持ち上げる。すると、受話器の向こうから聞こえてきた声とテレビの声が見事に重なった。
『お待たせしました、ミリ』
end
これで本編は終了となりますが、後数話番外編が続く予定です。
たくさんの方に評価していただき、そして読んでいただきありがとうございました。